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第14話 八人のアンナ

 冥府への扉を潜る為に課せられたのは絆を試す試練。

 偽物のアンナ達の中から本物のアンナを見つけるという単純な試練。

 さっきみたいな少し意識すれば本物を区別できる適当な偽物じゃない、いや滅茶苦茶分かりやすい特徴を出しているアンナもいる。


「さっきも思ったけど、すぐに違うっているのがわかるアンナちゃんもいるよね」

「ああ、悩む必要が無いぐらいのな」


 チュートリアル的な存在だとしても油断は無しだここからが本番。

 改めてハッキリと記憶を出力、俺の良く知るアンナの姿は『左側頭部より天に向かって白い角が伸びている』『銀髪で右側サイドテールにまとめている』『健康的な褐色肌』『銀灰色の瞳でちょっとツリ目』『身長は俺の顎位』『スタイルは細めで筋肉質』。

 服装に関しては全員一緒、俺達お揃いの黒い装飾品もしっかりと身に着けている。

 内面に関して言えば語り切れなくなりそうだが──


「いったいそれは誰? わたしが本物のアンナだからね」「本物は本物だなんて言わないどーどーとしていればテツはわかってくれる」「そーいうこと、でもわたしがこうも沢山いるとちょっと気持ちわるいけど」「いや、明らかにわたしじゃないの混じってるって!」「わたしはテツを信じてるから」「そんな風に言うのがあやしい気がする」「自分の声ってこんな感じなんだ……」


 立ち振る舞いからしておそらく正確にコピーしている。記憶から偽物を探そうとしても恐らく無駄。これを門番(ロス)はゲームと言った、誰に対しても納得できる違いを用意している。

 八人中本物は一人。わちゃわちゃと八人は動きまわっているが違いさえ判別できれば関係ない一人一人潰していけば本物にたどり着ける。

 その中で俺の良く知ったアンナの姿をしているのが四人。このアンナ達はパッと見ただけで判断は付かない。

 わかりやすい特徴をしているのが──肌の色が白いアンナ、サイドテールを角側に持ってきているアンナ。そして、もったいぶる必要も無くまず一人は。 


「身長が大きい君がまずは偽物だ」


 視線の高さが俺と同じ大きく成長したアンナの姿。ある意味可能性が目の前にある。大人になったアンナはこんな姿……いや、今の見た目で伸ばした感じだから違和感強いな。


「……あーあ、まあみんなより大きいからしかたないか──」


 その言葉を最後に名残惜しそうな表情で煙となって霧散してしまった。そこに思わず手を伸ばしてしまうが何も無い、思わず心臓が締め付けられるような感覚が襲ってくる。


「趣味が悪い消え方をさせるじゃないか……例え偽物でもアンナの姿でこれされると心に来るんだが?」

「……ねえちょっと待って! この消え方ってことは仮に本物と偽物を間違えたら本物のアンナちゃんもこんな風に消えちゃうってこと!?」

「さあ、どうでしょう? 結末を伝えたらつまらないでしょう? ええ、その表情こそが観客にも緊張感を伝えるスパイスになるのですから」

「焦るな──ロスとやらの言う通りだ、ハッピーエンドが決まってるんだから無意味な想像する必要は無い見てる側には緊張感を与えられなくて申し訳ないけどな」


 楽しませるために俺達はここに来たんじゃない。

 楽しませるために俺はこのゲームに参加した訳じゃない。一石二鳥、門を通ることに加えてアンナへの想いを証明できる。

 真意を探ろうにも奴の仮面がそれを隠してしまう。だったら成功だけをイメージするのが一番だ。

 

