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第24話 もの足りない

 学ぶべきこともわかっているのに自分の身体がその理想においつかない。

 上手く言ってるのは最初だけ。


「ま~た割れちゃった」


 錬金釜の作成が難しいのはわかっていたけど、ここまで足踏みすることになるなんて思わなかった。それに破力と魔力を混ぜる練習も何度かやってみたけど全然上手くいってない。

 ここに来て1ヵ月近く経ったけど錬金術をこんな長い時間できていないのは初めて。もしかしたら腕が錆び付いてきているのかも。

 釜の作成が大切。必要な素材は集まっているけど何だか物足りない気がしてならない

 機能確認や完成確認も含めて壺やお皿を何個か作ってみたけれど、強度というか耐熱性が足りてない。調合の際には火にかけて沸騰させることもあるし、魔力と素材、素材と素材同士の反応によって釜の中で衝撃や波が何度も発生する。

 ただ適当な素材を入れて火をかけた程度で亀裂が入るようじゃ本気の調合には耐えられない。

 バラバラになった壺をちょっと申し訳ない気持ちで穴に埋める。


「相当器用だなアンナは……芸術家の道もありえたんじゃないか?」

「ひとりで何かする暇つぶしがこれだったからね。こねるのもいいけど彫る方が得意かな」


 壺ができたおかげで多くの作物を保存できるようになったし、お皿があるから料理も食べやすくなった。生活は豊かになってきているけど


「こんなに時間が流れているのに外では1時間とちょっとぐらいなんだよね?」

「頭が混乱しそうになるのぉ。だが、成長曲線で言えば相当落ちとるのも事実じゃ、環境が悪すぎる今日を生きるだけでもリソースを使い過ぎとる」

「探索もしきれてないんだよね。町に行ったのも最初の1日目だけだし」

「そのおかげで生活の基盤が整ったと言えるじゃろう。手を広げ過ぎとったら今もリンゴとクルミだけの生活じゃった」

「うう……否定しきれない」


 最初の1週間が本当に大変だった。保存食は最後の最後にとっておくつもりにしていても乾燥お肉程度でも魅力的に見えてしょうがなかった。今もお肉が食べたい欲はある。兎でも鳥でもいいから食べたい。

 無いものねだりしてもしょうがない。生物はまだ見つかっていないけど鉱石や粘土の採取は調査隊の人達が見つけてくれた鉱床のおかげで困ることはなかった。洞窟の中を切り取ったような世界なだけあっていくつかそういう場所があった。

 金属素材もあるにはあったけど加工できる環境を用意できなかったのが問題で、わたしが掘る前から鉱床回りにはそんな金属が置きっぱなしになっている。

 熱炎石が欲しかったけど見つからない、この世界を照らす魔月光は沢山取れるしグラビストーンも手に入る。それに珍しくて懐かしい光飲石(こういんせき)も手に入った。

 場所が場所だけに普段見かけないような珍しいのが多いみたい。


「そういえば、以前言ったと思うが闘技場には金属武器があってだな、それを持ち帰れるか試してみないか?」

「ああ~忙しすぎて行く暇無かったやつだ。何か変化あるのか久しぶりに行ってみよっか!」

「生者にとっては久しぶりでも死者にとっては瞬きするぐらいの一瞬かもしらんがな……」


 レクスが難しそうなことを言ってる。

 まあそんなことは置いといて前にレクス、後ろにバードマスクさんに挟まれて町へ正々堂々正門から入っていくことにした。襲ってくるんじゃないかって心配したけど、逆にみんなレクスの顔を見ると怯えるように逃げてく。


「理解させるのに時間はかかったがのう。とはいえこやつらは根っからの卑怯者の線が太いからの、アンナ一人で向かえば容赦なく襲ってくるだろうな」


 不の信用が凄い。ずっと戦ってもう勝てないって理解させたんだ。同じようにゴースト達のことも理解したんだと思う。


「へえ……闘技場の中ってこうなってたんだ」

「愚者共の溜まり場でしかない。こっちじゃ」


 こそこそ侵入した時と違って正門から入ると緊張するようなふんいきで満たされてた。王様に謁見する時みたいな感じの。

 控え室についたけどここには誰もいない、誰も来ない静かなところだけどこの先は戦場であのドラゴンが放ってる殺気のような圧がこっちにも届いている。

 多分だけど今までここに来たゴーストは多いと思う。でも、この鋭利な物を押し付けてくるような圧を前に逃げたのも多いと思う。挑むのは力量差を測れないような未熟か単純に頭が空っぽなんだと思う。

 もしくは……レクスみたいに自分の強さにぜったいの自信を持っているか。


「ほれ、けっこうあるじゃろ? わらわでも持てるんじゃが持ち帰ることはできんのじゃ。廊下に戻るとすり抜けてしまう」

「確かに色々あるね。う~ん、わたしが作った方がいいのができるんじゃないかな?」

「だろう? 鍛冶士もおらんだろうし番人共の支給品がいいところじゃろうな」

「……レクスには悪いけどこの金属使ってもいいの作れないと思う。だいぶ粗悪な金属で作られてるよこれ」


 良く混ざりきっていないというか、刀身がくすんでる。こんなんじゃすぐに砕けると思う。

 これを使うぐらいなら1からちゃんと合金調合した方がいい。


「そいつは残念じゃな」

「まあ、金属の糸とか縄に再利用するぐらいなら──なら……? 触れない?」


 剣を持ってみようと思ったけど手が完全にすり抜ける。壁に手は触れるけど手首の中に剣の柄が入り込んでるみたいになってる。痛みとか無いけどちょっとぞわぞわする。


「ちょっと待ってくれ。手を受け取る形にしてくれんか」

「こう?」

「落とすぞ?」


 槍を横にしてわたしの手の上に──すり抜けた!? そして床で跳ねた!


