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第41話 戦場跡地の希少品

「はぁ~……何というか食物連鎖の嵐に巻き込まれたまま終わった感じだ」

「でも巻き込まれる原因を作ったのはわたし達だからあんまり文句は言えないけどね」


 何かがやって来ることは望んでいても想像以上の存在が場を支配した。

 雷鳥にとってはアンナ達は眼中に無く、助けたという認識も無いだろう。食事に偶然居合わせた小動物。その程度。


「確かになぁ……まぁ殆どレクスに任せてたから実感ないが」

「そうだ、レクスは今どうなってるの?」

「……どうやら眠ってる。流石に頑張らせ過ぎたかな?」


 そういう鉄雄も身体の疲労はかなり溜まっている。レクスに遠慮なく身体を操作された影響で。しかし、それをおくびにも出さない。大人の強がりで。


「それにしても……あれだけすごい雷だったのに世界樹にはぜんぜん傷がないよ。葉っぱは焦げ落ちたりしてるけど枝とか幹はちょっと焦げてるけど無事そのもの」

「落雷で木が割れたり火がついたりする話は聞くが世界樹には関係無い話みたいだな」


 世界樹は健在、ドゥーナルがいた場所の近くは枝や幹に黒く焦げた跡が残っているがあくまでそれは樹皮で収まっている。 

 生命活動に支障は無くこれまでと変わらず雄大に聳え立ち続けるだろう。いや、内に潜んでいた虫が排除されたこれからはより力強くあり続ける。


「でも羽が突き刺さってはいるよ?」

「俺たちで言うなら皮膚の一番外側で済んでるようなものじゃないか?」

「……それじゃあケガにもなってないね。でもそんなことよりも、こんな珍しい素材がたっくさん手に入るなんて思っても見なかった!! 雷鳥ドゥーナルの羽! 最高峰の雷属性の力を秘めた素材! お店に出回るのも滅多なことじゃお目にかかれないよ! ライトニアで買おうと思ったらテツの給料が簡単になくなっちゃう」

「さっき1本倉庫に送ってなかったっけ? というか給料換算って……」

「1本じゃぜんぜん足りないって! 色々作りたい物もあるし羅針盤にも利用できるかもしれないんだよ! 戦いも終わった今なら安全に回収できる!」


 目を眩しいくらいキラキラとさせ、全身から欲しいというオーラで包まれている。

 そんなご機嫌な主を前に首を触れるわけも無く──


「まぁ何十本も樹皮に刺さってるしな。持ち帰らないのも失礼か……」


 大人しく採取に勤しむことにした。焦らせる存在はなくなった以上。希少素材に興味が無いと言えば嘘になるので内心ワクワクしながら風切羽に手を伸ばした。


「にしてもすごい立派な羽だ、長さだけなら孔雀と同じくらいでも広さが桁違いだ。軸も太いし柄を掴めば──ほら、まるで剣みたいになる! 雷剣二刀流と言ったところかな?」


 両手で握り得意顔を浮かべながら羽を振って風を切る。その姿は童とそう変わらない微笑ましさすらある。


「もぉ~変なことやってないで……ってさっきはすぐにしまって調べられてなかったなぁ。ちょっと貸して」

「アンナも剣士になるときが来たか……これを授けよう」

「あんまりふざけないで──わっ、思ったより軽い! じゃなくてコレに魔力を通すと──あっつ!?」


 僅かに魔力を通すと羽から紫電が走り羽柄を握っていたアンナの手に雷が襲い掛かった。

 爆ぜるような衝撃に驚き思わず羽から手を離してしまう。


「アンナ!?」

「大丈夫アンナちゃん!?」

「いたたたぁ、ちょっと魔力を通しただけこんなに雷が出てくるなんて……でも魔力を失った程度で効果が消えるような仕組みじゃないみたい」

「もう少し注意深く試してくれよな、ふざけてた俺よりも大変な目にあってどうするんだよ」

「ほんとうにそれ。でも、すごい素材なのは体で理解できた。全部回収する価値はあるよぜったい! テツには羽に魔力が残らないようにしてから集めてもらうね」

「しょうがない、今度は迂闊に魔力を与えるようなことしたらダメだぞ」

「わかってるって。ああ、帰ったら何を作ろっかなぁこれだけあれあすっごい雷の道具が作れそう……! まずは基本の雷の爆弾を作ってから──」


 痛みが痛みになっておらずむしろ快感にさえなっている。本でしか得られなかった情報が実体験で得られ、研究欲、いや錬金欲とも呼べる欲望が溢れ表情をだらしなく蕩けさせていた。


「……本当にわかってるか心配になるな。ただこの羽は魔力を電気に変換できるってことか……こっちの世界には電化製品がないからそういう使い方は当分はできそうにないか。いや、魔力で冷蔵庫とか動くんだしわざわざ電気で動くようにはしないよな……二度手間だ」

