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第61話 君はどうして生まれたのか?

「改めてだけど現時点で判明している破魔斧レクスの情報についてまとめるわね──」


 魔力を破力に変換する。

 200年近く前から存在しており、製作者は不明。

 多くの使い手が存在していて誰もが力に溺れ多くの国で甚大な被害をもたらした、ライトニアでも使用人による貴族の虐殺事件が起き、一族郎党亡き者とされた。

 『魔喰らいの棺』に封印されたのは約40年程前、それ以来テツオが手にするまで誰かが手にすることが無かった。けれど、封印した場所周辺の土地は魔力が吸われ続け境界線が作られたかのように荒れた土地となってしまった。

 レクスという霊魂が斧の中に存在しており、使い手と意識を交換、交代を行うことができる。この存在についてはテツオが手にして発覚。

 手にした者は性格が変わる。レクスとの交代が原因かと考えたけど、実際はその人が持つ本性が剥き出しになるから。幼い頃より魔力が無いことによって虐げられ蔑ろにされ心が歪まされ、誰もを圧倒できる力を得たことで憎悪を抑える必要が無くなったから。と今は考えられる。

 テツオの場合、魔力が無いことが当たり前の異世界で生活していたからそういった憎悪の種が無い。なによりもアンナちゃんと主従契約をしたことでいざという時の抑止力ができたのも大きい。

 そして、破魔斧になる前に大量に溜め込まれていた破力は完全に消えて、新たに魔力を与えないと破力を生成することができない。以前は戦闘開始の時点で最高火力を引き出せていたから無敵と言われ誰も勝てなかった。


「──とまあ、こんな感じかしら? と言っても望んだこと全部の答えを持っているかはわかんないけどね」

(わらわの正体じゃと……? はっ! そんなの決まりきっておる、使い手を最強へと導く戦神!)

「とりあえずレクスとは緩く繋がった状態で話を聞きますけど。彼女が何時生まれたとかわかってたってことですか?」

「そっちじゃなくてレクスの始まりじゃないの? 霊魂の方はテツが持ってからようやく判明したわけだし。誰が作ったとかどこで作られたとかそういう話をキャロルさんはしたいんじゃないの?」


 アンナは破魔斧レクスについては武具としてずっと見ていた。中に眠るレクスについての存在は認めていても意識は低い。

 どんな物にも生まれた理由がある。

 なぜ破魔斧レクスが生まれたのか、惨劇を引き起こす程の代物を生み出せたのか。最初から疑問を抱いていた。


「理解が早くて助かるわ。正直言って霊魂のレクスが何故生まれたのかはわからない。でも、破魔斧が何によって作られ、何が原因で作られることになったのかは知っている」

「誰が作ったのか知っているってことなの?」

「個人の特定は無理だけどね。さて、その破魔斧の刃はただの金属で作られたわけじゃない。宇宙より与えられた隕石によって作られているわ」

「──はっ?」

「いん、せき? ──隕石!? メテオライト!? そんな希少鉱物から作られているの!?」

(ほぅ……! 成る程納得した、特別かつ希少な存在で創られておるからわらわはここまで高貴かつ強き存在であったというわけか……!)


 興奮した様子で喰い付くアンナ。完全に予想外かつ希少素材で内なる感情が溢れ出てしまった。隕石は本の中でしか見ることのできない物質。アルケミーミュージアムにも保管されていない希少品なのだから。


「魔力を破力に変換する力、それは隕石が持つ技能(スキル)だと考えられるわ」

「この星とは違う物質だから……!」

「原理はわかんないけどね、全ての隕石が同じ効果を持っているのかも謎だし、この事実は今は魔女達ぐらいしか知らない上に緘口(かんこう)されていた。だから各地に落ちてきた隕石で惨劇の斧のようなのが作られたって話も聞かない」

「隕石はたしかに珍しい。でも、存在しないわけじゃない……! レクスと同じ強さが得られるなら誰だって作るって!」


 けれど、それは机上の空論。

 降り落ちた隕石の殆どは各国の貴族や王族が保管したり商人の種銭代わりに大事にされる。武具や防具に利用されることは稀、大きさも疎ら、片手の平に収まるサイズもあれば人の頭サイズもある。量産も再現も不可能に近い。

 現存している隕石が今も尚破力を生み出しているとしても、破力は毒ではない。魔力と似た何か。ただ、世界に定着していない存在。

 所有者が破力に気付き研究する発想に至ることは難しい。


「ここからが大事は話よ──今、魔女達が住んでいる場所は元はその隕石を祭り崇める村があった場所」

「え?」

「そういえばこれって魔女の話がきっかけだっけ?」

(村……? うっ──!?)

