黒井 光(ひかる)の物語
今日の2本目です。
え、自己紹介をしなきゃいけないの?めんどくさいなあ。
俺の名前は黒井 光もうすぐ中学生になるまだ小学6年生のただのガキだ。そうだよ、俺は自分がガキだって自覚がある。だからその立場を存分に楽しもうって、そう思ったんだ。
よくさ、子供は子供らしくしろって言う人たちいるじゃん。俺はさ、それを聞いてひらめいたんだ。子供らしくするのって許されるんだって。だって子供らしくってさ、さぶっちゃけ大人がやるとヤバいこと、多いよね。でもそれをやれって言うんだからさ、やるしかないよね。
俺が標的にするのは大人しい系の、人を疑わないタイプの人間だ。何の標的かって?それはもちろんエロでしょ。
あくまでも子供らしいエロを追求することで相手が勝手に納得してくれるのがミソだ。俺はこれでおっぱいまでイケる。中学生になったらもうできない、このフィーバータイムを俺は今、全力で楽しんでいる。
俺はもうだめだ。死んだ。いや生きてる意味がない。俺がちょっと当たり屋で稼いでいたら、それをバラされたのだ。
くそ、正のやつ。自分に自信のない雑魚キャラの癖に。俺には分かってるんだ、あいつは学校じゃ誰からもバカにされてる大したことのない奴だって。それが俺を嵌めるなんて。
今は、雌伏の時だ。反省して大人しくしていよう。周りの大人に怪しまれると今までの子供エッチチャレンジまでばれてしまう。でもこの恨みは必ず返す、正が油断する時を待つんだ。
輝の言うことなんて聞くんじゃなかった。最悪だ。正ごときに裏をかかれるなんて。いや認めなくてはいけない。正は最強キャラだ。手を出すべきじゃなかった。くそ、ホントは俺のが最強キャラのはずなのに。なんで誰も認めないんだ。クラスの女子も、ミホちゃんも。俺は大人だって手玉に取れるんだ。もっと俺をそんけーしろよ。
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晄のおっさんから連絡が来た。俺はもう正には関わらないって言っておいたのに何の用だろう。
「へえ、鈴がバイト。」
たしか鈴はあのイケメンとイイ感じになっていたはずだ。
イケメン。あいつのことを考えるとイライラしてくる。さぞかし楽しい人生を送っているのだろう。俺がいい目を見れるのもあと僅かなのに、イケメンは顔だけでこれからも一生いい目をみれるのだ。そう思うと何の恨みもないけれど多少の不幸な目に会わせるのもいい気味だと思えてくる。それに、これは正にも痛い目を見せることができるかもしれない。
俺はおっさんに返事をする。
『イイね。オレもその話に乗るヨ。』
ラインに書いてあった喫茶店に着くと連絡の通り、鈴が店員として働いていた。
さて、俺が任されているのは簡単な仕事だ。それこそ子供らしく振舞うだけの。
「いらっしゃいませ。あ、光くん、どうしたの?いらっしゃい。」
「こんにちわ、鈴ねえちゃん。すごいきぐうだね、たまたま入った喫茶店で鈴ねえちゃんがはたらいてるなんて。」
わざとらしい言葉だったが鈴が疑う様子は無い。初めてのバイトで緊張しているせいかあまり気が回らないのだろう。
光は屋根をちらりと見る。あそこから晄が見ているはずだ。ラインを通して指示が来るのを待つ。
晄は裏方として働いているのを利用してまだ鈴に自分の所在をばれていないようだ。そのおかげで鈴が警戒する様子は無い。
光のスマートフォンが震える。来た、合図だ。
「うわーすごーい。このコップかっこいー。」
光が鈴の目を盗んで棚に飾ってあった高そうなティーカップに手を伸ばす。
明らかに客に出すためではなく店に高級感を持たせるために装飾用のそれは、本来なら棚のガラス戸にカギがかかっているはずがあっさりと開いて小学生の手に届いてしまった。
「あ、こら駄目よ。これは割れたら大変なんだから。」
「ごめんなさーい。」
少し慌て気味に鈴が光からティーカップを取り上げる。店長から扱いに気を付けるよう口を酸っぱくして注意されていたので鈴は強引になってしまったが光が案外すんなり手を離したので大事には至らなかった。
鈴は安心した。そして、油断した。
ドン。
光が鈴の体を押す。ティーカップを上に掲げ光から遠ざけていた鈴はバランスを失いすぐそばにあった棚に寄り掛かる。ほんの少し衝撃で棚が揺れた。本来ならば大したことにはならなかっただろう。しかし、何故か棚から半分だけ出ていた受け皿がその揺れで落下する。
ティーカップには対になる受け皿がある。そのためティーカップは受け皿とそろって初めて本来の価値が決まる。その大事な受け皿がゆっくりと床へと吸い込まれ、砕け散った。
喫茶店の中は静まり返っている。
何が起きたのか正確に見ていた者は少ないが、しかし物が割れる不快な音は何か悪いことが起きたことを容易に想像させた。最初に口火を切ったのはこの喫茶店の店主だった。
「な、なんてことを、これは、大切な預かり物で、」
「おやおや、何の騒ぎですか?ぬふふぅ。」
店主がもう少しで鈴を怒鳴りつけようとした瞬間、まるで見計らったようなタイミングで晄が現れる。
「おやおや、これはこれは。このカップは私が店主に店に飾ってくださいと預けていたものでねえ。なかなかの舶来物なんですよ。いやーまいりましたね。」
「あの、これは、私じゃなくて、光くんが、」
「おや、そちらの坊ちゃん、怪我をしているじゃないですか。」
見ると光の指から血が出ている。破片で切られたことが分かるようにすぐそばには血の付いた大きめの欠片が転がっていた。
「えーん、痛いよー。」
こうしておけば同情を買えるし、責任も有耶無耶にできる。光はよく知っていた。
「すいません、黒田さん、必ず弁償させますので。そちらの坊やにも親御さんに治療費を出さないと。」
鈴が言い訳をする間を与えないよう晄と光が店主を誘導する。面白いように話が転がっていく、坂道を落ちていく。その様子を二人の悪意が見ていた。
こうして鈴は何の価値もない偽物に100万円を払わなければならなくなった。




