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第38話 退くか進むか

「まさか最後の一本をそこに指定してくるとは何とも捻くれた者よ……いや、最初にそこを切り落とせたらいきなり女王と戦うことになっていたのかもしらんのか……」


 レクスでさえも戸惑って乗り気じゃない態度を見せる。無意識なのか足がずりずりと後ろに進んでいるのがいい証拠。

 でも、それを指摘する気にはなれない。だって、わたしも断れるなら断りたいもん。テツが気を失うのも無理がないぐらい、洞の中にいるイモムシ達の女王の姿は歪だから。

 イモムシがチョウへ変態する過程で完成したような両方の特徴を持っていてすごく大きい。わたし達と同じくらいの高さのイモムシの何10倍も大きい。


「近づいたら絶対出てくるよね……ボク達が枝を切り落としてるのも理解しているだろうし、兵隊の増援も近ければ近いほど頻繁に行われるよね?」

「恐らくな……近づくのは物理的に不可能とみて間違いない。鉄雄のラストリゾートが使えれば離れた位置でも枝を喰い壊せるだろうが放とうにも絶対的に魔力が足りん。雑兵共を切り落として純黒の無月(エクリプス)をぶつけようにも女王も相手になる状況どこまで通用するか……」


 これじゃあ手詰まり……特攻道具があるわけじゃないし……普通に近づいたら洞からどんどんどんどん湧いて出て木の外まで押し流されるのが想像できる。

 わたし達に羽があればまた話は変わってくるんだけど……ないものねだりは意味ないよね。

 鳥達と協力して戦えればまた話は違うんだろうけど言葉が通じ合えないし使い魔でもないからなぁ……。


「引き時じゃな……これ以上の枝切りは命に関わる。目的の枝も地上に落ちておる。魔獣達の乱入も激しい今、逃走も容易になっておろう」

「すごい弱気なことを言ってるけどそれでいいの?」

「ふん、全盛期の斧なら全員を贄とすることも可能じゃが現状それは叶わん。こやつもわらわも死にたがりではないのでな、お主らを守った上で脱出するにはここがベストじゃ」


 レクスがテツの身体をなでてそう答えてくれる。わたしはその言葉を反論することができない。レクスはテツの「わたしをぜったいに守る」って意志を継いで言ってくれている。ここが確実に守れる限界なんだと思う。

 今なら魔獣達の侵入も多くてイモムシ達もわたし達に集中して攻撃する余裕もないみたい。幹を伝って下りても落下攻撃の頻度も少ないと思う。

 やれることはやった、世界樹の枝は簡単に回収できる物じゃないから盗まれる心配もない。葉っぱも何枚か手に入った。できすぎてるぐらい。

 それにセクリの腕も気になる。これ以上無茶させたら腕の機能に障害が残るかもしれない。


(どうやらここで帰るみたいだね。まぁ……これ以上を求めるのは人の身には酷かな? 新たな風が入って来ているのも事実だから、後はなるようになるよ)


 精霊の言葉にも諦めが感じられる。

 わたしよりも強いレクスも無理だと言う、セクリも無理させられない、ここでお終いにすべき。

 でもなんだろう…………まるで諦めることを整えられていくみたいで気持ち悪い……。 

 本当に不可能なのかな? 本当に、最後の枝を切ることはできないのかな? 本当にもうやれることはないのかな?

  まだどこでも倉庫の道具は空っぽになってない、体力も魔力も残ってる。限界まで足掻いていないのに「やりきった」って心の底から納得できるのかな?

 次同じような状態になったら「これでいいや」って諦める癖がつかないかな?

 よし! 状況を整理しよう──

 世界樹という戦場。見落としはないかな? 輪になった道が落下の心配も少なくて戦いやすい場所。ここ以外、特に枝は足場も不安定で横に跳ぶだけで落下する。忘れちゃいけないのは壁でもある幹、ものすごく頑丈でフェルダン程度じゃ傷がつかない。

 このまま道に沿って最後の1本を切りに向かってもイモムシ達が壁になって近づけなくなるのが想像できる。それに加えてぜったいに女王が守ってくるはず。

 あれ……? 守るって言っても、相手もわたし達が切りたい枝ってわかってるのかな? 枝を切る外敵っていうのは理解してるはずだけど、もしも切りたい枝がわかってたらそこにイモムシをびっしり貼り付けていてもおかしくないもん。でも、3本切るまでそんな様子はなかった。どれもわたし達が先に切る枝に到着してた。

 洞に近づくと女王を守る兵隊は多くなる。女王だって近くに危ない存在がいたら直接追い払おうと動く。それは自然で当たり前。

 もう少し。もう少しでいい方法が見つかりそうな気がする。

 何か勘違いしているような気がする。 

 もっと簡単な方法があるはず。難しく考えすぎてるかもしれない!

 枝を切るためにはイモムシを……あっ!