(どうした?)

(いや、何か知らぬ光景が頭に浮かんできた)

「キャロルさん、レクスの様子が」


 常に傲慢で余裕を持っていたレクスが話を聞いているだけでその色を失い始めている。レクスの不安定な感情が自分のことのように鉄雄にも伝わり、覇気が消えて気の抜けたような顔になってしまう。しかし、自分がそんな状況になっているのが理解できているのか両頬に手を当てて気合を入れて立ち直らせる。


「…………このまま続けるわ。村に存在する隕石は非常に大きくて1m近くはあったの。隕石が放つ力に人々は興味を持ってが少しずつ人が集まって研究が始まり、衝突の勢いで作られた窪地を利用して村が作られた」

(そうだ……わらわは、いや、わらわ達は……そこで暮らしておった……何故、今、ここで……思い出す、何故、忘れておった……あの思い出を……!?)

「その時点から破力自体は認識されていたのだと思う。未知の力がもつ可能性に魔女の国の女王は目を付けて自分の物にしようと考えた。圧倒的な武力を有しているから下出に出ることなくね」

(そうだ、戦が起きた、友も仲間も家族も──)

(おい? どうしたレクス? なんか心がこっちまでザワザワしてきたぞ?)

「もちろん村人達は抵抗した。けれど、格の違う魔術の前に成す術も無くなっていった。隕石を奪われることを悟った彼達は隕石を分割し、バラバラに逃げることにした」

(いや、違う……! 逃げたのではない……!)

「キャロルさん……全部がそうじゃないんでは?」

「ええ、その内の1つは魔女達の侵略行為を退ける為に武器が作られた。そう、これが破魔斧が作られた理由なの」

「魔女を倒すために……? 確か魔女ってすっごい魔力を持ってる人達……あっ! だから特攻的な力を持ってるんだ!」

「そうね。でも、完成したのは戦いが終わった後。自分達の村を我が物顔で占拠している彼女達に復讐する戦いが始まった。その時の戦いは凄惨を極めたとまとめられていたわ。あらゆる魔術は防がれ、黒い霧に魔力は吸われてしまう。それでも叡智を結集して狂人を打ち倒したってね」

「ひどい話……」

「勝者が歴史を作るってこういうことなんだろうな……でも、その流れだとどうして俺の手に破魔斧があるんですか? 魔女達が保管して研究材料にしているんじゃ?」

「恐らくだけど魔女と戦った者は途中で逃げたんだと思う。そうでないと多くの人に巡って斧がテツオの手に渡ることはないはずだから。それに、私の知る限り隕石は国に残ってなかった。残りの隕石はどこかに持ち出されたか隠されたかもしくは破壊されたのか。今となっては誰も知る由も無いと思う」


 破魔斧レクスは隕石を利用して魔女を狩るために作られた。

 魔力を持つ者に対し都合が良すぎる力。

 誰が何の為に作ったのかアンナは整備しながら疑問を抱いていた。腑に落ち、スッキリするが話の内容が内容だけに疑問が消えたスペースに黒い感情が詰め込まれてしまう。

 故に一つ思いついてしまった。


「破魔斧の力を知っていたならどうして回収しようとしなかったんでしょうか? 特に魔喰らいの棺に保管されている間は特に狙い目のはず」


 持ち出されたという報告は一切上がっていない。フォレストリア内で完結し揉み消された可能性はあれど、隠し通せる被害で収まる訳は無いので誰の手にも収まらず封印されていた。と誰もが判断している。


「教えたでしょ? あの国は魔力や魔術の力量が絶対的価値。あの場所に入れるのは魔力の無い人だけ、依頼するなんてもってのほか、反故されることよりも何よりプライドが許さない」


