7.異常な下校路
追い越して行ったパトカーを見送るとまた続々とパトカーの群れが俺達を追い越していく。
…何か大きい交通事故でもあったのだろうか?
「なあ六森!これって何か事件があったんじゃないか?という事は動画撮影のチャンスが俺にも来たんじゃ!」
木田も同じように事件性を嗅ぎつけたのか興奮をしている。
まあ俺と違って木田は野次馬根性丸出しだけどな。
「ちょっと…危ないから回り道したほうがいいんじゃないかしら?」
清水さんの言う事は至極もっともな事だと思う。
…思うんだけどけどここから回り道って…結構遠くになるんだよな。
「私もそう思います。できるだけ離れた方が安全…ではないかと」
神田さんも清水さんに同意見のようだ。
うーん、そうだな。
「ここから迂回すると遠回りになりすぎるからな。俺はこのまま行けるところまでは行くよ。本当に危なかったらお巡りさんが途中で止めるでしょ?不安だったらここで別れるというのもありだしそこは個人の判断で決めればいいんじゃないかな」
「お、六森は話が分かってるな。当然俺もこのまま行くぜ」
「ちょっと六森…女の子連れてるのにそんな発言が出るってどうなのよ?」
木田は諸手を挙げて俺の意見に賛成のようで、清水さんは不満たらたらのようだ。
何か問題がある発言でもしただろうか?
「はぁ…まあいいわ。とりあえず進んでみましょ。単なる交通事故の可能性が一番高いからね」
清水さんは渋々といった感じで同意する。
…心配なら女性陣は回り道をすればいいだけなのにな。
何はともあれ軽率な判断をして俺達はこのまま進んでいくことにしたのだった。
しばらく歩いていると段々と人が増えてきた。
ある人は周りの人と雑談をしながら、ある人はスマートフォンを片手に狂喜しながらサイレンの鳴っている方角へ集まっていく。
何が起きたのか気になる野次馬が多すぎる。
まあ俺も何が原因か知りたくなるけどそこまでして知りたいかという気持ちである。
…ただ単に面倒くさがりというだけかもしれない。
しばらくすると前の方でパトカーが道を塞いでいるのを確認できる。
その手前では多数のお巡りさんと野次馬が押し合いへし合いになっている。
ここを通って帰宅するのは無理そうだな。
「うーん、やっぱり清水さんの言う通りにすればよかったな。あれだと通れなさそうだし戻って回り道しようか?」
「最初からそうすればいいのに。急がば回れってよく言うでしょ?」
「えー、せっかくここまで来たんだから近寄ってみていこうぜ」
清水さんと神田さんは溜息を吐いて来た道にきびすを返している。
木田はまだ未練があるらしくだだをこねている。
「行きたかったら行ってきていいぞ?俺は帰りたいから回り道するため清水さん達と戻るからな?」
「えー薄情も…」
木田がふざけて裏声を出して女声で駄々をこね始めたその時である。
パン、パンと乾いた音が連続で空に鳴り響く。
方角としてはパトカーの先だろうけど?
「車のタイヤがパンクでもしたのかな?」
「それにしては変ではないでしょうか?連続して車のタイヤがパンクするなんて中々ないと思います。そうするとこれは…銃声ではないでしょうか?」
えー銃刀法がある日本で銃声?
それはないんじゃないかと思うけどな。
「という事は強盗とか人質立てこもりとかが起きたんじゃないか?なおさらこれは撮影のチャンスじゃないか?」
「やめなさい木田!流れ弾が飛んで来たらどうするの!ここはなるべく早く離れましょう」
「俺も清水さんに賛成だな?神田さんもそれでいい」
「はい、怖いのでなるべく早くお願いします」
「大げさだよなーせっかくのチャンスなのにーー」
「もう、馬鹿言ってないでとっとと歩き…」
木田を叱ろうとしていた清水さんが木田の方を向いたまま固まっている。
いや、視線は木田のちょっと上?
何があるのかと俺も清水さんの視線に合わせて上の方を向いてみる。
すると何か空をくるくる回りながら飛んでくるのが目に入る。
あれかな?
きっと亀の怪獣が空を飛んで…じゃないって!
「ちょッと何かが飛んで…」
「とりあえず避けろ!」
俺は警告を発したけど結果として俺達は避ける必要は全くなかった。
その回転している自動車は俺達の頭上を高く飛んで通り過ぎ…近くの建物の二階に突き刺さり爆発炎上した。
あっけに取られて赤々と燃えている車と建物を呆けて見ていてしまったが、神田さんが一番早く立ち直る。
「は、早く逃げないとまずいですよ!?」
「そ、そうだな。木田!行きたいならお前だけで行けよ?俺は絶対に行かないからな」
「馬鹿野郎!車が空飛んでくるって何だよ!?ここまでやばいと分かったら逃げるに決まってるだろ!」
一方、前方にいた野次馬も事態が把握できたのか一目散にこちらへ逃げてくる。
野次馬を通せんぼしていたお巡りさんの大半は拳銃を抜いて車が飛んできた向こう側へ構えており、残りは避難し始めた野次馬達の避難指示に…ってあの婦警…涼姉か?
「ちょっと六森!呆けてないで早く逃げるわよ!」
「いや…ちょっと知り合いがいて…」
俺がまごついている間にも一斉に拳銃の発砲音が鳴り響く。
いつもの穏やかだった日常は急速に異常へと変わっていくのだった。