「でも、本当に大丈夫なの? 今の消え方見てアンナちゃん達も不安気な顔してるよ」

「怯えているのは偽物だけだ……と言いたいところだが。まだ信頼が足りてないみたいで力不足を感じるな……」


 全員同じように自分の手首を掴んでいるんだからこれは俺の情けなさだ。だからこそ、ここで信頼を勝ち取る。


「だが心配はいらない! 大事なのは見た目から判断するということよりも、異なる要素を思いつく方が重要だ。今の身長みたいにな」


 そう、大事なのは何が違うかを予想を立てること。目の前に写っている情報だけに固執して本質を見逃すのは愚の骨頂。

 身長とくれば連続的に思い付くのは体重。ただそれは後回しの方が良い。もっとわかりやすいのを優先して数を減らす。


「まず嫌がおうでも目立つのは肌の色が白いのと、角の生え方が逆と、髪型が逆のアンナだ」

「どれも偽物ってことだよね?」

「それはどうかな──ロスに質問だ。触っても問題は無いんだよな?」

「ええ、ルール違反ではありませんよ。ご自由にどうぞ」


 どうやら実体はあるようだ。となれば偽物の幅も広がるということでもある。


「角の方は──ちょっと失礼」

「ん?」

「着け角って訳でもない。だから偽物だ」

「あちゃあ……しょうがないか……」


 角が無かったらそれでも偽物だけどな。

 逆角のアンナは諦めたような表情だけど受け入れたような表情で周囲に溶けるように霧散してしまう。残り六人。


「そんでもって肌の色が白いのは──ちょっと拭かせてもらうぞ」

「え? わわっ!? 急に──」


 頬をハンカチでちょっと強めに拭いてみると、白い表面の中から褐色が覗いてくる。ハンカチには白い塗料がバッチリ付着していた。


「思った通りだ。ほら見ろ、褐色肌が出てきた」

「──え? えっ!? わたしそんな感じになってたの!? 確かに腕とか白い!?」

「そんなのあり!? 化粧も施されてるってこと!? 卑怯がすぎない!? 普通は思いつかないって!?」

「本気の勝負に卑怯も無い。もしも触ることができないとかだったら文句を言わせてもらうけど、触れる選択肢がある時点でこういうのも疑うべきだ。表面だけを見て全部を理解したつもりになる間抜けじゃあない」


 となればもちろん逆もありえるということだ──


「他のアンナ達も肌を拭かせてもらうぞ…………やっぱりか──」

「こんなの普通気付くのが無理だって……」


 褐色肌の中から白い肌が覗いて来るアンナが一人。


「こういうわたしもアリじゃない?」

「本物のアンナが気分転換にそうするならアリだけどな。だけどキミは偽物だ」

「ざんねん──」


 自嘲的な笑みを浮かべながら消えていく。

 ……これで残り五人。順調とは言ってもアンナを消していってる事実がどんどん重くのしかかってくる。本物と瓜二つな見た目だったら心が持つのか? いや、大丈夫。偽物なんだから。

 そう決めつけていかないと。


「もしかしてだけど髪型も?」

「そうだろうな、一見逆に見えても解いてみれば答えはわかる。みんなリボンをとってくれ」

「しょーがないか」「これでいい?」「……」「どう違うんだろ?」


 サラサラの銀髪が流れるように重力に従ってまっすぐになる。

 恐らくこの違いに関しては悔しいが俺よりもセクリの方がすぐに理解できる。


「あっ! いつものアンナちゃんだ!」


 逆に結んでいるアンナもサイドテールを解けばわかりやすい特徴が生まれてくる。それは角側の方が若干長い。左側の髪の毛を全部右にもってくようにこの髪型を作っているのに加え、出来上がったテールは切り揃えられているのだからこうした違いが生まれる。


「となると……あっ! このアンナちゃんが偽物だ!」

「セクリの目はごまかせないか……」

「うっ──ボクが消したってこと……」


 諦めた顔を浮かべて消えて、残りは四人──

 セクリも偽物とはいえ自分でアンナを消したという事実にショックを受けているようだ。

 ここからが折り返しであり、難易度が跳ね上がる。見た目から区別は付けられない。何が違うのかを思いつくのかの勝負になる。

 普通のアンナが二人。

 髪が逆に結ばれたアンナが一人。

 白く塗られたアンナが一人。


「ここからどうするの? もう殆ど区別が付かないんじゃ?」

「いや、見た目は同じでも一つ明確な違いを見つける方法がある」

「そんな都合のいい方法が?」

「身長とくればお次は体重だ」

「「「「えっ!?」」」」


 全員がなんか一歩跳び下がって距離を取ってくる。


「おそらく四人の体重のうち一人だけ明確に差があるはずだ」

「でもここに体重計は無いよ? どうするの?」

「それに本当に区別できる方法かわからないって」「そうそう」「偽物の意見だけど賛成」

「俺が一人一人を脇から抱えて持ち上げて調べる。恥ずかしい気持ちはあるかもしれないけど試す価値は十分にある」


 この方法は二人になってしまったら使えない。何せアンナの正確な体重自体知らないのだから。仮にわかっていたとしても持ち上げただけで何kgかを判断することはできない。

 ズルかもしれないが三人以上の時、間違いがコレなら確実に炙り出せる。


「しかたないか……」「肩車もしてもらったことあるしいまさらかな」「最後に測ったのって何時だっけ」


 観念した様子だけど自分でも何kgかわかっていない可能性もあるな……アンナは半オーガということもあって筋肉質、さらに朝昼晩と好き嫌いせず残さずしっかり食べてダイエットとは無縁の生活。課題で忙しく無い時はぐっすり眠ってる。スクスクと成長していて思った以上に体重があってもおかしくない。