 やれやれといった表情で盗まれなかった理由を語る。

 魔女達は 魔力こそ己の価値で誇り、溢れる魔力で格が決まる。誰もが羨望の眼差しを送る。使える魔術の数が実力に直結する。

 魔を持たない存在など路傍の小石以下、目に映ったところで記憶することもない狙って探す理由すら湧かない。

 頭を下げるぐらいなら自刃する方を選ぶだろう。


「なるほど……だから今こうして俺の手に」

「ただまあ、命がけで研究していた訳じゃなさそうだし。ここまで攻撃的に変化したのには理由があると思う。本当に魔女を殺す為に作られた──」

「あの……思ったんだけど。ひょっとしたら手に入れることはできたけど研究できなくて別の誰かに売ったりしたんじゃ……」

「あっ──」


 都合よく逃げられるだろうか? もっと自分達の利益に繋がることをするんじゃないか。アンナはそう考えてしまうと。頭に浮かんでしまった、破魔斧を世に送り出したのは魔女達、各国で起きた惨劇は彼女達の実験のようなものではないかと。

 隕石ではなく破魔斧、天然物ではなく加工品、望んでいた効果で検証すら叶わず魔喰らいの棺周辺で起きていた現象を鑑みると手元に置くこと事態が毒となる。

 自分達で使おうと試してみれば身体から魔力が奪われて扱えない。無理して扱えば死に繋がりかねない。


「盲点だったわ……確かに私がいる間に惨劇の斧の回収作戦みたいなの全く聞かなかった。確かにあなたの言う通りの方がアイツららしい」


 だけれど情報は欲しい。ならばどうする?

 答えは簡単。他者に渡して観察すればいい。

 手に入れられないじゃない、手に入れる必要が無い。キャロルは驚く位腑に落ちた、ピッタリと歯車が嵌って気分よく動き始めるかのように。

 そして、自分はまだどこか魔女達の倫理観や誠実さに期待していたのだとも恥じた。


「今更だけど……キャロルさんもその魔女の国の人ってことなの?」

「極論で言えばね。今回の話も200年近く前の話だから当時の状況なんて書でしか知らないのよ」

「へぇ~、だからテツといっしょにいてもへーきなんだ」

「あのねぇ、いくら私が魔女の血を受け継いでいるとしても。魔女の心情全部受け継いでる訳じゃないって。ずっとあの国で過ごしていたらどうなってたか想像できないけどね」


 洗脳に近い魔力絶対主義の教育を幼い頃より進め、魔術を極めるための存在へと作られる。魔女は魔術を扱えるから魔女足り得る。魔女の肩書きは半端じゃ得られない。

 魔術士と魔女は違う。格が違う。

 女性の魔術士が自分を魔女と呼称することは無い。御伽噺の存在なのだから。何より、本物がやってくると噂されている。半端な実力であれば殺され、満ちていれば攫われる。そんな噂話。


(魔女……? そうだ、こやつは魔女だった──)

(なんだこの気持ち……!? 膨れ上がって……やばいっ!? これは、怒り!? 何で──)


 糸が繋がった操り人形のように自分の意思を無視して右腕が勝手に動く。腰に装備した破魔斧へ伸びて──

 

「っ──!」

「テツっ!!?」


 破砕音が部屋に響き渡る。

 その行動はあまりにも突発的で想定外だった。

 鉄雄が破魔斧レクスをキャロル目掛けて振り下ろし、本気の証明といわんばかりに壁に深々と突き刺さっていた。その表情は怨嗟と戸惑い、顔の左右で正反対二つの感情。


「もしかしたらと思ったけど本当にこうなるなんてねっ!!」


 ただキャロルだけはこうなると予期していたのか、回避に成功していた。というより、常に意識は鉄雄に向いており何が起きても対応できるように備えていた。

 それでも鉄雄から明確な殺意を向けられたのはこれが初めて。冷静な仮面の内側では恐怖で心臓が強く鼓動していた。


「……ぐっ!? や、やばい! に、逃げろ! 抑え、きれない!」

「──そうだ! 『座って!!』」


 手をかざし有無を言わせぬ強い言葉で命令すると、スカーフの下に隠された首輪の刻印が輝き出す。


「──っ!?」

 

