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第40話 未来に賭ける希望の芽

 5月20日 火の日 15時00分 騎士団宝物庫


「…………」


 現在俺は騎士団宝物庫で静かに修行をしている。

 以前行った宝箱の鍵開け作業のおかげで広くなった空間を利用させてもらっている。滅多に人が来なくて閉鎖環境で破魔斧の力が漏れ出すことが無く、何より頑丈。

 他の人にとってもこの方が怯えなくてもいいらしい。訓練場を利用する他の部隊の人から不安の声が上がったのも事実。まだまだ安全だという評価は得られてないようだ。

 ともあれ、この修行スポットは外からの魔力が入ってくることも少ないから、本番を想定した訓練もできるだろう。というキャミルさんの慧眼のおかげで本番さながらの緊張感を持って挑むことができている。


「はい、3時間経過。入れ替わってないわよね?」

「相違無く神野鉄雄です! 何か問題はありませんでしたか?」


 俺の周りには等間隔に円を描くように置かれた高さの違う六つの燭台、炎を灯らせないように黒霧で防ぎ続けるのが修行。時間経過で上下に動くカラクリまで仕込まれてると来た。

 中心に座って振り向くことも禁止されているから背後の調節が難しいたらありゃしない。面倒だから燭台全体を包み込んでいるけどキャミルさんは何も言わない。インチキか妙案かどう捉えているのか気になるところだ。


「正直言ってテツオに言うことってあまりないのよね……」

「えっ? そんなに優秀でした?」

「何をバカなこと言ってるの……コレが長時間維持できるようになったのも最近なのによく言うわよ」

「……確かに」


 一瞬褒められるかと期待はしたけれど、甘くは無いよな。

 この破術を長時間維持する修行を続けたおかげで食事をしながら、だらけながら、会話をしながらと別のことをしながらでも安定できるようになった。

 とは言え、戦いながらとなると維持できる期間が極端に減ってしまう。

 魔術攻撃をほぼ無力化できると言っても、敵意や殺気は容赦なく俺に刺さってくる。

 キャミルさんは無効化されると理解している分、訓練とは思えない凝った魔術を放ってくる。

 最近「テツオ相手だと遠慮なく魔術実験できるから助かるわぁ~」何て言ってドラゴンの形をした炎、氷、岩、風の属性魔術の的にされたのが忘れたくても忘れられそうにない苦い思い出だ。

 何とか黒霧で防ぎつつ属性の余波は肉体で避けることでことなきを得たが。えげつないほど精神が持ってかれた。まあ……愛の鞭として飲み込ませてもらったけど。


「術の精度や持続時間に言うことは確かに無いわよ。けど気を付けなさい。どれだけ鍛えても限界時間があるってこと。あの子為にと言って平気で限界を越えようとしないか心配なの」

「もしそれを越えようとしたら?」

「越えられない。命を削るなんて問題じゃなくて命が落ちる。命がけの戦いなら誉れになるでしょうけど高々調合。命の張り所を間違えたらダメよ」


 修業中にあった気絶。おそらくそれが限界のライン。目が覚めた時の倦怠感や眩暈。体に力が入らず筋肉が無くなったかと錯覚するほどだった。

 前後の繋がりが理解できず時を超えたかのように意識が飛んだ、あの時は運が良かったのかもしれない。次はもう二度と目が覚めないんじゃないかって恐怖もある。

 その状態でのレクスに交代は本当に最後の手段になると思う。


「ただ、テツオの場合は魔核(まかく)から絞り出してるんじゃなくて、周囲の魔力を利用しているから普通の人と比べれば負担は少ない。と言っても術の発動に負荷は掛かるのよ。変換した破力が切れて術が切れるなら問題ないけどね」

「わかってますよ。折角違う世界にこれたのに自分から命を捨てるような真似はしませんって」


 自慢じゃないが危機回避や逃げる事に関しては得意中の得意。

 ……本当に嫌になるぐらいにな。それに気絶のラインはもう体で覚えた。だから無様なヘマは起こさない、そんな状況に陥るぐらいなら撤退を選択させてもらう。

 今こうして黒霧を維持してもまだまだ余裕がある、春麗(はるうらら)かな桜並木を散歩しているぐらい心に余裕がある。


「ならいいわ。試験も残り10日切ったからそろそろ本番ね。問題はあの子、ちゃんと会得できてるといいんだけど」

「アンナは大丈夫ですよ。(そら)も近いうちに会得すると信じてますから」


 虚の会得に関しては心配ない。黒霧の中でも活動できるのはサリアンさんで試してもらったから問題無い。

 ただやはり錬金術がきちんとできるか不安はある。前例が無い初めての試み。未開のジャングルを切り開くような億劫感と新雪に最初の一歩を残すような高揚感が入り混じる。

 新たな調合をやりたくないって気持ちは微塵も湧かない。アンナと一緒にやり遂げたいって気持ちは活火山のように湧き上がる。

 これをやり遂げてこそ俺はアンナの使い魔だって胸を張って言えるんじゃないだろうか?



 さてと……テツオの魔術、いや破術漬けもかなり進んだと言っていいわね。

 いくら優れた能力を持っていたとしても精々玩具レベルで扱える程度。身に付けて極めるにはまだまだ赤ちゃんもいい所だけど。

 でも、妙に扱いがうまいのよね……遠慮が無いというのか、本格的な修行に入った時も積極的に失敗して学んでいくし、むしろ楽しんでるしその辺りは尊敬に値するのよね。向上心が異様に高いと言えばいいのかしら? 


「日取りが決まったら教えるのよ。その前日は修行じゃなくて休養に当てるから」

「了解です」


 それに素直。年上とは本当に思えない。プライドとか年上の威厳なんて家畜のエサにしたのかと思ってしまうわ。

 何度か魔術講師として騎士団員の指導をしたことあったけど、誰も聞く耳持たなかった。まあ20越えてもアンナと見た目年齢変わらないんじゃ、従いたくも無いわよね。

 このまま技術を伸ばしていってくれればひょっとしたら私の■■も──


「ん? どうかしましたボーっとして?」

「…………ううん、何でもないわよ。少し向こうの様子も見てくるからサボらず続けるのよ」


 油断した。相も変わらずちょっと考えるだけでノイズが走るのは厄介極まりないわね。

 でも、テツオが破魔斧を使いこなせるようになれば可能性はある。私だけじゃない必ず多くの助けに繋がる。その為にもこれからも鍛えていかないとね。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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