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第38話 それぞれの

 ソレイユのキャリーハウスにて


「もしもしレイン。こちらソレイユ、今時間大丈夫?」

「問題無い」

「解呪は成功。その後に起きた問題も綺麗に解決できた資料にまとめておくから後で確認してね」

「そうか……無事で何よりだ。では、例の件は?」

「本格的な調査はこれからだけど環境的にカリオストロの基地は無さそう。秘匿性は高いけどあの人のお眼鏡に叶うような素材の生産ができなさそうだから。錬金術で発展している痕跡はあったけど、それは昔ライトニアから逃げた人のおかげだったみたい」

「その人が繋がっている可能性は?」

「ううん、嘘を吐いている様子は無かった。カマかけてみたけど本当に何も知らない感じだった」

「そうか……もしかしたらと思ったが当てが外れたか。国交の方はどうだ?」

「今の王様が保守的で無理そう。でも次の王がアーサリオンさんになったら可能性はある。でも、その時にテツさんがライトニアにいないと上手くはいかないと思う」

「彼個人に強く恩義を感じているということか……」

「色々あったからねぇ……あ、後ね黄金の布の正体についてもわかったよ」

「本当か!?」

「ふふん、これは帰ってから話すね」

「全く焦らすのが得意なんだから。ところでテツオ達はどうしている? まだ近くにいるのか?」

「ううん、今朝次の目的地に旅立ったよ。行動力あるよね~まあ、あたしもあれ位の年なら──」

「何だって? もうどこかに行ったのか!?」

「わわっ!? どうしたの急に?」

「実はテツオ宛に複数の解呪依頼が届いていてね……何時頃帰るかわかるか?」

「え~と……満月を過ぎないと戻ってこないはず。どこに向かったかわかるけど教えようか?」

「十日以上先か……いや……テツオはアンナちゃんを最優先にするだろう。ここで無理矢理引き戻すようなことをしたらとんでもない恨みを買いかねないからやめておく」

「想像つく。でも解呪依頼って別に今回の出来事はまだ広まって無いはずなのに……」

「コメット様が解呪によって治ったことが他国にも非統治区域の村や町にも広がって藁にも縋る想いで依頼書を送ってくれたようだ」

「なら先に伝えておくことがある。依頼書を送ってくれた人にも伝え方がいいこと。テツさんの解呪には致命的な弱点がある」

「弱点……? 副作用でも存在するのか!?」

「それは呪いの深度によって仕方ない部分もあるけどそうじゃない。呪いをかけた術者に呪いが返る──呪い返しが起きるよ」

「呪い返し……? 言いたいことはわかるがそれがどう致命的な弱点に繋がるんだ?」

「術者に全て返ってくるの。かかった者が受けた不幸や呪い効力が。それに術者が得た幸福が反転して呪いの強さに加わる。ここでそれによって呪いの魔獣、呪獣が誕生してそれの退治に奔走してたの」

「何だと……!? まさかさっき言ったその後問題はそれなのか!?」

「正解。術者が確実に判明するのは利点でもあるけど呪いの根深さによっては……」

「国を脅かしかねないってことか……わかった予め伝えておく」

「うん、よろしく──……さてと、あたしも負けてらんないな!」



 共同墓地にて


「お母さん……」

「……これからはふたりでがんばっていこう……」

「……あの人が解呪っていうのをしなかったらお母さんは死ななかったんだよね……」

「……それは……確かにそうだが」

「だったらあの人がお母さんを殺したんだ……!」

「落ち着くんだ……! 原因を作ったのは呪いをかけた人だ。彼の行動は間違っていないリリアン王女を救うために解呪をしたんだ」

「じゃあなんでお母さんが死ななくちゃいけないんだ! それに弟妹も! なんでお母さんを助けてくれなかったんだ……! おかしい、おかしいよ!」

「それは…………」

「許しちゃいけない……! 間違ってないからって誰かを傷つけるのは間違ってる! あいつのせいだ……!」

(話すべきか……だが、話したらこの子の心は……! このまま彼を憎ませ続けるのが正解なのか? 真実は息子も失うことになりかねない……今はまだ──!)

「……その感情を向ける相手を間違えるんじゃないぞ。リリアン王女は被害者だった私達以上の絶望の最中をずっと生きてきたんだ……」

「わかってるよ……ふたりが心配してたの知ってるもん」

(この感情が風化すればいい、この国から出ない可能性もある……今は彼を身代わり(スケープゴート)にするしかない)



 王城にて


「ほんまにアイツでええんか!? 確かにエエやつなんはわかるけども!?」

「お兄様もわかってるならそれでいいじゃない……ああ、でも冷静に考えたら私すごいことしちゃった気がする……唐突すぎて逆に嫌われてないかなぁ……」

「……嫌っとるならあんな風に頼ったりせえへん。どーせあーゆうタイプはでっかい楔でも打ち込まんと意識なんかせんのや。なあなあで中途半端な位置で何時でも逃げられる準備されるぐらいならあれぐらいした方がええ」

「てっきり色々文句言いそうな気がしてたんだけど」

「認めるべきワイと認めたくないワイ、心が二つあるようなもんや……リリーが幸せになれるんのを願っとるのは同じやけどな」

「そうそう、私フォレストリアへ勉強しに行くことにしたから」

「はぁんっ!?」

「あの時の何でもするって言った約束、そっちに変えてもらいたいんだけど」

「待て待て待て!? つまり留学したいっちゅうことか? 急すぎひんか?」

「ねえ、お兄様……嘘は吐かないよね? 私はどっちでもいいんだよ?」

「っ──!? ああ、もうわかったわ! この光剣のアーサー、約束は守る! ただ準備を整えてからや!」

「なるべく早くね! 私28だから若い子に負けてられないし!」

「見た目十代やからどうにかなるやろ……というかすぐに成長するって訳やないんやな。まだ二日程度やけど兆候も見られんしなんか条件あるのかもしらんな」

「となると普通に過ごしてたら18年……46歳で28の肉体? 20位でも10年はかかる? 遅すぎる……! 一気に成長できるとしてもできればその位で止められたら丁度良さそうなんだけどなぁ」

「何か鍵があるのかもしらんな……それを調べる必要もありそうや。リリー自身が成長を望んどるなら肉体も何かしらの欲求を発しとるはずや」

「欲求……それが成長の鍵……」


 アンナ達が離れた地で誰もが新たな想いを胸に抱き進んでいく。善であれ悪であれ、成長の糧として。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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