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第8話 望んだ夏休みを迎えるための壁

 7月27日 水の日 9時10分 錬金学校マテリア


「これよりテストを返却します。全ての答案用紙に加えて試験結果をまとめた紙も渡すので受け取り忘れの無いように」


 マルコフ先生が大量の紙束を持って来た時からすっごいドキドキしてる……!

 村にいた時にはこんなこと体験したこと無かった。

 自分の努力の結果がこういう形で現れるのは刺激的でちょっと怖くもある。

 もらった人達はいい結果を出せたかどうかで表情が変わってる。アリスィートはとーぜんみたいな顔で堂々と受け取ってた。


「アンナ・クリスティナさん」

「あ、はい!」


 答案用紙が5枚に全部の結果がまとめられた1枚──たしかに。

 確か100点が満点、実技は最大50点だったはず。最高で550点、わたしの点数は──


 アンナ・クリスティナ

 植物学 96

 鉱石学 92

 採取学 94

 調合学 100

 錬金歴史学 42

 実技試験 30

 合計 454


「うんうん……ひぇっ──!」


 思わず声が漏れた。これは本当に心臓によくない。

 わたしが難しいと思っていたところが本当に危ない形で出てきた「42」。もしもテツの作戦を予め聞いていなかったらこれ以下だったのは確実。

 本当に命拾いした気分……。


「全員に渡りましたね? 今回の最高得点者は533点、アリスィート・マリアージュさんですおめでとうございます」

「ありがとうございます」


 拍手が広がる。

 本当にすごいなぁ……わたしと100点近く差がある。



「なお、補習対象者についてですが──」


 ドキリと心臓が跳ね上がる。名前を呼ばれたら夏休み中学校に行く必要が出てくる。折角の冒険なのに途中で引き返すことになるのは避けたい。

 無視したら酷いことなるかもしれない。

 もう、名前を呼ばれないように祈ることしかできない。


「いません。皆さんよく頑張りましたね」

「よ、よかったぁ~」


 安心して心を落ち着かせている間に1時間目は過ぎていった。答えも配られて間違っているところの見直しとか採点ミスの確認とか色々あったけど、角がへたりそうなぐらい気が抜けてそれどころじゃなかった。

 これで問題なくガーディアスへ行くことができる!


「やあやあアンナ君、テストの結果は如何程だったかな?」

「ここまで気が抜けるなんてそんなに大変な結果だったのでしょうか?」

「……これが結果」

「随分と良いけっ──!?」

「そうですわ──ね?」


 わたしのテスト結果を見たふたりの言葉が詰まって固まった。


「錬金歴史学42……これまた中々な数字を拝見させていただいたよ」

「ええ……その……何といえばいいのか……」


 どうやらわたしはとんでもない数字を取ってしまったようだ。でも、そうなってくるとふたりの点数も気になってくるし他の人の点数も気になる。

 こういうテストって何点ぐらい取れるのが普通なんだろう?


「そういうふたりは何点だったの?」

「う~ん……まぁ見られて減るものではないしいいとも」

(わたくし)達だけが見るのも不公平ですものね」


 そんなわけでふたりのテスト結果を見させてもらうと。


 ナーシャ・アロマリエ・フラワージュ

 植物学 99

 鉱石学 83

 採取学 96

 調合学 100

 錬金歴史学 82

 実技試験 27

 合計 487


 ユールティア・ヴィンセント・フォン・ヴァルトナージュ

 植物学 100

 鉱石学 90

 採取学 88

 調合学 100

 錬金歴史学 90

 実技試験 36

 合計 504


「わっ! すごい!」

「いえ、大体皆さんこれぐらいの点数を取っていますわね」

「80点以上が基本と言えるね」

「そんなに……?」


 となると……42ってクラスの中じゃあ1番下なのかも!?

