第21話 振り返ればそこに光がある
(全然減ってる気がしない……減ってはいるだろうけど風景に変化が無さ過ぎて辛い……)
先の見えない黒を黒で塗り替えるような作業。耳鳴りがしそうなほど静かで、コウモリが羽ばたく細やかな音も鋭敏に耳に届いてしまう。
飽きと退屈と疲労で意識が飛びそうになっていると徐々に近づいてくる破砕音と硬い物を入れたマラカスのような擦れる音で意識が覚醒する。背中越しに当たる光は薄い影ができる程度であったのに、濃い影ができる程強い光がその身を包み込む。
「お待たせ! ここからが本番だよ!」
堂々と地を踏みしめる歩みで仏の如く後光を放つアンナが姿を現す。
「眩しっ!? そんな道具あったの?」
「現地調達させてもらった! この洞窟にあった魔光石を全部採って来たの!」
「流石の私もその発想は無かったわ……」
発光する物が少ないのなら増やせばいい。単純だが真理。
リュックを開くとより光が煌めきアンナの姿が消える程の光量を生み出していた。
「この鞄をフックに引っ掛けてっと……後はこれを下ろして鞭越しに魔力を注ぎ続ければわたし達の勝ち!」
鉄雄の手段が搦め手ならアンナの手段は力押し。
『フックウィップ』は魔力によって自由に操作が効く、グリップを握り魔力を注げば先端にも影響が及ぶ。
「テツ、そっち詰めて。消滅の力も向こう側にしてて」
「お、おう……」
リュックのかぶせを開いたまま魔光石が零れないようにゆっくりと闇の中に投入していく。進めば進む程まとわりつく闇は濃く光は埋もれていく。
「あっ、底に付いたみたい! でもこれ伸縮自在だから高さわからないんだよね……」
「でもこれで効率は倍以上に跳ね上がるな! 光が見えたら光飲石の採取は目の前ってことだ!」
ムチを垂らす姿は闇に光をともすチョウチンアンコウに見えなくもない。何かを誘引する訳でも無いが。
だが明確なゴールを作ることでモチベーションを釣り上げたと言っても過言ではないだろう。
「なら、私も力を貸すとするわ。キャミルには劣るけど私の魔力量はかなりあるわよ」
ムチのボディを握りアンナが送る量よりも圧倒的に多く魔力を注ぎこむ。
(……よく見ればこの人ってナーシャみたいにぜんぜん魔力溢れさせてないのよね……たぶん見た目以上に魔力がある)
搦め手と力押し。二つの方法によって地中を流れる魔力の量は減り、空間を漂う闇は消滅され続け、下からは輝きが闇を割く。
──そして、その時はやってきた。
「光が……届いてきた! やった!」
「ふぃ~……これで降りられる」
下から溢れる光に達成感と喜びが溢れる。同時に無駄では無かったという安堵感。テンション上げて手を振り上げるアンナとは対照的に壁に背を預け大きな溜息を吐く鉄雄。
ただ、今はまだ門が開いたのと変わらない。放っておけば再び闇に閉ざされる。進む先は約10m程の高さの大空洞。そこに眠る『光飲石』なのだから。
「それじゃ…………あれ? なんか体が全然動かないというか、重い? エコノミー症候群か?」
「よくわからないけど、だいじょうぶ?」
片膝を付いた状態でずっと作業をしていた。だから体が固まってしまった。もしくはリラックスした影響で心が動くのを拒否し始めた。そう考えるが。
「魔術、いや破術の使いすぎね。負担の少ない術でも長時間使いすぎれば限界はくるわ。下には私とアンナが向かうからあんたはそこで待ってなさい」
次の動きを決めていたかのように迷わず自身の荷物からペグとロープを取り出し。ペグを突き刺し、ロープを巻いて反対側を下層に垂らす。
「よっと――!」
そして、ロープを使わず飛び降り、軽やかな音と共に地面に着地する。
「テツはここで休んでて。早めに戻ってくるから!」
「最後まで役に立てずすまん」
「じゅうぶん頼りになってるわよ! じゃあいってくる!」
アンナもロープを使わずに飛び降り、荒々しい音と共に問題無く着地する。
(こんな高さを当たり前に飛び降りてるけど、この世界って重力弱いのか?)