 まずは普通のアンナ。


「わっ!?」

「健康的!」


 思った通り見た目以上に密度がぎっしり、よく食べてよく運動しているのが伝わってくる。

 続いて結びが逆のアンナ。


「えっ!?」

「健やか!」


 うん、差は殆どない。

 さらに普通のアンナ。


「っ!?」

「ぐんぐん成長するんだぞ」


 とはいえ何度も持ち上げて確認するのは疲れそうだ。

 最後に白が残ってるアンナ。これが違いであってほしいと願いながら持ち上げると──


「あっ!?」

「っ──!? このアンナが優位に重い。偽物だ」

「ちょっと! 最後までちゃんと持ち上げてよ! ってこんな消え方ヤダ──!」


 何というか晒し者みたいにして申し訳なく思う。でも、そんな緩んだ感情を無理矢理引き締めるかのように重さがフッと消えて煙のように消える。今までと違って俺の手の中から消えたその感覚に怖気が走ってしまう。

 落ち着け、気を狂わせるな。残りは三人。偽物は二人。

 もうすぐこの勝負は終わるんだ。


「まさか体重の違いも正解だなんて……でもこうなってくると残りは何だろう? あっ! 錬金術が使えるかどうかかな?」

「ここに錬金釜が用意できない以上いくらわかりやすくてもフェアじゃない。全てこの場で判明できる違いしかないはずだ」


 娯楽でありショー。納得させられなきゃ気持ちよさが無い、露骨に簡単にクリアされたら悔しいという気持ちだけで作ればそれは露見し大勢の気持ちを冷ますことに繋がる。

 だから、俺達が知りえもしない何かで作られたアンナはいないはずだ。


「う~ん、だったら思い出話でもしてみる? テツとの出会いを話せば信じてもらえるでしょ?」「まさか偽物にもわたしの記憶が入ってるってこと!?」「……」


 それにしても出来が良すぎる。

 本物を見つけなきゃいけなくても見た目が一緒だから混乱してきそうになる、アンナがいっぱいでうれしいなんて気持ちもこういうゲームじゃなきゃ素直に湧いてくるんだが。

 何より性根がしっかりしていて快活で目標を持ったアンナを複製しているおかげかアンナ同士で集まったとしても醜い争いも起きていない。だからこそ、つい気になってしまう、


「ところで何でアンナは静かなんだ?」

「え? 何を言ってるの?」「うん? どういうこと?」「っ──」


 いや、俺何を言ってるんだ。偽物もアンナすぎて別個体として認識できなくなってきている。この中に本物がいるんだから仕方ないにしてもあからさまな偽物以外に対して忠誠心的な感情が湧きつつある。


「すまん、何というかこの、いやキミ? とにかくこちらのアンナがやけに静かな気がして」


 さっき持ち上げた時も声を出さなかった。他の三人は普通に声を出して……──


「まさか声か!? 声が出ないからなのか!?」

「──盲点! 少なくならないと気付けないってこれ!」


 アンナ達は直立不動している訳じゃない互いに互いを見合ったりして配置はグルグル入れ替わっている。声を出さなかったとしても気付けない。一人を除けば七人は声が同じおまけに数の多い普通のアンナだから尚更。


「一応三人とも声を出してくれ、あーって」

「あー」「あ”ー」「あー」


 アンナの声は毎日のように聞いているから判別なんて簡単だ。愛らしさもあるけどハスキーボイスというべきか時折ドスの効いた声も出せるのが特徴だ。オーガ特有の丈夫さが影響しているのかもしれない。

 でもそんな中でも──


「ん? 何だか1人だけ違うよね」

「声が低いアンナだな──つまりキミが偽物だ」


 テノールまでいってる声の低さとなれば聞き逃す訳が無い。この問いの時点で断れば自分が偽物と認めるようなもの、俺とセクリの確信を持った視線が偽物に突き刺さると観念したのか。


「はぁ~……でも、よくやったと思わない? じゃあね──」


 いい声のまま満足気な表情で煙となって退場してくれた。

 これで残るは二人──どちらかが本物で偽物。これが最後、大きく深呼吸をして二人のアンナを改めてじっくり見据える。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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