第35話 混沌を駆ける者
目指すは2本目の枝!
「すまぬが、時間を稼いでくれ! 10秒、いや5秒あれば切り裂ける!」
「まっかせて!」
「わかったよ!」
もうわたし達には枝を切り落として鳥達を引き入れて戦ってもらうしか逃げ道がない。ユグドラキャタピラの標的がわたし達だけだと逃げることは不可能だけど、鳥達が増えることでそうも言えなくなる。わたし達に集中すれば別方向の攻撃から無防備になって簡単に狩られるから。
次の枝に到着するとすぐにレクスが大きく振りかぶって構えてくれる。
5秒。
普段だったらすぐに過ぎてしまう時間でも。こんな状態だとすっごく長く感じる。
視線の先には道を埋め尽くして迫ってくる大量のイモムシ。何もしなかったらすぐに追いつかれて押しつぶされるのが勢いでわかる。それに糸を吐かれても危ない。そうなったら溶かす余裕もない!
「こうなったら……! 盾改め……壁」
樹皮に沿って魔力障壁を厚めに展開!
いくら道があるぐらい広い樹上と言っても地上とは違う。横道なんてない! 踏み外せば真っ逆さま! 魔力障壁をしっかり展開すれば道を塞げる!
想像通り障壁に激突してくれてるし進行も止まった!
でも──
「な、なんて強さ……!」
自分が押しつぶされるのも気にしないような強烈な突進。魔力を高めないとすぐに割られそうになる!
床面や壁を支えにしながら障壁を作っていても身体を押し付けて無理矢理押し破ろうとしてくる!
こんなの暴れた川をわたしひとりで押しとどめるようなものだもん。長時間はぜったいムリ!!
それに仲間の身体を階段みたいにして壁をよじ登ろうとしてくる!
「天の鏑矢!」
「セクリ!」
「越えてきそうなのはボクが撃ち落とすから!」
セクリの光矢が打ち落としてくれるならだいじょうぶ!
これで時間は──
「純黒の無月──」
後ろを振り向いたら黒い半円が枝を貫通してる。それに今度は綺麗に1回で成功してる!
さっきよりも枝はすこし細いけど大木と変わらないし高さはすごい。落下したらすごい衝撃が襲ってくるはず。
世界樹から落ちないように備えなきゃ──あれ?
でも、ここで壁を解除したら……あれ?
──どうしよう!?
「どうしよう!? このまま解除したら押しつぶされるよ!?」
それに限界も近い! 押してくる力がどんどん強くなってる! 障壁の亀裂を直す余裕もなくなってる!
「アンナ! もう少し耐えよ! わらわの術で殲滅するから合図で解除せい! ──暴虐の王が告げる! この世全ては我が供物。全てを喰らいし暴虐の牙よ! 馳走を貪る強欲、王道を遮る愚者に憤怒の裁きを今ここに下す! 顕現せよ──(今じゃ!)」
念話が伝わって。急いで解除!
「贄の狂塔!」
タイミングばっちり!
虫達の足下から黒いトゲが沢山生えて貫通して串刺しにしてくれた。こんな術があるなんて初めて知ったけど、これはテツじゃなくてレクスの術だってすぐにわかった。
でも、後もう少ししてたら障壁も壊されてた──
「気を抜くな!」
「わっ!?」
溜息を吐いたところに強い力で腕に抱かれて倒れる。その直後ビリビリって振動が伝わってくる。落下した枝の衝撃がここまで来たんだ。
「……ありがと、助かった」
「ふん、鉄雄ならこうしておっただろうから、わらわもそれに従ったにすぎん」
少し照れてる。同じ顔でもテツの照れ顔と少し違うんだ。
「ふたりとも気をつけて! 虫が幹に沿って来てる!」
「攻め方を変えてきよったか!?」
(順調そうだね。次に切るところは示してあるよ)
のんきな声で言ってくれるからすごく苛立ちを覚える! それに休憩する暇もなくて本当忙しい!
