ずっといっしょ
人の生きている匂いのしない寂
れた街。
そこにひとりぼっちの女の子と
その友達のロボット人形がいま
した。
2人はいつもいっしょ。
女の子はロボットが、ロボット
は女の子が唯一の心の支えでし
た。
「ねぇ、あなたはいつまでもわ
たしとおはなししてくれる?」
『そうしてあげたいけど、君が
大人になったらぼくのこえはも
うきこえないんだ』
「そんなのいやだよ」
『ぼくだって。でも、大人に
なっても、ぼくしか君のとなり
にいないのはもっとかなしいことなんだ」
「それでもいいよ、だからあな
たとずっとおはなししていたい
の」
『.....……』
「そのためならわたし、なんで
もするよ」
ーーそれなら、あたしが何とか
してあげようかい?
そのお婆さんはいつの間にか、
2人の前にいた。
「あなたは、だれ?」
「あたしはわるい魔女さ」
「わるいの?」
「ああ、うんとね」
「でも、どうにかしてくれるん
でしょ?」
「ああ、できるさ。その代わり
にあんたらにとって一番大切な
ものをもらっていくよ」
「わたしにとっていちばんはこ
の子なの。ほかのならなんでも
あげる」
『だめだよ、わるい魔女なんだ
よ?』
「けけ、年寄りにはかしこいロ
ボットの声は聞こえやしない。
よ。じゃあ遠慮なくもらってい
くよ」
わるい魔女は、女の子の頬を
ゆっくりとさすりました。
ロボットの背中のぜんまいはポ
ロリとこぼれおちて、体がうん
と軽くなりました。
「じゃあ、あたしはいくよ」
わるい魔女はどこかへきえてい
きました。
ロボットの体から、鉄の肌が剥
がれ落ちて、みるみるうちに人
間の少年へとすがたをかえまし
た。
「やった、ぼくにんげんになれ
たよ。きみとおとなになっても
ずっとおはなしができるよ」
「そう」
女の子はすこしもうれしそう
じゃありませんでした。
しばらく、ふたりでくらしてい
ても前のようにたのしいことは
一つもありませんでした。
少年が何を言っても、何をして
も、女の子はつまらなそうに返
事をするだけ。
ふしぎに思った少年は女の子に
ききました。
「きみはいったいなにをわるい
魔女にあげたんだい?」
「さあ、わからないよ」
てっきり、わるい魔女だから目
とか耳とかを持っていくものだ
と思っていた少年は、まったく
けんとうがつきませんでした。
少年はわるい魔女に会うことに
しました。
深いきりのなか。
たいまつの火をだけをたよりに、
わるい魔女のすむ家にいるなんと
かたどり着いた少年。
けけ、と笑うわるい魔女に、少
年はたずねる。
「わるい魔女さん。あなたは女
の子からなにをもらっていった
の?できればそれをかえしてほ
しいんだ」
「2人にとっていちばんたいせ
つなもの。あいじょうさ」
「ひどい。なんてことをするん
だ」
「それでも、おまえは人になれ
たからいいじゃないか。あい
じょうのない女の子なんか捨て
て、どこぞへいけばいいさ」
わるい魔女は、少年がそんなこ
とはけっしてやらないことを
知っていました。
では、わるい魔女はどうしてそ
んなことをいったのでしょう?
それはもっとずっとほしいもの
があったからです。
「お前は、あいじょうを返して
ほしいからきたんだろう?」
「そうなんだ。おとなになって
はなせないことはつらいこと
じゃないんだ。あいじょうのな
いまま女の子がおとなになるな
んてだめだ」
「じゃあ、あいじょうのかわり
にお前はなにをくれるんだ
い?」
「ぼくにとってたいせつなもの
をもっていってくれ」
わるい魔女はとってもわるそう
にわらいました。
「けけ、それが何かわかってい
るのかい?」
「わからない。でも、いまより
ずっとましさ」
そうかい、そうかいとわらうわ
るい魔女と2人で女の子のとこ
ろへ戻る。
わるい魔女はゆっくりと女の子
の頬をなでる。
その後に少年の背中にぜんまい
を戻しました。
仕事がおわると、わるい魔女は
うんとわるそうにわらいながら
森へと帰っていきました。
あいじょうを取り戻した女の子
はいままでどおりの笑顔でロ
ボットと2人で仲良くおはなし
をしながら暮らしました。
一人の匂いがしない寂れた街。
そこには、歳をとらない一生子
供の女の子と世界一不幸なロ
ボットの人形が暮らしていまし
た。
おわり