第15話 本物と偽物の違い
「ここからが問題だ……」
「……残るはどっちが本物なの。普通のアンナちゃんと髪の結びが逆だったアンナちゃん、同じ格好にしたらまるで区別がつかないから片方は解いたままにしているけど」
「……まだわからない。俺の愛とか忠誠心が試される時だな」
まさに最終戦と言えるだろう。二人のアンナ、本物はどちらか片方──
冷静に落ち着いて前後左右から見比べてみてもまるで違いがわからない。どっちも角がちゃんと生えてる、耳の形も同じ、魔力も同じ量を発せられている。
「確率は2分の1だよ。こんなに精巧だといざとなったら──」
「それ以上は言うな。例え偽物であってもアンナはアンナだ。適当な山勘で決めつけられるのは納得できないだろう。ちゃんとここが違うって言って消えてもらうそれが誠意だ。仮に成功したって本物のアンナを裏切ることになる」
ここまで来るともうどっちも本物だと思ってしまいそうになる。だからこそ最後まで正々堂々とやり通す。この選択は考え抜いて納得して決めなければならない。じゃないと互いに傷つくだけだ。俺にとってもアンナにとってもしこりの無い道を進むためにも。
それに、未来で同じような場面に出くわした時、同じような選択をすることになるだろう。それも、今よりも罪悪感や迷いも無く雑に。
「状況的に明確な違いを用意しているはずなんだ。それもこの場で見極められる……互いの戦闘力が違うとかも違う……いや、そんなわかり難く曖昧なのはありえない。もっと根本的に調べていないこともあるんじゃないか? 身長、体重、座高、握力、視力……身体的な違い、別、いや──そうだ……! 当たり前過ぎて意識してなかった! アンナ、服を脱いでくれ!」
「「ええっ!?」」
「男か女かも重要な違いだ!」
根本的かつ明確な違いを忘れていた! 姿を似せられたとしても服装を同じにしたとしても、服の下に隠された要素は変えられないはずだ!
何で今まで思いつかなかった? 非常識な空間と現象だって言うのに常識に囚われすぎていた。
「ちょっとテツオ!? それは止めといた方が! セクハラだよ!? 越えちゃいけないラインを方正で越えようとしてない!?」
「むしろコレしか違いが残されてないだろう! チェックはセクリでもいい! アンナのスラっとしたスタイルなら誤魔化すことも──」
その瞬間。二人のアンナ一気に接近してきて──
両脇をすり抜けると同時に両足に響く衝撃によって天地がひっくり返った。
「ぐおっ!!?」
「えっちだ!」「これから大きくなるもん!」
全てが終わってから理解した。両太ももに走る強烈な衝撃の正体はダブルアンナによる蹴りが直撃した結果で、あまりにも揃った一撃のおかげで綺麗に一回転してぶっ倒れ白い天井を見上げることになったというわけだ。
「み、見事……」
思わず褒める言葉が洩れてしまう。
戦闘力から感受性も何から何まで同じじゃないとこんなタイミング揃えて蹴りを当てることなんてできないだろう。
「だ、大丈夫? テツオも悪いと思うけど、本当に綺麗に回転したね……思わず、ふふっ──」
「笑い事で済んでよかった……アンナが二人だとこういうこともできるもんなんだな」
「あれでも手加減してくれてたみたいだからほっとけば治るよ」
「まったく見事なツインシュートをしてくれたもんだ……両ももが同じくらい痛いぜ」
流石に冷静になってくる。思いついた時は天啓かと思ったけどバカみたいな発想をしてしまった。男か女ならもっとすぐにわかっている、肉付きも異なるし愛らしさも変わる。どっちも少女、最後の最後でこんな違いで終わるわけがないってことで、この一撃は気付けみたいなもんだ。
それにしてもあれが必殺シュートを受けるボールの気持ちなんだな。アンナ同士だから意識を合わせる必要なんてなかったんだろう。目的さえ揃えばあとは流れで──ツイン……シュートを。ん……?
そうツインシュートだ。右足と左足で完璧に……いや、待て……! あの動き、そんなことが可能なのか? いくらアンナでも不可能だ。アンナが二人いたら逆にできないはずだ。
だとしたら、できるとしたらそれが違い。答え合わせをしなければならない。これが答えの可能性がある!
「でも、服の下って着眼点は悪くないんじゃないかな? 黒子の位置とか、古傷とかそういう違いもありえると思うよ」
「泣き黒子みたいな目立つのも古傷も無かったはずだ、流石に問題側も答えとして弱いし俺もそこまで把握していない……セクリ、今時間はどれくらい経っている?」
「だよね……ちょっと待ってね──うん、今19時42分。ここに来てから30分は経ってるよ」
「そうか……まだピンと来ないし長丁場になるかもしれない。少し腹ごしらえでもしておこうアンナ!」
「えっ!」「わっ!」
「二人共食べとけ」
俺は鞄から缶詰を取り出すとゆっくりと放物線を描くように二人に一個ずつ缶詰を放り投げる。
不意を付いたような行為でも持ち前の反射神経と運動能力で簡単に片手でキャッチしてくれた。
「偽物にもあげるの? って缶詰?」「これ缶切ないと食べられないタイプだって」
「悪い悪い、投げ返してくれ」
「まったくもう」「さっき食べたばっかりなのに」
流石にあからさま過ぎたかと思ったけど素直なアンナは気にする様子は感じなかった。
手に収まるサイズの缶詰。返す時も片手で投げてくれる。そう、片手で両方とも安定した動きと軌道で返してくれた。
これによって答え合わせが終わってしまった……やっぱりそうなんだ。
それが明確な違いなんだ。それ以外はアンナなんだ。
理解した瞬間受け止める意思がふっと消えて、二個とも俺の手に収まらず跳ねて床に転がり落ちて音が響いた。
「テツオ……?」
「テツ? なんでそんな顔してるの」「さっきのが痛かった?」
「偽物がわかったよ」
全てが終わったのに、喜ぶことなのに心は曇ったようにスッキリしない。むしろ理解してからより陰りは強く、濃くなってくる。
心配そうに覗き込んでくるアンナ達の瞳は俺の知るアンナと全く同じなのがより追い打ちをかけてくる。
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