 全身にかかる重力が倍加した感覚に陥り、斧を万力の如き力で握っていたはずなのに滑るように手を放し、骨の支えを失うかのように尻餅を着く。

 主従契約、普段使わない力であっても効果に衰えは無い。本気で力を行使するだけで神野鉄雄は無力化できてしまう。これは魔力吸収(ドレイン)で防ぐことはできない鉄雄とアンナの繋がりがあらゆる障害を無視して実行される。

 

「はぁ~……なんとか止められたぁ……」

「はぁっ、はぁっ……今のは一体何だったんだ……!? 強い、どす黒い感情が一気に流れ込んできて、魔女を……魔女を殺せって──」

「テツでもわかってないの? キャロルさんを本気で攻撃してたよ!」

「──魔女を狩る。その為に作られたのだから魔女である私に襲い掛かるのは想像できた。もしかしたらテツオの理性とか精神力で押さえつけられると思ってたけど甘すぎる想像だったみたい」

「すいません……」


 心底申し訳ない。そんな表情で落ち込む鉄雄。自分がキャロルを傷つける。そんな行動を取るとは考えられなかった例え操られたとしても恩人にそのような愚行を犯すとは。

 ただ一点、二の刃が振り下ろされなかったのは心が間に合ったからと言えるだろう。


「でも、今の今までどうしてキャロルさんは襲われなかったの? ずっとテツの先生やってたならそんな機会数え切れないぐらいあったはずなのに?」

「呪いもあってか魔女と言うには曖昧な存在だったからだと思う。そもそもどうやって判断してるのか全然分からないわ。これまであなた達が外で活動している時もこういうことって無かったわよね?」

「うん、王都でも外でもこんな風に暴走したことなんてなかった。せっかく直したのにこのままじゃ使えないよ……」

「……いや、大丈夫だ。さっきは驚いたから情けない姿を見せたけど、もう問題ない。俺の身体を勝手に使ってキャロルさんを傷つけるなんて愚行、最初で最後だ」


 立派で頼りがいのある言葉を口にしてもその姿は尻餅付いて腰を抜かした男そのもの。

 拘束を解かれ再び立ち上がると、壁に突き刺さり位置を保っている破魔斧に向き合う。

 目の前にあるのはこれまで使っていた同じ武器ではないと理解し、呼吸を整え、心に確固たる意志を携え、初めてレクスを握ったあの日と同じ思いで手を伸ばした──



 心が落ちていく。夢へと沈んでいく。何度も感じたレクスのいる場所へ向かう感覚。

 だけれど、この道は何も無かった。簡素な淡色の土管をくぐるような道だったのに、周囲の背景が粘つき揺らめき炎のような大量の怨嗟で彩られ、腹の底から絞り出したような低く蠢く声が聞こえてくる。

 彼女の住む家もいまや形無し、赤黒いナニかの集合体がそこにあった。


(──魔女は殺す)


 大量の腕が俺の身体へ伸びてきて足も胴も腕も掴まれる。痛みは無くとも何かが浸食してくるような感覚が迫ってくる。存在を奪おうとする意志を感じる。

 言葉なんて通用するか分からない。おそらく目的は復讐。二百年以上前に家族を仲間を殺された怒りがこれを作った。でもな──


(キャロルさんは関係無い。貴方達が生まれ育った場所で何も知らずに生まれ育った。魔女として育てられた。呪われ追放され、今はライトニアで生活してる。復讐したってまるで意味が無い)


 納得できない。キャロルさんが悪事を成した姿を見たことが無い。役立たずだった頃の俺の時から色々教えてくれた尊敬できる人。魔力が無くてもだ。


(──魔女は殺す)

(殺すな)

(魔女は殺す──魔女は殺す、殺さなければならない、それが悲願、我らの私達の──)

(言われなきゃ認識できなかった相手を殺すつもりか? お前達の村の生き残りが魔女を自称した瞬間にでも殺すのか?)

