第18話 あの人の隣は私が一番相応しい
4月25日 太陽の日 9時00分 ヴィント鉱山
休みを一日挟み、アンナ達が次に向かったのは希少素材『光飲石』が眠るとされるヴィント鉱山。
ここはライトニア王国北東部に位置する山脈。国内で取引される鉱石類はここで採掘されている。
ヴィント鉱山に到着したアンナ達。けれど、いつもの三人では無くアンナ、鉄雄に加えて調査部隊から一人応援が寄越された。
留守番となったセクリは不平不満を口に出していたがスキルアップも兼ねて寮でのお仕事に専念することになる。
「はぁ……なんで私がこんな仕事をしないといけないのよ。レイン姉さまのお願いじゃなかったら来る気も湧かなかったわ」
「頼みますよ先輩」
「年上に先輩呼ばわりされるのも嫌なんだけど」
「それなら、サリアンさん」
「なんかあんたに「さん」付けされると企んでそうで気持ち悪いわ」
「酷過ぎない!?」
彼女はライトニア王国騎士団調査部隊『サリアン・ラビィ』。鉄雄よりも一年早く調査部隊に入隊した先輩。
鉄雄より少し低めの身長だが肉体の完成度は比ではない。防具が非常に少ない軽装の隊服に身を包み、露出した肌から覗く筋肉に無駄な肉は無い。
そして端正な顔付きに鋭い目つき。ハネッ毛が目立つ黒髪に、黒兎の耳が目立つ。しかしこれは飾りで種族は獣人ではなくれっきとした人間。
加えて大陸神前武闘大会でレイン・ローズの活躍を見てから目を奪われ敬愛崇敬の情を抱き、他国民であったにも関わらずすぐにライトニア王国民となり調査部隊に入隊した行動力を持つ。
(サリアンさん、訓練中めっちゃ俺の事睨んでくるんだよなあ……特にレインさんと一緒に訓練している時の視線がヤバイ……)
破魔斧レクスの危険性は騎士団員全員知るところ。鉄雄がいくら注意深く使用してもイレギュラーの芽はいつ芽吹いてもおかしくない。
故に技術力、反射神経に加えて手加減の心得を有しているレインが付きっきりで訓練相手となっている。
それが彼女にとって気に喰わない一つ。その場所は元々彼女がいた場所。憧れの存在と高め合った至福の時間。
だからこそ急に湧いて出て奪い取った鉄雄という泥棒猫の存在が骨の芯から気に入らないのも無理は無い。
そんな間柄にどこまで気づいているか知らないが、レインは彼女に任務を与えた。
『カリオストロ』との接触報告後、ヴィント鉱山に採取に行くために休むことを伝えた鉄雄、無論快諾された。
ということは無く、説明を受けることとなった。
最重要としてヴィント鉱山は所有物であるという事。
採取をするためには鉱山を管理している『マイネ採掘会社』から許可を取る必要性がある。しかし、彼等にとって商品の眠る山である。コネクションもないただの人間にそんな許可が下りる訳が無い。錬金科の生徒であってもである。
だが、全てに抜け穴は存在する。
ライトニア王国騎士団調査部隊。その名の通り調査をするために結成された部隊。
採石場の調査も仕事の一環。使われなくなった鉱山道へ何かが巣食っていないか、周囲の生体調査、採取できる素材の調査等の名目で堂々と鉱山内に入り込み採取を行う。新人の育成と交流を加えて。
「早いとこ済ませて帰るわよ。こんな男臭い所長時間いたくないわ」
「わたしは色々採取したいんだけど」
「期待しない方がいいわ。私達が行くのはご立派な物が豊かに飾られてるような宝石箱じゃないんだから」
山の中腹に到着すると人工的に作られた平地が歓迎する。そこでは薄着の益荒男共がつるはしやシャベルを片手に汗を流し岩石に向かって作業を進める姿に作業員が休む小屋や採掘道具を収め整備する小屋が連なり。土埃の匂いと破砕音が響き渡る。
三人が向かったのは採石場を管理する者がいる他よりも造りが堅牢な建物。
そこに入ると身なりの整えられた人物と応対することになった。
「本日は調査とお目見えのようですが、今現在私共の採石場では危険な獣もいませんし、防衛部隊の方達が見張りをしてくださっていますから問題は無いと思いますよ?」
国の屋台骨の一つに騎士の守護が無い訳がない。常在している防衛部隊の騎士が数名おり、この建物にも見張りとして存在している。
だが、その程度のこと百も承知と言わんばかりにひるむ欠片見せずに口を開く。
「隊長も承知済みなのでご心配なく。今回は稼働している採石場とは違う場所の調査を予定していますので。ヴィント鉱山は広く、廃棄された採石場や掘り進むことを断念した場所も多いと聞いています。今回はそういった人が寄り付かなくなった場所の調査となります」
「確かに……最後に調査したのは数年前。調査部隊が活発な頃でした……危険が無いと証明できれば皆も安心してつるはしを振るえることを考えれば……」
山に穴を開けて掘り進んだ採石場。その全てが潤沢な資源の宝物庫であった訳では無い。魔獣の巣穴に横穴を開けたり、自然が作り上げた落とし穴や落盤と言った出来事に苛まれることも珍しくない。
結果途中で断念し禁足地と指定し作業者が踏み入らないように定めていた。
故に、現状は何が潜んでいるのか定かでは無く不安の種でもある。
「決まりですね。探索が終了次第報告に戻ります。さっ、二人とも行くわよ」
(俺の対する態度はともかくとして仕事は真面目にこなそうとするんだな……)
(沢山鉱石が飾られてるけど、ここの人達もあの店員さんみたいに石好きなのかな? あっ! あの石珍しいのだ!)
建物を後にすると三人は錆び付きギリギリ文字は読める立ち入り禁止の看板を無視して踏み入り、草が生い茂る坂道を下ること数分。
人の出入りが無くなり緑が伸びてきた採石場の入り口の前に到着する。
「明らかに危険な場所は足手まとい二人じゃ無理ね。ここの作業が困難となって廃棄した場所から調べるわよ」
(一言多いな……俺はともかくアンナは違うんだが?)
「こうみえてもわたしは採掘の手伝いをしたことあるの! テツはともかくあなたよりも山や洞窟に慣れてるから!」
「ま、精々その高くした鼻を折られないようにしなさい。迂闊な行動しない限りは守ってあげるわよ?」
「むぅ~!」
得意顔に対しての挑発染みた言葉と表情にアンナも感情が高ぶり始める。鉄雄はそれを手で制しなだめる。
「落ち着けアンナ、行動で示せばいいって。サリアンさんも仕事ならわざわざ足並み乱すような事言わないでください。帰る時間が無駄に遅くなるだけですよ」
「それもそうね、早速侵入するわよ」
「絶対負けない!」
「勝負じゃないっていうのに……」
こうして調査部隊の仕事を行いながら目当ての素材を散策する探検が始まった。
次回 11月1日 10時投稿予定
本作を読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら
ブックマークの追加や【★★★★★】の評価
感想等をお送り頂けると
脳が湧きたつぐらい簡単に喜びます!
執筆のペースも跳ね上がる可能性もあるので気になる方はよろしくお願いします!




