第27話 浮ついた存在を叩き落とす方法!
とにかく何とか拠点まで戻って来られた。
「結果に関しては予想の範囲内じゃったこともあるからうだうだ言わん。アンナ、戦い方や対応策は思いついておるのだろう?」
「もちろん。ここに戻る途中にある程度の対策は思いついてるよ!」
あの身体をバラバラにして攻撃の届かない位置まで浮かび上がる姿が切り札だとするなら自信を持って対策が浮かんでると言える!
拠点のコンテナにある1つの素材を取り出して見せる。
「グラビストーンか、わらわでも思いつくが最高最善じゃな」
「戦場の重力を高めれば浮いている骨も霊石も全部落とせるはず! 強い重力で動けなくなったところを純黒の無月で叩き切れば勝ちだよ!」
うん、完璧!
頭の中で思い描いた絵が綺麗にまとまってる感覚。奇跡に頼るわけでもなく特別な力が鍵になるわけでもない。どうしようもないって不安がどこにもない!
「作戦自体は賛成だ。しかし、あの骨は広い範囲に展開していた。広範囲に超重力を発生させるとなるとアンナも押しつぶされかねない」
「…………あ」
かんぜんに頭に入ってなかった!
都合よくわたしだけを巻き込まない細かい設定なんて不可能! 範囲を絞るのが現実的だけど巻き込める骨の数が少なかったら意味が無い。数を用意すればいいかもしれないけど多くなればわたしも危険になる。誘爆なんてことが起きたらすぐさま型取る前のクッキー生地になっちゃう。
「鬼神化した半オーガの肉体では耐え切れぬものなのか?」
「確かに普通の人よりも頑丈だとは思ってるけど数倍上がると動けなくなるって!」
あの骨は魔力か何かで浮かべているはずだから普通の飛び方じゃない。ちょっと重力が強くなった程度じゃ落下させられない可能性もある。
でもそれだけ強くすると当然わたしも動けなくなる。霊石の真下あたりに接近して相打ち覚悟で起動させる……? ううん、こんな適当な相手頼りになりそうな作戦は失敗する!
重力を強くするのにも限界があるなら……逆に──
「そうだ! 逆に思いっきり軽くしたり反転させるのはどう? ここなら空はない、天井があるから足場にもなる!」
「単純に状況が逆転するだけじゃろうな。効果時間が切れたらお主は落下し大ケガという結末じゃな」
「うう……そううまくはいかないか……」
「だったらその二つを合わせれば良い。強くする効果と弱める効果、都合よく調節すればどうなると思う?」
「都合よく……? あっ! そういうことだ!」
戦場全体を強い重力場にしながらわたしのまわりだけ重力を弱めればいいんだ! そうすれば余計なダメージを受けずに安全に倒すことができる!
「どうやら計画は決まったようじゃな。しかし、全くあ奴も情けないものよの。切り札を隠し持っているとは想像しとったがあの程度、簡単に対策が建てられてそれを悠々と越えてきそうな想像がまるでできんとはな」
「確かにそうだ……あれ? 普通だったらこれじゃあ無理とかもっと特別にしないとって思うのに、これ以上は必要無いって頭が認識してる?」
徹底的に対策を立ててもまだ足りない。もっといい方法があるんじゃないかって思う時の方が多い。師匠と模擬戦しているときもそう感じることが多いし、リリーさんの解呪だってテツにもっと負担を与えない方法があったんじゃって不安がつきまとってた。
なのに今回はどうして? 気持ち悪いぐらいすっきりしてる。
「奴の強さに厚みが無いからじゃ、新しい武器に喜んでいる子供とそう変わらん。自分の力で得た技能ではない故か向き合い極めた時間が余りにも足りてない。加えてそれが己の方針と合っているのかすらわかっておらん」
「なるほど……昔のテツだったら破魔斧無くせば誰でもどうにでもできるけど、今のテツは破魔斧無くなっても何してくるかわからない怖さがあるもんね」