「なるほどのう……ゴーストでなければ持てぬ武器ということか」

「もしかしてだけど……この理屈でいくとスカルドラゴンに対しての攻撃ってわたしだと通用しない?」


 この武器はスカルドラゴンに触れられていたのはわたしの目で見た。ゴーストしか扱えない武器でしか傷を付けられないならわたしの持っている武器は破魔斧は通用しない?

 スカルドラゴンもゴーストの類だとすると今までのルールに則って、わたしの攻撃は通用しないことになるということ?


「いや、それは考え難いじゃろう。先人共が冥府の霊石を回収したのは事実。条件が同じだとするならあやつらは戦場に立ち、勝ったことになる。勝てなかったとしても石を回収するだけのダメージを与えたのは事実」

「何か特別な状況になってる戦場ってことなのかな?」

「恐らくはな。もしくはあの骨は完全に物質でその周囲をゴーストの力で覆っているとかが可能性がありそうじゃ」

「う~ん……とにかく謎な武器なのは確かだね。これでわたしを切ったらどうなるかで答えが見つかりそうだけど、槍がすり抜けても何ともなかったからやっぱり何ともないのかも」


 控室を出て闘技場内を探索していくと廊下の真ん中に目を引く石像が並んでいるのが見えてきた。


「あれ? こんなところに石像がある……」

「関係無いと思って言わんかった。芸術など知らぬような凡夫共には過ぎた出来なのは事実だがな」

「これは……狼、次は……魚? 見たこと無い魚だ」

「正確には魚ではないな。シャチと呼ばれる水生生物じゃ。海のギャングとも呼ばれ水中戦においては右に出る者はほぼおらんじゃろう」

「へぇ~! それでこれはベヒーモス。今にも暴れ出しそうなふんいきを発しているね」


 大体2mぐらいの大きさをしている三体の真っ白な石像。誰が見ても何かわかるのが凄いと思う。まるで生きたまま石像にしてしまったみたいで今にも動き出しそう。

 それともうひとつ台座があるけどその上には何にも乗せられてない空の台座がある。作品の完成待ちだったりするのかな?


「にしても全員が魔獣じゃな。この狼もヘスペラーリュコス。夜の支配者と言われとるが黒の毛並みが台無しの見た目にされとるの。このシャチもオーガオルカ。流線的な角を持ち暴れると手が付けられんからこの名が付いた」

「なんだか失礼な名の付け方な気がする!」

「わらわに言うではない。強さを認められていると受け取っておくのじゃ」


 う~ん、まあ名前はいいとしてそもそもどうしてこんなところにこんな石像があるんだろう? 繋がりが感じられないし、冥界にいる魔獣でもないし……なんだろう? そういえば魔獣のゴーストはまだ見ていない気がする。いや、あのドラゴンもゴーストでいいのかな?


「どれも強そう……」

「わらわとてできれば戦いたくない相手ばかりじゃな。しかし全くなんでこういう石像はここまで白いんじゃろうな? それに立派な出来だとしてもそれを理解できる目をここらの住人が持っているとは思えん。無意味なところに力を入れてどうするのじゃ?」

「この白さと滑らかさは多分『アルロカ』が混ぜられてるはずだよ」

「あるろか? 素材か何かか?」

「うん。真っ白な岩でね、これ単体だと用途が限られるんだけど、砕いて混ぜると非常に頑丈な彫刻が造れるようになるから芸術家のお供とされているんだ。耐熱性、耐寒性、防腐性にも優れて高級住宅に使われてるんだよ」


 ここ冥界でも見つけることができた素材の1つ。今思えばこの闘技場ってこの世界で採れる素材を組み合わせてできているのかもしれない。


「ほぉ~ではそのアルロカとか言うのを使って錬金釜を作ればいいのができるのではないか? いや、流石にそう都合良くはいかんか?」

「そうだよ、いくら耐熱性があがって、頑丈になるからって芸術品に使うような……素材を……素材を……」

「…………そんな良いことしかないのなら使っても良いのではないか?」


 ……あれ? どうして頭の中から完全に抜け落ちてたんだろう? 白くて目立つから何度も目に入ってたのに。

 なんなら採掘して必要無いから置きっぱなしにしてたぐらいだもん。

 

「常識にとらわれすぎてた気がする……!」


 美術品に使うような素材を武器や道具に使用してはならないなんて決まりはどこにもない。

 試してから良いか悪いか考えよう! 頭の中に最優先すべきことがドカンと入ってきて他のことが考えられなくなってきた。急いで拠点に戻って今まで無視してきたアルロカを集めて来ないと!


「都合が良いのか悪いのか……ちょいと視点を変えるだけでこういうものがいくらでも見つかりそうじゃな」


 本当にそう。今までが恵まれすぎてて深く考える必要がなかったんだと思う。


本作を読んでいただきありがとうございます!

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