「──前提条件にこだわりすぎてたんだ……」


 ずっと邪魔してきたからそう思い込んでたけど。別にそんな決まりごとはない。

 イモムシ達を排除しなくても枝を切ることを優先すればいい、理想的に言えば気付かれることなく枝だけ切って逃げればいいんだ。


「む? 何かスッキリしたような顔をしておるがどうかしたのか?」

「最後の1本だけど、イモムシ達と戦わず先に切り落として後は外からの増援に期待するのはどう? バルスガルム級の魔獣がやってきて狩ってくれると思わない?」

「まったく何を言い出すかと思えば、戦わずに先に切るのができれば苦労せんわ」

「だって洞の前なんだよね? 必ずイモムシ達の索敵範囲内に入っちゃうよ」

「うん、戦わないっていうのは理想だけど、それに近いことはできると思う」


 このまま輪になってる道を普通に進めば絶対に切り落とせないのは確か。

 だけど、この世界樹全体を見れば道は無数にある。相手が使った中央の壁であり上に伸びている幹、わたし達が避難に使った外側に伸びている枝、それに登ってきた幹。

 道は立体的に伸びている、平面的に考えたら不可能でも立体的に考えたら切る枝への道は見つかるはず!


「何か案があるなら言え、聞いてから判断する」


 レクスの瞳はわたしを試すようなそんな雰囲気がある。

 きっと納得させるだけの何かがないと力を合わせてくれないと思う。

 撤退をひっくり返すだけの可能性を見つけないと!


「うん、ありがと。ふぅ……まずね女王を含めてイモムシ達はわたし達が切ろうとしている枝はわかってないと思う。でも、このまま洞に近づくと女王を狩りに来た外敵と複合して認識されると思う」

「ふむ……確かにあ奴らにそんな素振りは見えんかった、ただ最後の一本の位置関係上、混ざって考えてしまったか」

「それが勘違いだとわかったらやりようはあると思わない? そこでレクスにはこれを使って別方向からいっきに近づいて枝を切ってほしいの。わたしが錬金道具を使って囮をするから」


 幹を登るときに活躍した「リザードグローブ」これを利用すれば上と下、両方に道が伸びる。道に沿って進むよりもぜったいに枝に近づきやすい!

 成功確率を上げるには単純に囮がいればいい。いくらわたしに枝を切る力がなくても爆弾の連発には警戒するはず、女王なんだから自分がケガすることを何よりも嫌うはず。


「案はよいが、足りぬな。おそらく連中はわらわが枝を切ることを含め女王にあだなす脅威と認識しておるだろう。わらわだけが消えても索敵される」

「あっ、そっか──」


 そうだ……! 今だって監視されてるかもしれないんだから、戦闘と同時に別方向に行けばぜったいに警戒され続ける。

 レクスが気付かれずに近づくのが大前提。どうやってレクスを別の位置に移動させれば……。


「目くらましの道具は無かったか?」

「ちょっと待って……確かテツが貰ったのがあるから」


 どこでも倉庫にしまったのを覚えている。

 調査部隊で支給されていたって──あれ? 何でレクスが助言をしてくれてるんだろう? このまま「できない」って撤退に話を持っていくこともできたんじゃ?


「でも目くらましができたとしても……いないことがわかれば探そうとするよね? むしろ警戒が高まるんじゃ」

「むぅ、確かにこの開けて風通りの良い場所では煙も晴れやすいわらわがいないとわかればすぐに捜索態勢に移行するのが目に浮かぶ」


 まぁ、セクリも乗っかって来てくれたしなんだか話が良い方向に進んでいる気がするから余計なことは言わないでおこう!

 大事なのは目くらましで姿を隠して移動。だけど、移動したことをバレないようにすること。

 なんだかあべこべだ。方向性は間違ってないと思うんだけど、これじゃあレクスがふたりいないと成り立たないような──


「──あっ! 師匠の分身の術! エスケスモークと組み合わせてた! レクスもできない?」

「そんな魔術覚えてはおらん! こやつの知識にもそういう類の術はあるが実用できるかはまた別じゃ」

「分身……ねえ、用はここにレクスがいればいいと思わせればいいんだよね? あの鎧の術って使えないかな?」

「黒鎧無双か? あれはわらわが鎧を纏う術、分身には……いや待て! お主の言いたいことがわかった! 確かにそういう使い方は初めてじゃが煙幕と合わせれば奴ら程度誤魔化すのは容易かろう!」

「えっ? え? 何か思い付いたの!?」

「どうやら尻尾を巻くのは早いようじゃな。こやつの意志に従って逃げるよりも圧倒的な力を見せつけて勝者となるのがわらわの性に合っておるわ!」


 何だかすごい行けそうな空気でいっぱいになってる!

 レクスとセクリの意味を理解して感心して、作戦をどんどんと練っていった。

 するた不安定なわたしのワガママな思い付きが今じゃあぜったいに成功する予感しかしないものに進化してた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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