3本目の位置も……うん、わかった。円で例えると大体120度くらい進む必要があるからちょっと長い。
それに状況にも変化がある。切り落とした枝から新たに巨大鳥がやってくてくれてる。2ヵ所出入口ができたおかげで鳥達の流れが変わった! 幹を周回し続けて追い込められることもなくなったし、出入りに混雑してぶつかる子も少なくなった!
「それとアンナ! 緊急事態じゃ! ボトルの魔力が残り純黒の無月一発分しか残っておらん!」
「何で急に!? そんなに消費が激しかったの!?」
「全力のエクリプス三発にテラー・シンボルで大体二本半消費するようじゃ!」
「ええ!? テツの使い方すれば消費は抑えられるんじゃなかったの?」
「わらわが使うと大して消費量は変わらんのだ」
胸張って言うことじゃないって!
こうなるんだったらもっと用意しておけばよかった!
落ち着かないと……今反省しても意味がない! このままレクスが術を使わないでいてくれたら1本は確実に切れると思う。でも最後が切れないことは変わらない。
ここでどうにか魔力を調達するしかない!
「虫達から魔力は奪えないの?」
「とっくに試したがこやつらは魔力が大してない! 糸の攻撃も生物特有の能力で魔術ではないから吸う意味がない!」
確かにイモムシが糸を吐くのは当然。魔術じゃない。
それにあの肉体。落下攻撃といい魔術よりも肉体で攻めてくるタイプ。魔力を必要としない。だから奪える魔力もそんなにないんだ。
「でもわたし達の魔力をあげたらそれこそ……」
打つ手なし。
色々と道具の用意はしてきたけど失った魔力を補うには足りない。使うつもりはなかったけどもしものためにフェルダンはある。もし使ったら世界樹が燃える──とは思えないけど相当な覚悟が必要になるかも。
風の爆弾とか雷の爆弾があれば話が違ってたんだろうけど素材がなかった──! 風素材は高いし、雷素材は単純に珍しくてこの辺りじゃ手に入らない。
って、またいらない反省してる! ともかくわたし達の魔力をあげたら状況を切り抜けるどころじゃなくなる!
「──待って! 目の前にあるよ! 大きすぎて気付けてないけど世界樹にはすごい魔力が秘めてるんじゃないかな?」
「確かに! 世界樹から吸い上げれば解決するかも!」
「試す価値ありじゃな。地面に差したところで微々たるものじゃがここは世界樹! いつもの感覚が抜けておらんかったわ! ならば切るべき枝を言え!! そいつから魔力を吸い上げる」
「この先の──うっ!?」
前からも襲ってきた!? これじゃあ通れない!?
あの数からして最初から両方から攻めてたってこと? 確かに道は輪みたいになってるから挟み撃ちになるけどここまで考える頭脳もあったなんて……。
「こいつは少々危ういのぉ……不意打ちならあの程度すぐ済むが……対面ではな……」
わたしが全力でぶつかっても逆に跳ね返されそう。
鳥達も食料求めてイモムシ達を襲ってはいるけどいっぽうてきに倒せてるわけじゃない。
糸に絡まったのも何匹かいる、皆が満足したり逃げに集中したらこのわちゃわちゃした状況がおさまっちゃう!
「ねえ……最短距離は無理でも遠回りならいけそうじゃないかな?」
「道なんて……あ──!」
セクリが指を向けている先に視線を移動させるとすぐにピンと来た! 外側に伸びている太い枝、それを伝って枝と枝の重なりを利用して進めば塞がりそうな道も回避できる!
「しかし……外側に行くのには妨害はいなさそうじゃが、切るべき枝がある内側に向かう時奴らは同じように塞がないか?」
「それはそうだけど、今完全に囲まれるよりかはましのはず! 行くよふたりとも!」
レクスの言うことは確かに正しい。けど、今はそこしか道がない!
今囲まれたら先がなくなっちゃう!
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