(……魔女は──)

(相手を選べ、復讐する相手をちゃんと見極めろ、どんな形で決着付けたいのか考えろ。そんな思い付きで発散するようなやり方で俺が納得すると思うか? 体を奪い取れると思ったか? そもそも村を滅ぼした魔女達は寿命で死んでるかもしれない、今生きているのは滅んだ理由も知らない子供達かもしれない。そんな相手に対し刃を振れると思ったか? こっちの世界に来て俺と一番付き合いが長いお前達なら分かるはずだろ?)

(…………)

(俺は確かにこれまでの自分とは別の何かになりたくてこの斧を握った。でも、殺戮者になるためじゃない。胸を張って前を歩けるような何かになりたかったんだ)


 嘘に力は宿らない。思い付きに芯は無い。

 俺は本心でコレと殴り合って抑えるしかない。魔女を殺したい復讐したい気持ちはわかっても理解することはできない。そんな渦中に巻き込まれたことが無かったから。

 なにより復讐心で俺を満たして動かし続けることなんて無理なんだ。俺の体はそんな感情を燃料にして動いた記憶がまるで無いんだから。


(ただ、世話になった、だからその恩義に報いることはしたい。それが貴方達に助けてもらった対価だから。俺が納得できる方法ならいくらでも手伝うつもりだ)


 でも、この斧が無ければ俺は今こうして生きていない、借りを返す必要がある。等価交換だ。

 まとわりつく闇のざわめきが収まった気がする。俺の言葉を理解してくれたのか、何をしてもキャロルさんを傷つけない意志に諦めてくれたのかどっちかはわからない。


(…………帰りたい)

(え?)


 多重に怨嗟の声が消え、澄んだ声ではっきりと聞こえた。


(わたし達はあの地に帰りたい。皆が過ごしていた思い出の地へ)

(そうか……なら、帰ろう。全てが終わったら、必ず送り届ける約束だ)

(…………)


 俺が適当な言葉でやり過ごそうとしていないのをわかってくれたのか掴んでいた腕が離れ、周囲の赤黒い背景も流れ始め一点へと収束し続ける。周囲がどこかの高原へと移り変わると、集まった怨嗟は人の形へと作り変えられ──


(むっ……? 一体何が起こっておったのじゃ?)

(レクス!?)

(おお? なんじゃお主呆けた顔をしおって)

(覚えていないのか?)

(何のことじゃ? ん~? というより妙にすっきりした気がするのぉ)


 見間違うことは無い、闇のように黒の長髪で雪のように白い肌の少女。何より偉そうな態度と声。紛れも無いレクス。

 つまりは、この怨嗟と復讐心の集合体がレクスということになる。レクスは個としての存在じゃない……?

 いや……これ以上の思考は止めておこう。


(キャロルさんが魔女の話は?)

(おお、ちゃんと覚えておるぞ。わらわの寄り代もメテオライト製だともな!)

(ならいい。一度接続を切るぞ?)

(どうやら無事に繋げたようじゃからな、近いうちにわらわが現世に降り立つ日も考えてもらわねばな、世界樹の一件、わらわの力添えが無ければ終わっていたのじゃから)

(考えとく)


 藪を悪戯に突く必要は無い。

 復讐について聞くのは危険だと思った。俺は約束を覚えていればいい。

 目を開けると、そこには壁に突き刺さったままの破魔斧レクス。周囲を見渡しても破壊の跡は無く二人は心配そうな目でこちらを見ている。


「ふぅ……どうやら穏やかに話し合いでできていたようだな」

「テツだよね? ちゃんとテツだよね? わたしの好きな料理わかる?」

「ハンバーグ、特にチーズと目玉焼きにソースをたっぷりかけた。それとオニンニク大目のアヒージョ、最後にパンと絡めて食べるのも好き」

「ちゃんとテツだ……」

「結構重めなのが好きなのね」

「大丈夫、ちゃんと話し合った。ほら、こうして持って破魔斧持ってキャロルさん見てもなんともない」


 刃は向けず両手で抱くように破魔斧を持ちキャロルと向き合う。多少身構える様子を見せるが穏やかで殺意の欠片すらないいつもの鉄雄を見てホッと息を吐いて壁に寄り掛かる。


「馴れないことはするもんじゃないわね……」


本作を読んでいただきありがとうございます!

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