 だとすると結構心に来る……なんだかあの日のテツの気持ちがわかったような気がする。僅差で1番下なら納得できるかもしれないけど誰の目にも明らかだとどうしようもない気持ちになってくる。


「そういえば調合学のテストって簡単だったよね? わたしもだけどふたりも100点だし」

「自分が行っている錬金術の言語化及び理解力を確認するのが目的だからね。錬金科の全員がほぼ100点じゃないかな? 正しいもの、正しくないものを選べみたいな読み間違えのミスぐらいで点を落とすぐらいだろうね」

「簡単と感じたならしっかり理解しているということですわ」

「なるほどぉ~」


 確かに前まではなんとなくでやってたことが多かった気がするけど、最近はそんなことないもんなぁ。必要不必要がわかって失敗することもないし、正確にはこれは失敗するってわかるようになった。

 あとやっぱりテツに色々錬金術の話をするのが多かったのも大きいかも。何にも知らないしよく聞いてくれるから教えるのが楽しくなっちゃったもん。


「しかし、歴史学の点数が良ければ誰も文句を言わせない優等生になれたと思うのに残念だね」

「うぐっ……! わたしは歴史を学ぶ人じゃないの! 歴史を作る人になるんだから! そうすれば覚える必要なんてなくなる!」

「これまた凄い理論が飛んできましたね……アーカーシャになるおつもりですわ」

「実際、錬金術の進歩は凄まじいからね。ボク程では無いにしても優れた腕を持つ人が増えている要は底が上がっているんだ。何10年かけて達成した偉業も今じゃ数年で起きてもおかしくない。実際ソレイユさんの『人工太陽ソル』は彼女が完成させるまで基礎となる調合品が無かったらしいからね」

「昔を覚える暇があったら未来をどうしたいか想像しないとね! うん!」

「温故知新という言葉もありますが……まぁ、無粋ですわね」


 とにかく補習は避けられた!

 ガーディアスに行く準備はしておかないと。お父さんを探すには王子の妹さんをテツが助ける必要がある。

 今できることと言ったらレクスを安定して使えるようにしておくことかな? となると追加であれを作っておこっと。



 同日 9時00分 騎士団資料室


「キャロルさんちょっといいですか?」

「何? まぁ、なんとなく言いたいことはわかるけど」


 昨日の今日ともなればキャロルさんにとっては予想もしやすいことだろう。


「何度もお願いして申し訳ないんですが、ガーディアスへ同行してもらえませんか? 知識をお借りしたいと願います」

「う~ん……状況的に申請すれば──」


 もったいぶっているけれどこの依頼はレインさんの後押しもあったもの。成功を望まれている。おそらくだけどライトニアとガーディアスに国交が結ばれる可能性を見込んでいる。

 これに乗っかれば大変な仕事を合法的に抜け出すことができる。一日二日で帰ってくることは難しいだろうし任務が達成できれば休暇にもなる。

 キャロルさんがこれに気付かない訳が無い。

 俺にとっても成功率を上げられるしキャロルさんにも暇を与えられるからウィンウィンというやつだな。


「ちょおっと待ったあっ!!」


 勇ましく元気のある声と共に荒々しくドアを開けて待ったをかけてきたのは──


「あなたは……! ソイレユ・シャイナーさん!? どうしてここに?」

「レインから聞いたよ! 今度ガーディアスへ行くって」


 ソレイユ・シャイナー。『人工太陽ソル』を作り上げ『太陽の錬金術士』の二つ名を持つ凄腕錬金術士。

 レインさんとは旧知の中で大親友。

 急な大声で乱入してきたものだからちょっと驚いた。


「そこにあたしを連れてって! 大陸中を冒険してたけどど~してもそこには行けなかったの! これを逃したら次なんて来ないかもしれないからお願い!!」


 急に何を言っているのかとも驚いたが、いくら両手を合わせてお願いしてくれても俺の心は固い。

 何人も連れて行けるなら喜んで頷いただろうけど、次なんて来ないは俺も同じ。失敗はできない。俺の失敗で困るのは俺じゃなくてアンナなのだから尚更だ。


「観光に行く訳じゃないんですよ。仕事に行くんです」

「分かってるって! あたし役に立てるよ! なんたって凄腕錬金術士ですから!」


 その腕前は理解している。別の空間を繋げて素材を預けたり、武器や道具を取り出せる『どこでも倉庫』、野宿の質を上げ過ぎてもはや別荘暮らしに買えてしまう『キャリーハウス』どちらも彼女の調合品でありレシピを大勢に広めた。