「まあ、そういうことじゃ。念のため伝えておくが奴がとある戦い方に固執し始めたらこの対策は無意味になると同時に勝ち筋は極端に少なくなる。わらわが惨敗していてもおかしくないぐらいにな」
「そ、そうだったの!? ぜんぜんそんな気配とか感じなかったんだけど」
「正直言って切り札が『生前の姿に戻る』でもされたらこうして喋れてる余裕は残っておらんかっただろうの」
つまり……スカルドラゴンが生前のドラゴンとして攻めてきていたら厳しかったってこと? ……うん、確かにだ。レクスに仙骨折られる前はちょっと拮抗状態だった。あのまま動きがよくなっていったら辛いと思う。
「……あ! もしかしなくても、あのバラバラになれるのが無敵の切り札だと信じていたから雑な攻め方をしてたんじゃ!? 骨の接続が途切れて何にもできなくなったと油断させて、その隙に動かして倒す!」
「だろうの。ガッチリとはまっている骨は堅く歪まん、超重力でも耐え切ってもおかしくない」
「ドラゴンの強さを捨てたからあの醜態というわけか……知能が高いというのも考えものだな」
いちおうその可能性も頭に入れておきながら作業を開始することにする。
作るべきものは『超重力を発生させる爆弾』と『重力を打ち消す爆弾?』。
前者に関しては問題ない『ゼロゾーン』を作った時の感覚を覚えてる。発生させたい重力の方向をちゃんとイメージすることが大切。それをめいいっぱい。
問題は後者。自分に使う道具になるんだからあんまり危険なイメージの道具は向いてない。むしろ強い重力から守ってくれるような道具をイメージをする必要がある。
よし! がんばろう!
という訳で数日かけて超重力発生爆弾『プレッティ』が完成して何度も実験をしてみた。
「よし、今回こそ全部落とせるかの?」
頭上にはたいまつで飛ぶような小さな簡易気球をいくつも浮かべて、スカルドラゴンが骨を浮かべていた状況を再現する。
発動範囲にいれられなければ意味がないし、簡単に壊れちゃう気球でも落とす力が無いと役に立たない。
「それじゃあいくよ!」
プレッティの形は投げやすさと力の発生効率を両立させる円盤型。引き金の板レバーを反対側にカチリと折りたたむと5秒後に起爆。
なるべく高い位置を狙って、投擲!
風を切る音と共に上に昇ってく。これから起こることにわたしも防御態勢を取る。そして──
何度も聞いた鈍い音と同時に。
「ぐうっ──! 弱めとはいえ……な、慣れることできないって」
強重力に圧されることになる。
まだ無効化する道具は完成してないけど、こうしてわたし自身が受けることで何かヒントが思い浮かぶんじゃないかと思ってやってる。ナナシノさんからは「無茶はするなよ」と注意は受けたけど。
「よくやったぞアンナ! 全部の気球が降りて来とる!」
「そ、そうなんだ! よ、よかった……!」
レクス達には影響無いみたいだからちょっとズルっこい。
スカルドラゴンも同じように無効化してこないか心配したけど、あの骨はちゃんと物質的の存在しているみたいで重力の影響をしっかり受けるみたい。
膝を付かないように何とか耐えきる! 思ったけどこういう強い重力の中で訓練したら効率が良かったりしないかな?
「後は威力を上げることか……しかし、自分も巻き込まれる前提の範囲だから無効化道具の作成ができない限り試すのは禁止だな」
「中々これだ! ──って効果や形が思い付かないんだよね」
「同じ爆弾系だと違和感が強いからいい結果に結びつかんと言っておったな。実際に効果時間を超重力の発生時間に合わせんと潰れてしまうじゃろうからな」
「それにやってみて思ったんだけど力が釣り合ってないと潰れるか軽いかの影響受けちゃうんだよね」
この冥界ではグラビストーンがザックザクと採れるから本番に支障が出るぐらい枯渇することは無いにしても強い力同士を消耗品でぶつけ合うとなると消費速度が恐ろしいことになっちゃう。わたしの身体がいくつあっても足りなくなる!
