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第15話 太陽のレッスン

「俺はイメージトレーニングに集中する」


 そう言ったテツは庭園の中で修行を始めた。

 あの中にずっといると頭がホワンホワンしそうになるけどそれが逆に訓練の負荷になっていいみたい。

 それでもってわたしはと言うともちろん錬金術!


「それじゃあレシピの作成しよっか。もう頭に浮かんでいるなら調合でもいいよ?」

「わかりました! あっ、でも釜がひとつしかない──」


 わたしのキャリーハウスにも錬金釜を用意できればよかったんだけど、ここと比べると恥ずかしくなるぐらい小さくて機能性も少ない。ここはわたしが諦めたものが全部ある。

 調合する設備、素材をまとめておける棚、料理を作れる台所、のびのびと休める部屋。何とか3人で休むことができるわたしのとは金と小石ぐらい差がある。

 ソレイユさんの技術力は本当にすごい! あの時テツを助けてもらってからこうなりたいと思った。助けたい人を助けられる力。わたしはそれが欲しい。


「へーきへーき、必要な物の殆どはアンナちゃんに作ってもらうから。あたしは横で何でも答える先生になるから」

「ええ!?」


 わたしが全部!? それはいいけど──そうか! これが色々教えてくれるっていうやつなんだ!

 ソレイユさんが錬金術士の師匠……! 何だかワクワクしてきた。同じ師匠でもサリアン師匠は戦い方の師匠。錬金術士の師匠は初めて!


「さっ、アンナちゃんの実力を教えて?」


 嬉しい気持ちで飛びはねないよう落ちついて……テツが欲しいと思った物を思い出して。

 悪臭と瘴気、空気みたいに目に見えないけど確実に存在している。それが直接身体に入るとあの時みたいに大きく身体をのけ反らせることになる。


「ふぅ……まずは呼吸を守る道具。これはマスクでいいと思うんです。素材も世界樹の葉を加えたらいいのができるはずだからそれを──」

「それだけ? 思いついた理想は全部口にした方がいいよ」


 わたしの心の奥底を覗いてきそうな穏やかだけど真剣な目。

 理想……つまりは最高……今自分が思いついた形のさらに上。世界樹の葉は確かに優れた素材だけど油断している? すごい素材だから何でもできると思い込んでいる? 

 世界樹の葉にもできないこともある、それを補い支えていけば安心して渡せる物が作れるってこと。


「匂いなんですけど、ソレイユさんがさっき使った消臭剤ってどうやってつくってるんですか?」

「大砲部分はいらないよね? これがあの消臭剤に使われていたレシピと素材だよ。倉庫の中に余りもけっこうあるから必要だったら言ってね」

「ありがとうございます。聖水の作り方は──」

「この本を使うといいよ」


 どこでも倉庫を使ってすぐに必要なレシピや本を用意してくれる。

 わたしが到達したい知識を全部導いてくれてる。

 知識と実力がとんでもなく積み重なってないとできないこと。多分だけどソレイユさんの頭の中にはわたしが霧みたいに曖昧な完成形を理論的に言葉にできるぐらい確実な完成形が出来上がってると思う。


「マスクはこれでよし! 問題はマナタンク……前みたいにただ用意すればいい訳じゃない。でも1から作るとなるとどうしても時間がかかりそう……となると元からあるのを改良? でもパーツの付け替えしてたら時間のかかり具合は調合と変わらないような……」


 次の問題はマナタンク。

 テツの破魔斧レクスは魔力を破力に変換する能力を持っていて、テツは魔力を扱えないけど破力なら扱える。ついでに自分で破力を生み出すこともできないから解呪をするためには破力にするための魔力が沢山必要になる。