「ん? 何か言ってた?」

「何でもない。(うろ)の方に羽が集中しているからアンナ達も一緒に来てくれ」

「別にいいけどどうして?」

「単純に怖い。洞の中から生き残りがにゅって這い出てきたらビビッて木の上から落ちてしまいかねないからな」

「そんな情けないことを堂々と言うことじゃないと思うよ……」

「リスク管理と言ってくれ。自分じゃどうしようもないものを強がりで隠したって碌な事にならないからな」


 鉄雄の情けない同行希望に「しょうがないなぁ」と二人は胸に抱きながら付いて行く。

 ただ、その情けなさも実物が近くなっていくと納得する迫力を有していた。最初に見た時は隅から覗き見る形でだったが中心に立つと、目の前の穴はこれまで生きてきた中で見たどんな出入口よりも大きくて広く思わず息を呑んでしまっていた。


「底はそんなに深くないとは思うけど」

「アレがいなくなったとはいえちょっと匂うね」


 ランプを取り出し洞の中を照らすが闇が深く全てを暴くことができない。それよりも問題が三人に襲い掛かって来ていた。


「なんかこの辺りに来たら急にピリピリしてきたんだけど……」

「うおっ、二人の髪が何か広がってる!? 羽に残った電気が悪さしてるってことだな」


 洞の縁を囲うかのように大量の羽が刺さり、ドゥーナルが離れた今も魔力の残滓が雷をわずかに瞬かせていた。加えて羽同士の距離も近くその間を電気が巡っているようでもあった。


「なんか変な感じ……かゆくなってきた」


 風に揺られるわけでもなくアンナの髪の毛は花開くように揺れ動き、手櫛で整えようとしても逆に手に引っ付いて髪が荒ぶってしまう。


「長居すると体がおかしくなりそう」

「だな。洞の中を探すのは止めとくとして、周りにあるのを回収するのにとどめておくか」

「しかたないかな」


 一本一本丁寧に魔力吸収(ドレイン)の黒霧で包んでから抜き取りアンナに渡していく。それでも身体に帯電した影響で静電気ショックを何度か受けて最後の方になると嬉々とした表情は鳴りを潜めもはや嫌々と警戒した表情で受け取っていた。


「はぁ~、来るか来ないかわかんない痛みはほんと()!」

「ふふ、まあ怪我するほどのもんじゃないから許してやれ」


 尚、この男も大量の電気ショックを受けてはいる。短めの髪でもタンポポのように広がっているのがいい証拠。

 それでも平気なのはアンナと同じ痛みを共有したからか、わずかに洩れる悲鳴に悪戯心が沸いて喜んでいたからだろう。


「さてと、目に映る範囲の羽は全部回収できたことだしそろそろ下りないか? 世界樹の枝だってここにあるのじゃなくて下に落ちたのから採集するつもりだろ?」

「うん、そのつもり。でも今日は結構疲れたから枝の採取は明日にしたいかな。あれだけ大きな枝なんだから誰かに盗られるなんてことないと思うもん」

「ここから見ても普通に見えるぐらい大きいもんね。もって帰るにしても馬車が何台も必要になりそう」

「そんな馬車もこの森を抜けるのは無理。余計な心配ってことだ。後は焦らず落ち着いて世界樹を下りれば作戦完了だ!」

「ふぅ……行きと比べて帰りは楽そうでよかったぁ~邪魔な何かはもう……来ない……」


 憂いも何もない、視界に映ったとある存在を理解した瞬間に言葉はつまり、表情は徐々に険しく色づき始める。


「どしたのセクリ? 言いよどんで……あ……!」

「アンナまで何歯切れの悪そうな……げぇっ!?」


 釣られるように二人がセクリが向いている方向に顔を向けると焦りと嫌悪が混じった表情へすぐ変わった。

 何せ視線の先にはもう二度と会うことは無い、息絶えたと信じて疑わなかったユグドラキャタピラが通路を埋めながら蠢き三人に接近する姿があったのだから。


「全員あの雷でやられたわけじゃなかったのか!? それと虫食う鳥達はどうなってるんだ!? 食い残しがあるぞ!?」

「あっ! ドゥーナルの雷でみんな逃げたんだ!」

「それにもしかしたら逆方向から襲いに来ていた兵達が今到着したのかも。ドゥーナルとは反対側にいたから雷の影響を受けてなかったんじゃ……」

「女王死せども最後の命令だけを守るなんて兵としては天晴れだな」

「そんなこと言ってないでテツ、レクスに交代して切り倒せる!?」

「…………無理だ! 起きる気配がまるでない! もしかしなくても俺が気を失ってもレクスが出てこれるかすら怪しい! アンナの道具は?」

「ちょっと待って……!」


 どこでも倉庫で寮の倉庫に繋ぎ腕を必死に動かし、何かに触れるたび「あれでもないこれでもない」と口にしながら表情がコロコロ変わり。結果──


「爆弾系は使い切っちゃった──」


 群れを退ける錬金道具を失い。引きつったような空笑いを浮かべることしかできなくなったアンナ。


「セクリは!?」

「治ってないのに術を使った影響なのかなんだか危険信号みたいなのが腕から感じるよぉ」


 負担は少なめ。だが負担が無いとは言っていない。

 両手が焼け付いた砲身のように熱を帯びてジワジワと痛みをずっと感じていた。セクリが積極的に採取を手伝わなかったのは、限界を感じ手伝えなかったからである。


「こいつは……どうやら逃げるしかないな──!」


 そして、トラウマを乗り越えられてない男。

 数にして十数匹。最後の鬼ごっこが幕を開けた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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