「……こういうときテツやセクリがいてくれたら何て言ってくれるんだろうな?」
「まあ、あやつがおったら「こんな危険なことは俺が代わりにやる!」とは言っておるだろうな」
言いそう、というより心の中のテツが既に言ってる。あとは──
「俺が盾になる! とかも言ってそう」
「言いそうじゃ! そんでもって自分から傘になって防ぎそうじゃ!」
レクスはケラケラ笑いながらやりそうなことを言ってくれる。確かに簡単に想像ができちゃう。
まあ重力は雨みたいな感じじゃないから傘になって防ぐことは……
「できるんじゃないかな?」
「む? どうかしたか?」
「強い重力を雨みたいに降り注ぐものだと認識して傘みたいなので防ぐ!」
「重力は雨と違ってその下でも影響を受けるぞ?」
「傘の下だけ通常重力に弱めるなり中和するなりに調整すればいいって! これなら細かい時間も関係無いしオンオフはわたし次第!」
いける! これならいける! 早速レシピを考えて作らなきゃ!
「スイッチ入りおったな。まったくこの場におらんでも助けになるのだからとんだ主想いじゃなあ奴は」
という訳で、きっかけがあればもう後は簡単!
1日もあれば『反重力傘』が完成! いちおう試作品だから改良の余地はあると思うけどまずは実験! 普通の傘と違うのは地面に刺すように使うこと。自分の身体で超重力を支えるなんて真似は危険だからね。
お爺さんの杖みたいに4つ股の滑り止め、中棒を滑るように下ろくろを押して骨組みを展開。これで完成!
「その下におれば安全ということか?」
「うん、投げて起動する間に用意できるぐらいなんだよ。持ち運びもできるし丈夫に作っておいたからそうそう壊れることもないと思う。後はどこまで耐えきれるかだけどね」
いざとなったら武器にもできる。と言っても重力を防ぐ役目をちゃんと果たせるかどうかが大事なんだけどね。
そんな訳で実験。
実験用の低範囲だけど威力は本番想定の超重力発生プレッティを設置する。
「いやいや、お主がそこにおったら危険すぎるじゃろう? まだそれは試作品の段階ではないか、ケガするぞ?」
「今の時点でも自信はあるから」
スカルドラゴンが大量の骨を浮かせてわたしから距離を取る。
すぐさまプレッティを投げる。と同時に傘を展開。
この時わたしは背中に破魔斧を装着している。
これが想像できる状況。それと超重力を発生させた中自由に動き回るというのは危険が多すぎる。2倍になるだけでも負荷がすごいのにそれ以上を優に超えるんだから、影響を消せると言ってもその場でジッとするのが安全。余計な力を受けた瞬間に崩壊してもおかしくないから。
「機能不全を起こしたりせんか? 破魔斧で何か起きたりして」
「そこまで繊細じゃないよ。中棒を握って直接魔力を注入する仕組みだから吸い取られる心配はないって」
「ならいいんじゃが……」
という訳でプレッティの引き金を引いて開いた傘の上に置く。今の時点で起動状態。あくまで無力化というか中和みたいな技能を発揮する仕組みだから影響は──
「わわっ!?」
起動した瞬間に周囲の風景がなんか歪んでるように見える!?
超重力の中にいる証明みたいに近くに落ちていた枝が潰れてく! でも、わたしの身体には何も影響はでてない。成功してる!
「おお! どうやら問題無さそうじゃな! これで何時でも戦いに行けると言っても過言ではなかろう!」
「──ふぅ……傘も壊れてない。うん! 対重力はこれでいいと思う。後は──」
「落ちた奴にトドメを刺す方法だな。想定される状況は互いが地に接している。奴の骨は全て地にめり込んでいることだろう。本体の霊石はアンナと離れている可能性は非常に高い。解除と同時に奴は急いで上に移動する」
それは決定事項だよね。
となると次に必要なのは──
「鬼獄でいっきに近づいて純黒の無月! これが勝利への道!」
「特に瞬発力が必要とされるの。奴も押さえつけられている間も必死に上に飛ぼうとあがいておるはずだから猶予はおそらく1秒とない」
「いちおう師匠から縮地法っていう光速接近技術は教えてもらってはいるんだよね。まずは地上でこれをできるようになって、その後海歩だったり空歩に発展させるんだって」
「……もう逆に心配になりそうな事柄が無さすぎるではないか。鬼神化で縮地何てしたら速過ぎて逆に見えんくなりそうで心配じゃ」
本当にスカルドラゴンを倒すための材料がそろってる感じだ。
テツとセクリがいない代わりっていえばいいのかな?
とにかくこれらの完成度をより高めればぜったいに勝てる!
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