 こういう不都合な部分があるのがテツがテツらしいと言えると思う。こういうかわいげみたいなのがあると安心する。


「深く考えすぎ。もっと単純に考えていいよ。今一番欲しいのは必要なのは何」

「腐食しない頑丈なマナタンク……」

「アンナちゃんが思いつく最短の方法は? あらゆる手順の過程を無視して考えて」

「最短……やっぱり元からあるマナタンクを腐食しないのに改造する」


 腐食しない素材を用意するのは変わらないけど。マナタンクを作るための素材を用意するのが大変。自然物だけじゃなくて調合物も必要になるしなによりまだ作ったことが無い。

 だとしたら、元からあるのに耐食素材を継ぎ足すように調合したらいいと思う。


「うん、なら素材は決まってるね」


 わたしの疑問に気付いているのかいないのか。

 やらせたいことはわかるけど、わたしは今までそんな方法をやろうとは思わなかった。錬金術は1発勝負、中途半端な品質や完成度だからってそれを再び釜に入れて調合しなおそうとは思いつきもしなかった。


「マナタンクに腐食に強い素材──でも、できるの?」

「そんな疑問は錬金術の幅を狭めるよ。どんな物体でも素材にできる。釜に入れられるならできないことは何にもない。何でもできる何でも作れる、どんなモノでも新しい未来を作る。それが錬金術士の力だよ」

「何でも……」


 確かにそうだ。そもそも『ピュアグラスリル』や『豊冷結晶』みたいに調合品を調合に使ってる。ただ爆弾や武具みたいな錬金道具が何故か釜に入れられないと思い込んでいた。

 危険だから? いんちきだと思った? それとももう1回向き合うのが怖かった? ううん、多分きっとそれで満足していたから。


「──今からセクリにタンクを用意してもらいます」


 よし! とにかくやってみよう! 今のわたしならもっと深く、すごく錬金術ができる気がする!

 肝心のマナタンクは寮に置いて行ったセクリにお願いする。念話(テレパシー)を使えばどんなに離れていたって会話ができる。こういうこともできるんだから道具と技術の組み合わせ次第で本当に便利なことができると思う。


(──セクリ、聞こえる?)

(こちらセクリ。どうかしたの? 大変なことが起きた?)

(ううん、無事にガーディアスについたよ。それよりも寮に使ってないマナタンクあったよね? それを倉庫に置いといてほしいんだ)

(わかった。それとそっちの様子はどう? テツオは大丈夫?)

(順調。後は錬金術で期待以上の物を作るだけ。セクリの方はどう? 特にあのお姫様達は?)

(それぞれやりたいことをやってる感じかな? 平和そのもの。あっ、そうそうアリスィートさんも旅に出発したよ)

(同じ日に出発したんだ……ということは飛行船は結局使わなかったってことかぁ)

(そうみたい。どんな冒険になるか想像つかないよね。あっ、今マナタンクを倉庫に置いたから何時取り出してもいいよ)

(ありがと)

(ごはんは大丈夫? お昼は食べた? いざとなったらボクもゲートくぐってそっちに行くからね)

(そこまでさせられないって。また念話(テレパシー)送るから。それじゃ!)


 まったく心配症なんだから。

 ゲートを繋いでセクリを呼ぶ。か……この方法はテツが止めといた方がいいって言ってた。やるとしても本当に危ない時だけだって。この国だと急に新しい人が出てきたら容赦無く攻撃されそうで危ないもんね。


「ふぅ……」

「結構話してたね」

「心配症なんです。……せーのっと!」


 空間を繋げてマナタンクを引っ張り出す。ちょっと重かったけどこれで大事な素材が手に入った。


「腐食に強い素材といえばリリアンさんを閉じ込めてる部屋にも使われてるプラチナムだけどわたしは持ってないしソレイユさんは……」

「あるにはあるけど流石に量が足りないかな? でも、アンナちゃんなら作れるはずだよプラチナムとはいかなくてもそれに匹敵する耐食金属を」

「? ……あ! アルネシアンだ!」


 試験で勉強したばっかりの金属だ! それに実技でも作った! 今必要なのは単純な強度じゃなくて腐食に強いこと。

 最高じゃなくてもいける! それに今のわたしの技量でも問題なくいける!


「うん、大丈夫そうだね」

「後は目を保護する物……ゴーグル! 綺麗に見やすくて瘴気ですぐに解けないようにすればいいから、ピュアグラスリルに聖水を混ぜるように作れば!」


 必要なものが全部作れる!

 これで安心してテツに解呪させてあげられる!

本作を読んでいただきありがとうございます!

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