第10話 今日の敵は明日の素材! その1
4月22日 風の日 7時20分 平野
寝るのが早ければ起きるのも早い。日が昇り始めるとアンナはすぐに目が覚めた。
気力体力十全のアンナが朝の作業を率先して行い、あっという間にゴーレムがいるとされる平野に到着した。
「ここがゴーレムがいるって平野か……確かに他と比べて不自然に木々が無いな。クレーター状だしまるで隕石でも落ちたみたいだ……」
上空から見下ろせば、アンナ達が立っている平野はまるで木々が抜け落ちたミステリーサークル。
元々は広い森林の一部であったと推測できる加えてそこは、平坦な土地に罠の様にできた窪地でもあった。
「ゴーレムが木を根付けないように色々やってるって本に書いてあった」
「問題はどうやって見つけるんだ? 地中に埋まってるみたいだけど、不自然な凸凹なんて無いしむしろ不自然なくらい綺麗な平らだ。とっかかりがない」
「この地にいるって噂だったよね?」
「うん。それに本によると滅多に現れないから根気よく待つって書いてあった。水と食べ物は問題なさそうだけど持久戦になったらどうしようもないかも」
ゴーレムは魔力を取り込み土や岩を生み出す、それらを纏い組み合わせ身体を作りあげる。
大地に宿る魔力。雨によって地に溶ける魔力、風に吹かれてやってくる魔力。それらを独占するために外敵を排除し満足すればより魔力を得られる土地を求め移動する。
このように誰もいない平坦な場所であってもその下にはどれだけ成長したゴーレムが潜んでいるか分からない。野生動物も危険性を本能的に理解し寄り付かない。
「となるとどう引きずり出すか? だな。騒いだりしたらいいのか?」
「大地に痛覚も聴覚もないと思うよ。このまま踏み込んでも何も起きないんじゃないかな? 手っ取り早い方法としては爆弾か何かで地形を崩せば危機を感じて移動するとボクは思うんだけど」
「わたしは反対。自然の力を借りる錬金術士がむやみやたらに自然を壊すのは良くない。土地に感謝していっしょに生きていかないと」
錬金術は自然で生まれた素材を組み合わせ物を生む。自分勝手に自然を貪り、物を生み出せばいずれは自然のバランスが崩しかねない。だからこそ、「ヴィント森林区域」といった自然環境を意図的に残し、管理する場所が作られているのである。
「となるとやっぱり俺の出番のようだな……!」
「え!? 踊ったりしても出て来るわけじゃないよ!」
「ふっ。躍り出るのはむしろあいつらの方だ」
この世界にきてここまで自信に溢れた表情を見せたであろうか? いや、無い。つまりはこの閃きは確実性が高いことを示している。堂々とした歩みで平野の中心に辿り着き、取り出したるは改名せし「破魔斧レクス」。
初陣の時である。
「難しく考える必要はない。要はここにいたくないと思わせれば良いってことだ!」
レクスを地面に突き刺し、吸収魔術を発動。根を伸ばすかのように魔力を奪う範囲を地中に広げる。形は霧だけにとどまらない。糸のように細く長く、液体のように細かい隙間に染み入るように広げる。訓練によって新たに知ることができた可能性。
「──あっ、なるほどね! 確かにあの方法なら大きく傷つけることなく出てくるかもしれない!」
魔力が得られないだけではない。そのままにしていれば溜め込んだ魔力も奪い取られる可能性。地中では素早く動けない明確な危機に襲われる。
安全に胡坐をかいていた故の弱点。
(中々良い具合に吸収できとるのぉ……お、どうやら釣れたようじゃな)
「おお!?」
足元が揺れ動き地表に亀裂が生まれる。
亀裂からめくれるように地面がせり上がり、土が噴き上がる。そして、大地から脱皮するように土と岩石が入り混じった体が姿を現す。鱗状に岩石が付着した石柱の両腕、堅牢巨躯な上半身に比べ粗末な下半身をした人型の巨体。通称『大地の巨人』である。
「思った以上のサイズじゃないにしても、圧がヤバイ! まるで重機だ!」
高さ2m強、横幅も同等。頭部より魔力の光が目のように漏れ出す。重厚重圧、大地より生み出されし存在に違わぬその身の密度は他を追従を許さない。
「テツ! こっちに戻って! セクリは荷物を持って下がってて!」
「了解!」
「分かったよ!」
鞄の中から金属製の二つの棒を取り出し、両端で組み合わせ身の丈程の杖を作り出す。
セクリは森まで下がり、木の影に身を潜める。
そして鉄雄は――
「こうしてちゃんと二人並ぶのは初めてだな?」
「足引っ張らないでよ」
初めてアンナと並び立った。嬉々とした言葉と緩む顔。情けなく背後に立っていた時とは違う。
対するゴーレムは石柱の両腕を前足にして地面を削りながら前進する。触れれば吹き飛ばされるのは登場演出で理解させられた。
(動きは速くない。タイミングを計って消滅の力、純黒の無月を腕にぶつければ楽に倒せるはずだ)
乗っ取られた時に使っていたレクスの技。最高硬度を誇る『プラチナム』を食い破る性能を持つ近接技。単純明快、ただの岩石に防げる理由は微塵もない。
(よし、破力も溜まってる。一発なら確実に打てる!)