 恩恵を受けたのは確かだけどそれはそれ。


「……俺とアンナは確定していて残りの席は一つ。依頼の成功率を高めるには豊富な知識、それも魔術や呪術に関してが望ましいです。ソレイユさんは錬金術士。アンナも錬金術士。残念ですけど枠が被ってる以上ソレイユさんを入れる理由は特にないんですよ」


 理路整然と連れて行けない理由が話せた気がする。

 嫌いだとか感情論で断ってる訳ではない。求めている知識をソレイユさんが持っていないだけ。


「うぐっ!?こうなったら仕方ない……この手は使いたくなかったんだけど……」

「そう簡単に納得させられませんよ。って何を──?」


 彼女は膝を付いて、片手を床に付ける。

 まさか土下座でもするつもりなのか!? 正直言って困る……やったもん勝ちみたいな技を使われてこちらが悪人みたいにさせられるのは──


「大人の駄々こねを見せてあげる……! 冒険中あらゆる境地を乗り越えたあたしの絶技──考えを改めるなら今だよ」

「はぁ!?」


 まさか駄々をこねるってあの? 床に背中を当てて回転いして暴れるようなあの? 

 大人が子供みたいな真似をして俺の心が揺れると思っているのだろうか? いや、揺れるな。美人系の大人がいきなりそれをやったら戸惑いを隠せない。それよりも羞恥心は無いのか? レインさんと親友やってるぐらいだから年近いはずなのに。

 だけど……妙な圧を感じる。させてはいけない。止めた方がいいって首の後ろ辺りがチリチリする。


「はぁ……わかったわかった、ソレイユ私の代わりに行っていいわ」

「──え?」

「やった!」

「ど、どうしてですか? 駄々を見たくないからって譲る必要なんて──」


 まさか……実は行きたくなかったけど丁度良く代われる理由ができたと内心思っていたりしたとか?

 うっ──!? 想像しただけで心にダメージが来る……。


「別に恥を晒すのを止めたい訳じゃないわ。冷静に分析した結果よ。呪術に対して私は何にもできない。どの呪いか分析することはできるけど、もうそれも済んでる状態。知識は必要無い。あなたに教えたことで足りるはず。むしろ向こうに着いた後で必要な物を作れる人間が多い方がいい」

「だからソレイユさんの方が適任だと……」

「それに今の弱体化した私よりもソレイユの方が魔力も多いし単純に強い。知識はまぁ……私以下でも冒険してきた経験値はバカにできないはず」

「大丈夫大丈夫! このソレイユさんに任せなさい! 作れる物より作れない物の方が少ないから何でも頼んでいいから!」


 太陽みたいに明るい笑顔を向けてくれるけれど少し心配もある。実力じゃなくて信頼の問題。彼女と組むのはこれが初めて。寮ではお隣さんでも出会ったら挨拶する程度で絆のきの字も育まれていない。むしろアメノミカミの一件で一発叩かれた記憶もある……まあ、俺のせいでもあるけれど。


「ふぅ……キャロルさんもこう言ってることですしソレイユさんにお願いします」

「うむ。この選択を後悔させるつもりはないですとも!」

「なので一つお願いを聞いてもらってもいいですか?」

「何でもどうぞ!」

「アンナに錬金術を教えてやってください。凄腕錬金術士から学べばアンナは今よりも立派になれるので」


 自分の欲で利用しようとしているならこちらも利用する。

 でないと不公平だから。 

 それに、何でもいいから会話の種は用意しておくべきだ。コミュニケーション不全で望んだ物が正しく手に入らないのは避けたい……ああ、道理でソレイユさんは選択肢に入らない訳だ。アンナとなら遠慮なく欲しい物の話ができるから。


「おお……断言! いいね! いくらでも教えるって!」

「じゃあお願いします」


 爽やかにあっさりするぐらい快諾された。 


「まかされた! さ~てと、早速ガーディアスへ行く準備をしないとね。じゅんびっじゅんび~!」


 ご機嫌な足取りで資料室を後にしてくれる。

 太陽の錬金術士なのに嵐みたいな人だな本当に……とにかくメンバーは決まった。俺も俺で準備はしておく必要がある。

 夏休みまで後少し。

 この夏だけで俺が今まで過ごしてきた夏の思い出を大きく上回ってもおかしくなさそうだ。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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