4.どうやら俺にポーカーフェイスを使えないらしい
きもかわ生物がパッと瞬時に消えてしまうと俺の目の前からスキル管理画面も消滅する。
…とりあえずどうするか?
何かチートを早く試してみたいし、最後にあいつが言っていた介入って何なのかきになるしなー。
けど今は学校だ。
とりあえずもう起床時間だしとりあえずは日常通り朝飯食って学校行くしかないだろう。
親を心配させるわけには行かないからな。
俺はベッドから這い出ると着替えを始めた。
…そしてあれから3日が過ぎた。
結果を言おう。
何も進展はしていない。
理由は単純明快だ。
俺が優柔不断で踏み出せないからだ。
まずは、お願いできる女の子がいない。
いや、いないという事は無いけどそれはそれで別の問題が発生する。
その別の問題というのはこんな突拍子もない話をして変人扱いされないかという事だ。
話を持っていける相手だからこそ…よりその反応が怖くなって一歩を踏み出せなかったのだ。
まだある。
こんなチートスキルを持たせるという事はこんな話を持っていける親しい人間を戦わせるという事だ。
しかも自分は戦えないのにだ…。
恥ずかしさや罪悪感等が俺の心にのしかかり、結局何も決断できず何もしていないのだ。
あのきもかわ生物と話していた時のテンションはなんだったのかというぐらいに今の俺は情けない。
未だに朝食のトースターを咥えながらため息を吐き出し続けている。
「ちょっと、翔平!何で気が落ち込んでるかはわからないけどそろそろ学校の時間よ!」
「…あ?」
壁にかけてある時計をよく見たらもう家を出ないといけない時間だ。
俺は慌ててトースターを胃に仕舞うと椅子から立ち上がる。
「悪い、学校行ってくる」
「ちょっと翔平!少しだけ待ちなさい」
何だろ?
呼び止めるなんて珍しいな。
母が小走りに駆け寄ってくるとこちらの顔を覗き込みながら問い詰めてくる。
「あんた最近元気ないけどどうしたんだい?結構長い事塞ぎこんでいるけど困ったことがあるなら相談しなよ」
…参ったな親にもばれるぐらいに顔に出ていたのか。
駄目だなもっとしっかりとしないといけないけど…切り替えは難しそうだな。
後、あまりマイナス面の悩みじゃないから心配されるだけこまるな。
「大丈夫、本当にどうしようもなくなったら相談するよ」
「出来ればそうなる前には相談してほしいだけどね…抱え込み過ぎるんじゃないよ?」
そう言うと母は台所の奥へと戻って行く。
そういやもう今年で四十…いや、敢えて言うまい。
心の中だけならともかく声に出してしまったら俺の身がどえらい事になってしまうだろう。
…よし、墓穴を掘らないうちに家を出よう。
「わ!」
家を出て歩いてすぐに背中を強く叩かれる。
びっくりして後ろを振り向くと…見知った顔の女性が笑顔で立っていた。
「涼姉…か」
「翔ちゃん最近元気ないぞ?大丈夫?後、涼お姉ちゃんと呼んでよね」
肩を叩いた人の名前は上原涼子、お隣に住んでいるお姉さんだ。
肩まで伸ばしたウェーブがかかったロングヘアに柔和な表情は親しみやすいとご近所さんの間でも評判である。
小学校時代は涼姉が6年で俺が1年、そこで面倒を見てもらって以来、頻繁に世話になっている人だ。
まあお隣さんとして家族ぐるみの付き合いがあったんだけど…確か涼姉の両親は海外に在住しているので一人暮らしだ。
何でもパリの暮らしが気に入ったとかで即日決定して行ったらしい。
…話が逸れた。
涼姉にもわかるぐらいに出てしまって心配かけていたか。
俺の感情が表に出すぎてしまうコントロールの無さはかなり深刻だな。
「ああ、大丈夫だから心配しなくていいよ」
「そう?無理しないでお姉ちゃんに相談しちゃってもいいんだよ」
「うーん今はいいよ。それよりも仕事はどうしたのさ?警察官が遅刻とか洒落になんないぞ?」
「うう…翔ちゃんが二回目の反抗期だー。お姉ちゃん悲しいです」
…そうなんだよな、俺の中学の時の反抗期の相手が親と…隣にいた涼姉になった。
いやしてしまった。
反抗期が終わった後の恥ずかしさと言ったらそりゃあもう…。
俺が忘れたい過去を必死に埋め直していると涼姉の明るい声が響いて来る。
「なんてね。大丈夫、出勤までの時間はまだ十分にあるから」
うーんこの手玉に取られてる感じ…非常に苦手だ。
そりゃあまあ頼りになるけど何か小恥ずかしい。
俺がため息をついて俯くと正面から強引に引き寄せられる。
「わぷぅ?」
そして柔らかい何かにぶつかると口が塞がれ息苦しくなる。
視界を少し上げて何が起こったか確認すると…涼姉の笑顔が真上にあるじゃないか。
…という事は俺の顔は今どこにあるんだ。
しばらく考える事約数秒、事態を把握した俺は急いで涼姉のふくよかな胸の谷間から脱出する。
油断も隙もねえ!?
「ちょ、ちょ、涼姉!恥ずかしい!他の人に見られてるかもしれないだろ!」
「そうかもね?でもね翔ちゃんの元気が無いのはもっと困るから」
そこまで深刻そうでしたか俺の顔は。
いやまあ、マイナスの方への悩みじゃないからここまで心配してもらうのは本当に悪いんだが。
「そっか、まあ今週中には片付けてしまうから心配しなくていいぜ」
片付ける宛は全く無いけどな!
けど涼姉に言われて踏ん切りはついた。
いつまでも放置しておくわけには行かないからそろそろ進めよう。
「わかった。じゃあちゃんと悩みは片付けておいてね。お姉ちゃんはそろそろ時間がまずいから急いで出勤するね」
そういうとタタタと小走りで駆け去って行ってしまった。
…時間やっぱりまずかったんじゃねえか。
俺も遅刻しないように学校へ行くとするか。