騎士団の訓練で多少の体力増加を手にし、手の皮が剥ける度に錬金術製の薬で治し武器の扱い方を染み込ませ、魔力は無くとも少量ながら破力を体内に留めておく術も身に付けた。無力で縋ることしかできなかった鉄雄からは確実に進歩している。
自分がどこまで戦えるようになったのか試しの時間。力を纏わせようとした瞬間――
「テツ! 消滅させる力は使わないで!!」
「おっととぉ!? いきなりどうしてだ!? コアってあの装甲の内側にあるんじゃないのか?」
向こう意気が躓き、疑問を投げかけてしまう。
弱点であり重要器官。胴体を覆う堅牢な装甲に守られていると考えるのが自然。
「その装甲も欲しいの! ゴーレムの身体は捨てる所が無いぐらいいい素材で溢れてる! 特に装甲は『ゴーレムアーマー』って名前が付けられてる! ぜったいに欲しい!」
「なるほど納得!」
倒すことだけなら戦士でも魔術士でも可能。だが、錬金術士は違う。素材として利用できるように相手をできるだけ綺麗に倒すことを考える。事実、昨日狩猟していた角ウサギは皮を切るまで血の一滴も流れておらず、肉はその日の糧となり、骨は肥料へ、毛皮は服飾として利用ができる。
塵芥と砕いてしまえばただ命を奪っただけ、何も残らず、手に入らない。
強力な消滅の力故の弊害。袈裟斬り一振りで正面の装甲は砕け剥がれるだろう。それが意味することは希少価値のある育った天然魔力の岩石装甲を諦めるということ。
だとすれば問題が浮かび上がる。どう攻めるか。どう解体するか。
「わたしは右から、テツは左から! まずは距離を取りながら動きの確認! 黒い霧も見えにくくならない程度なら使っていいから!」
「了解!」
ゴーレムの動きは鈍重、苦の欠片無く対角線に並び挟み込む。この位置取りならどちらかしか攻めることができない。
「黒霧-蛇ー!」
技名の通り蛇状に伸びる黒い霧がレクスより発せられる。訓練場で見せた空間を埋め尽くすものと比べれば範囲は圧倒的に狭いが、貯蓄された破力を無駄遣いしない扱いができ、仲間の魔力を奪わない魔術の妨害をしない点では理に適っている。
腕部に喰らい付き吸収を開始する。この時点で普通なら勝負はついた。鈍重な存在は己の魔力を吸い付くされるのを受け入れるしかない。
しかし、ゴーレムもただ吸われる存在ではなかった。生物のように考え状況を理解し対応する力を持つ。でなければ何のために地中から這い出たのか分からない。
(ん? 腕をこっちに向けて……まさか!?)
重々しい音を響かせながらで石柱の腕が動き、明確に鉄雄に定めて向けられる。
ゴーレムの全体図から想像でき起こせるであろう現象。寒気が肌を駆け抜けると生存本能が体を動かした。
「やばっ──!?」
大きく跳ぶように転がると同時に響く「ドゴン」と鈍い轟音と吹き抜ける暴風。アンナ側に広がる衝撃波。広がる土埃、散乱する土塊と石塊。先程まで立っていた鉄雄の位置には抉れてクレーターとなり禍々しい威力の跡が地面が刻まれていた。
弾を発射した証明を見せつけるように、向けられた石柱に筒のように穴が出来上がっていた。
「だいじょうぶ!? 生きてる!?」
「何とか! 重機かと思ってたら戦車じゃねえかこれ!」
貯蔵された鉱石混じりの土隗。ただそれを高速射出したにすぎない。だが、威力は砲弾と同等。直撃すればミンチとなるのは想像に容易い。
(明確に弱点ついてきたなこいつ!? 俺のファンかよ!?)
魔力を吸収し、魔術を分解する黒霧も万能ではない。調査と訓練で早めに判明した弱所。
それは魔術によって放たれた実物は、黒霧を通っても勢いも物体も消えることはないこと。
次に鉄雄の問題も大きいが、単純に力量と質量に差があれば魔力が無くとも押し勝てること。
大きく二つの弱所があり、目の前の存在はその弱所を突ける力を持っていた。
(錬金術士の使い魔ってのも大変だなこれは!)
ただ勝つをことを求められない。主を守り、目の前の敵を素材へと生まれ変わらせる。それが使い魔の役目なのである。
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