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第22話 誰?

「ふぁ……おはよう~……ん? ──って誰かいる!?」


 部屋の中にいるのは鳥の仮面を着けた誰か。思わず窓から飛び出そうになったけど隣でレクスがのんびりしているのを見て何とか踏みとどまれた。

 朝から心臓に悪いよ……。


「そやつは昨日意気投合したバードマスクじゃ。どうやらお主を守るのに一役買ってくれるようでなわらわも甘えることにしたのじゃ」

「そ、そうなんだ……まあレクスが言うならだいじょうぶだと思うけど……よろしくね」

「…………」

「あれ?」


 手を挙げて挨拶してみたけど、言葉も手振りもしてくれない。本当に味方になってくれるのかな? ちょっと不安。


「そやつはシャイなんじゃ。会話するのが非常に苦手。ただ、芯はしっかりしたのを持っておるから信用してええ」

「それじゃあどうやって意気投合したのさ……」

「無論──拳でじゃ!」


 レクスが拳を突き出してくると、バードマスクさんも拳を突き出してくる。

 う~ん、本当っぽい。レクスが言葉で理解し合うとは思えないもん。多分同じくらい強いゴーストってことだと思う。

 でも、わたしを守ってくれる理由はなんだろう? ナナシノさんみたいな理由かな? だったら自分から何かを話せばいいのに……怪しい……。

 わたしのそんな視線に気づいたのかレクスは──


「とにかくそやつは中々腕が立つ。これからわらわは町に行って雑魚共を蹴散らしたり闘技場について調べてくる。今日からは本格的に役割分担ができるぞぉ!」


 言うこと言ってご機嫌な様子で町の方に駆けていく。逃げられた気がする。

 でもまあ、確かにレクスはずっとゴースト達からわたしを守ってくれていたんだよね。テツは防御よりだけどレクスはもうわかりやすいぐらい攻め意識が強い、色々ガマンしてくれたんだと思う。

 代わりが欲しかったのはわかるけどこんな怪しい人を認めるなんて……このバードマスクさんは仮面越しにじっとこっちを見てきてちょっと怖いし。特に何か言う訳でもないし表情もわかんないしどう対応すればいいのかわかんない!

 だからちょっと逃げるように今日の作業に集中することにした。


「──このペースで進めば明後日には窯が完成しそうだな。だが大きくなるだけ難易度が上がる。この冥界にある土でどれだけの物が作れるか不明だが挑戦することを恐れるな」

「はい!」


 資料通りここはグラナイトが多くとれる。拠点の素材はほぼこれ。他にも建築に使えるような鉱石素材は取れる。窯自体は時間をかければちゃんとしたのが作れるのはわかってる。

 問題は錬金釜の製作。特に大事なのは熱に強い鉱石を見つけられること。ペタライトかフランタインがあれば早いんだけどなぁ。特にフランタインは耐熱性に優れていて普通の錬金釜にも使われる素材で溶岩地帯の地底で良く採れる。残念だけどここでは見つかってない。

 もう少し探し回って見るのもいいかもしれない。

 レクスが自由に動き回ることでゴースト達が攻めてくるかなぁ~って思ってたけど逆に来なかった。採取中も出会うことがなくていつもより効率良く動けたから範囲を広げても良さそう。

 バードマスクさんは何というか静かに動き回らずにわたしを見守ってくれてるから安心できた。やっぱり落ち着いている人がいると助かるなぁ。レクスといっしょだとわたしが止める役になっちゃうもん。

 ともかく私が入れるぐらい大きな窯がもう少しで出来上がる。後は燃料、薪は破魔斧で切って少しずつ増やしてる、熱炎石が見つかれば良かったんだけど冥界には無いみたいでちょっと残念。



「さぁ~て、調べるとするかの!」


 堂々と町へ入り、大通りで辻斬りしながら闘技場へ到着した。ちらほらゴースト達がおるが戦いに挑む訳でもなければ戦う者を待っている訳でもない、ただ虚空を見つめてそこにおるだけ。

 立派な佇まいをしている施設だと言うのに、扱う者共が塵芥では埃被った宝物と変わらん。

 一階が選手の為の階、二階以降が観客の為ということか。

 この道を進めば戦場。踏み込む気は無いがその挑戦者の視点というのは気になる。

 進んで行くと選手の控え室が広がっていた。どうやらこの奥をさらに進む必要があるみたいじゃな。ここには食われた男が持っていた剣や防具が飾られておる。ふと気になって手を伸ばすとわらわでも掴み持つことができた。

 こうして持るとよくわかる、品質はそこそこで普通の武器じゃな。この鈍でドラゴンの骨を砕こう何ぞ冗談が過ぎる……いや待て! これを持ち帰ればアンナが素材にできるかもしらん!


