あと91日
NTR進捗状況
ヒロインが汚いおっさんに連れていかれた。
田中 正 :主人公、・・・。
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
黒田 晄 :汚っさん、女子生徒をいやらしい目で見ることに定評のある男性教員、生活指導に熱心。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き、幼馴染に邪なちょっかいをかける。
「あっ。」
正は膝から下の力が抜けるのを感じた。もつれた足は糸が切れたように言うことを聞かず、正の意に反して前に進んではくれない。そのまま前のめりに倒れ込んだ上半身はやすりの様なアスファルトに削られる。じんじんと痛む手のひらは見なくてもどんな状態か分かる。
もういいんじゃないか?いや、この数秒で息は戻ってきてる。車になんてどうせ追いつけない。信号がいくつかある、そのどれかに捕まっていれば。この怪我なら言い訳も立つだろ。誰を納得させるための言い訳だ。
体が休息を欲して正を諦めさせようとする。これ以上は命に関わるという防御機構が正の心と相反する意思を持つ。正の心をボイコットするように足が震えて立ち上がることを拒否する。心の暗い隅にある一部が体の意見に同調し始める。
悔しくて手のひらをギュッと握る。傷の痛みは正を責めるだけで力を貸してはくれない。ただの自己満足の自傷行為にしかなりはしない。
正はうつむき、そして、正の横を風が通り過ぎた。
風は美しい流線型をしていた。人間の体とカーボンでできた自転車はまるで生まれる前からそう組み合わさることが綿密に計画されていたかのように互いを不可分のものにしていた。高い身長に見合った長い脚はわずかな力さえ無駄にならぬようにタイヤの回転とリズムを合わせている。自転車の車体を骨とするならば、それを動かす筋肉であることを己にかしている。人が最速を追求した先にあるもう一つのフォーム。地面と平行になるまで前のめりになったその姿勢は走ることを極限まで追い求めた答えにふさわしい。その名を体現するように駿は車すら逃がさない。
坂道を駆け下り晄の車にぴたりの横付けすると、駿はためらいも無く前に出た。走る車の前を命がけで走る。そんな極限状態でも駿の姿勢はぶれることは無い。むしろ車を運転している人間の方が動揺を隠せない、右に左に駿をかわそうと無様にもがく。そして、目の前数メートルも離れていない自転車に視線を奪われた車は当然のようにコーナーでガードレールに車体をこすりつける。制御を失い急ブレーキのタイヤ痕を残しながら車が止まる。
「おら!出てこいよ、おら!」
いつの間にか輝がママチャリで追いつき、止まった車を足で荒っぽく蹴る。ようやく追いついた、というより全てが終わるのを見計らってから登場した輝はまるで自分の手柄のようにイキリ倒していた。
「ほら、鈴ちゃん、もう大丈夫だよ。」
輝は後部座席のドアを無理やり開けると鈴の手を引き外に出す。
「怖かっただろう、もう大丈夫だよ、ほら俺が居るから。」
恐怖で涙ぐんだ鈴をあやすように輝が言う。さっきまでの絵に描いたような育ちの悪さとは打って変わって猫なで声で心の隙間に潜り込む性根の悪さが癇に障る。しかし、心細さと嫌悪と絶望とそこから解放された安堵感で鈴は人を疑うことを知らぬ子供のように輝の言葉に頷いていた。晄は鈴に皆の注意が向いている隙に車を発進させて逃げ去る。しかし、もう誰も晄には見向きもしない。鈴を気遣って駿がうるさくする輝をいさめる。
やさしく、駿が鈴の頭をなでる。ひかれるように鈴の体がそちらに傾く。2人が寄り添う姿を、正は見させられた。
正は、正には一つの感情しかなかった。正の顔は憎悪に歪んでいた。鈴の隣にいるのは正のはずだった。あきらめてなどいなかった。鈴を慰めるのは正のはずだった。もう少し休んだらまた走り出すつもりだった。鈴の涙をぬぐうのは正のはずだった。そうすれば、きっと信号に捕まった車に追いつけるはずだった。鈴の顔に笑顔を取り戻すのは正のはずだった。車のドアをどうにかして開ければ鈴を助けだせるはずだった。鈴が隣にいて安心できるのは正だけのはずだった。相手が大人だろうが殴り勝てるはずだった。鈴のそんな表情を知っているのは正だけのはずだった。
そこにいるのは僕のはずだった。
本作の登場人物たちは特殊な訓練を受けています。本作に出てくる行為を真似しますと最悪命を落とす可能性があります。
車の前を自転車で走る行為は絶対に真似しないでください。
また、寝取られはあなたの脳を破壊してしまうかもしれません。
以上の点に注意しつつ本作をお楽しみください。