飛び降りた先に闇はまだ残っており沈殿した黒煙のように足元を隠す。
「大体中心はここね。持ってきた魔光石をここにまとめて置いて」
「これで――って、まぶし!」
リュックを逆さまにぶちまけ、光る山を作り上げる。完全に闇を払えた訳では無いが。鉄雄が顔を出せば二人の姿をはっきりと認識できていた。
「これで最悪の状態にはならないわ。上に残したランタンの光と合わせれば帰り道の心配は無いわね」
周囲の風景に目立った特徴は無い。上層から漏れるランタンの光が無ければ方向を認識するのは難しい。
壁際にロープを垂らしていると言っても。闇に紛れれば視認は困難で壁を撫でながら探すことになるだろう。
「とにかく光飲石を見つけないと。え~と……たしか、光が変な風に途切れる場所を――あった!」
ライト片手に周囲を光の線でなぞっていくと、言葉通り光が一部喰われたような場所を見つけ。近づき光を強く当て続けると闇が消え、姿を現す。
「テツ!! あった! なんかブドウみたいなのが埋まってる!」
黒曜石よりも黒く、群体となった球体が岩壁の隙間から覗いていた。
「まさか、こんな簡単に見つけるとは思って無かったわ。素材に好かれる才能でもあるのかしら?」
「あるとわかって動いてたんだからあって当然! それにそんな才能があるならテツが持ってるって。テツがいなかったら手に入れるのにもっと苦労してたはずだから」
タガネとハンマーをスッと取り出すと、目を見張る速度で無駄なく効率的に岩壁を砕いていく。数分の後に光飲石に傷一つ付けることなく軽く引っ張るだけで簡単に取れる程綺麗に手にした。
「はぁ~よかったぁ! ちゃんと手に入れられたぁ」
感極まって手に力が入ると、魔力が漏れ出し反応され手が闇に包まれる。意図せず本物だと答え合わせが完了した。見間違いでもなく欲した物が自分の手の中に収まったのである。
「あぶないあぶない……よし、これでちゃんとリュックに入った」
光の山の近くで指差し確認をしながらリュックに収めることに成功する。
「収まるだけ採っていった方がいいわ。ひょっとしたらここの採石場は再稼働できる可能性もあるから、光飲石はできるだけ無くした方が良いと思う」
「いいのかな? 結構希少って話だからひとりじめはよくないと思ったんだけど?」
「ここにあるのが全てとは限らないわよ、ほらこの先を見て。奥に道がつづいているわ」
ライトの光線が暴くのは岩壁では無く、液体のように闇で満たされた通路。
闇の中で育った闇。ここにある光量では到底引き裂けない密度で埋まっていた。
「なんだか嫌な感じがする……」
「同感よ。バット達はここじゃなくてこの先に隠れてるみたいね。多分隠れているのはそれだけじゃない。だからこれ以上はダメよ。疲労困憊の使い魔と実力不足の錬金術士に準備不足の私じゃ生きて帰れるか分からないもの」
サリアンの言葉に負けじと反論することは無かった。道を見ているだけで背筋に氷が落とされたような寒気が襲って来ていたから。
目的の物を入手できた時点でアンナの理想は達成できた。無理をすべきでは無いことを理解していた。
ただ、他の素材を回収しないという訳では無い。
アンナにとって必要な素材はまだある。気持ちを切り替えて採掘作業を再開した。その結果――
「これも黒いけど……変に軽いこの石って『グラビストーン』!? 本でしか見たこと無かったのにこんなところにあったんだ……」
「これは『黒曜石』。他と間違えそうだから注意しないと……」
「これってグラスリル結晶? 違う、暗くて分かりずらいけど『黒水晶』だ! 未加工で暗いと区別しずらいなぁ……」
「あっ! この冷たさは『冷結晶』! やった! これでアレを作るのに必要な素材がそろった!!」
アンナが望んだ魔力を浴びて属性の力を放出する素材達がここで揃った。だが、鉱山といえど全ての鉱石素材が手に入る訳では無い、銀鉱石やグラスリル結晶は欠片すら見つかることが無かった。
「まだ掘れそうな場所はあるけど……これ以上は入らないからおしまいかな……テツ! 今から戻るから!」
「おーう! こっちは何の問題もないぞぉ! ただ大丈夫か? 結構闇が増えてないか?」
「だいじょーぶ! 方向がわかってるからへーき!」
魔光石の小山があっても、鉄雄は休憩中。光は漏れ出す闇は徐々に飲み込まれ沈殿し、アンナの膝上まで闇位が上昇している。
「さてと……ここまでやったんだから、最後まで気持ち良く終わりたいじゃない?」
「えっ、うん。そうだけどいきなり何?」
「そのためには一つやっておく必要があるのよ。それは――」
企み顔を浮かべ、耳打ちすると。驚き信じられないと言った表情となるアンナ。サリアンの言葉は彼女にとって必要性が分からないものだった。
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