「おや……?」


 控室から出た瞬間に武器の重みが消えて床に転げ落ちて金属音を鳴らす。

 なるほどのう……そう都合良くはいかんみたいじゃな。アンナが持ち出しても同じ展開になるかは試す価値は一応あるがな。

 続いて観客席。何かを考えておるのかおらんのか、こちらも変わらず死んだ目で虚空を見つめているゴーストがちらほらとおる。死ぬ前もこんな風に毎日過ごしておったんじゃなかろうな?

 いやいや注目すべきはあ奴らではない。スカルドラゴンじゃ、今は骨の山、冥府の霊石は山に埋もれて隠れておる。あの時は明らかにこちらへ攻撃しようとしてきた。しかし結界のようなものに阻まれた。

 なら逆にこちらから向こうに干渉することは──できぬか……。

 誰も戦場に立っておらずともこれ以上手を伸ばすことはできず、無色透明のガラスに阻まれているかのよう。

 観客席からの援護攻撃は不可能ということじゃな。

 さて、残る気になる事柄と言えば複数人で挑めるのか一度入ったら勝つか負けるかまで逃げることができぬのか。何度でも挑戦可能ならわらわが戦い、正確な生きた情報を会得することができる。一度霧ならばその一度に全てを出し切らせなければならない。

 有象無象の雑魚共では奴の奥の手を引き出すことはできぬだろう。ただ身体を振るうだけの攻撃が全てなわけあるまい。

 となれば──


「ヤ、ヤメロ──!」

「光栄に思えわらわ達の役に立てるのだ、良い検証材料となってくれ」


 その辺にいたゴーストの首根っこを掴み引きずる。と言っても宙に浮かんでいるから摩擦など感じぬがな。

 闘技場、戦場の入り口ギリギリまて近づき──


「行ってこい!」

「ウアアアアア!!」


 放り投げる! いい感じの位置に落下、どうなる……?

 おっ、思った通り骨山が動き出して形を作り始めた。


「イヤダアアアアア!!」


 もう死んだ身だと言うのにもう一度死ぬのは嫌らしい。生きていた時もこのような表情で逃げていたのか必死にこちらへ向かってくる。

 さて……背後よりスカルドラゴンが迫ってくる、余裕で間に合いそうじゃが──


「アアアアアア──!!」


 雄叫びと同時にわらわの足元に転がり入った。つまり脱出は可能。問題は──


「では再挑戦じゃ」

「エッ──!?」


 蹴とばし再度戦場へ──


「グオッ!?」

「おや、入らぬ? つまり一度入れば成否に問わず二度目は無いということか?」


 ガラスのような壁に阻まれ入らない。わらわが押してもやはり見えぬ壁が邪魔となって戦場へ入らない。

 わらわにも同様のことが起きるとみて間違いなさそうじゃ。この現象が永続か長期間かはたまた短期間か。都合の良い想像に賭けるのは悪手。

 ともかくもう一つの情報が必要じゃな。


「ヤ、ヤメロ──!」

「ナニヲスル──!」

「いやぁ~雑魚共が先に喧嘩を吹っかけてきてくれたおかげで心が痛まんでいいのぉ~! きさまらは直接関係無いにしてもそれはわらわ達も同じ、愚者を止めなかったきさまらが悪い」


 続いては二匹を放り投げ、蹴とばす。少しタイミングをずらして投入したが問題無く両方入った。

 まだ骨山に戻ってないあ奴が迫ってくるさっきよりも近い。今度は間に合うか?


「アア……アア──!」

「シ、シヌカトオモッタ!」


 こりゃこの冥界に囚われるわけじゃな。死んだのに死んだと理解していないのだから。

 さて……知りたいことも知れた。複数人で挑んでも問題は無いということ。一人が出たらもう片方も強制的に排除されるわけでもない。故に重要なのはここから。

 スカルドラゴンに対しわらわとアンナの二人で挑むか、わらわだけ先に挑みアンナに対策を考えさせるか。その二択──

 奴の強さは未知数。だが雑魚では無い。わらわと同じ鬱憤が溜まった存在。雑魚狩りで退屈を紛らわせる程プライドの無い存在ではなかろう。

 骨だけとなっても生前の力強さは伝わってくる。

 天ではなく地を住処とするドラゴンは魔力よりも筋力に優れておる。鱗と筋肉が健在であれば破魔斧無しではまともに戦うことはできんだろう。

 どのドラゴンか判明すれば多少なりとも戦略を立てられるのだが、如何せんドラゴンの骨格など覚えておらぬ。腕の長さや尾の長さ、翼の形で……


「むっ──? 何かおかしいぞ?」


 今日観察してようやく気付けた。あの時は情報が多すぎて見切ることができんかったな。

 あのドラゴン、右の片翼が無い。おそらくそれが死因へと繋がりこの冥界で門番として生まれ変わったのじゃろう。

 片翼のドラゴン……最近そんな話を聞いた記憶があるが……いや──まさか……! いや、流石に考えすぎじゃろうな、うん。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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