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第26話 非番の調査部隊

 護国の為に毎日尽力している騎士達も月の日は交代で非番を取っている。

 ただ、防衛部隊は巡回や守衛、休日こそ仕事が多くなるので太陽~土の日の間で非番を取っている。

 逆に人数も少なく任務も少なければ今のところ影響力の少ない調査部隊は月の日に全員が非番を取っても問題がなかったりする。

 そんな訳でキャミル、レイン、サリアンは王都南東外縁にある隠れ家的喫茶店『オウル』にて談笑していた。


「テツオ達が世界樹の牢獄に向かって3日かぁ~体よく仕事を押し付けられた気分で良い気がしないわぁ、早いとこ帰ってこないかしら?」


 透明感のある緑色のお茶をカップで頂きながらそんな愚痴を零すキャミル。鉄雄がいる方が仕事が速いのは事実だが、単純にサボり辛いという心理が働き、早く仕事を片付ける方向へシフトしただけである。


「そんなことを言うものじゃないよ。彼から巨大花のダンジョンの報告も届いただろう?」


 先日鷹によって送られたニアート村から騎士団本部へ調査資料。現在ニアート村ではダンジョン掌握作業が行われているため、空便といった情報交換機構の用意がされている。

 積載量は少ないが人の足や馬車よりも早く安全。鉄雄の送った資料も夜のうちに届けられ朝には共有されていた。


「資料は読みましたけどあの男とアンナが攻略したって言うのは本当なんですか? 修行を付ける前のアンナや鉄雄じゃ到底無理な気がするんですけど」

「攻略とは違うけど間違いなくあの2人がダンジョンの主を倒したのは間違いないわ」

「あんたには聞いてない」


 わかりやすく態度を変えて刺々しい態度を取るサリアン。

 貴重なレインと共に過ごせる休日に横入りしてきたキャミルに敵意を抱いている。ただ、先客はキャミル、後から二人が入ってきたのは事実でもある。


「まあまあ、おそらくあの時は『レクス』に意識を渡して難を逃れたのだと思う。正直言ってあの時のテツオでは何もできなかったはずだ。訓練で実力の変化を見ているから間違いないだろう」

「なるほど!」


 武器の振り方も身体の使い方も体力も何もかもが未熟なのを知っているからこその言葉。そして成長していった。しみじみとした表情で訓練の日々を思い出していた。


「問題はあの奥よねぇ……最悪な光景で満たされていそうで今から気が滅入るわ」

「どういうこと? ただ太すぎる根か何かで塞がれているって話じゃないの?」

「……私達が進んだ道に居住区と言えるような場所が無かったんだ。ダンジョンには錬金術士の実験施設的なものもあるけれど、大勢の人が生活できる居住区と呼ばれる領域もあるんだ。あのダンジョンはおそらく複合型。アトリエ部分は既に見つかっているからね」

「なるほど! わかりやすい感謝します!」


 お面を付け替えるみたいによくもこう表情を変えられるものだと、呆れた顔でサリアンを見るキャミル。

 信者なのは既に理解しており、もはや慣れたやり取りである。


「そういえばレインは世界樹の牢獄へはいったこと無いんだっけ?」

「いいや、修行のために行ったことはある。でも、世界樹素材の為に向かったわけじゃないからね」

「なんと!? レイン姉さまも行ったことが!?」

「何か色々教えてあげればよかったのに」

「当時は強くなることを考えすぎていて環境や魔獣について覚えている余裕はなかったんだ。それに生き残るのに必死でね、魔獣や食べ物についてはその場その場でやり過ごす毎日だったよ」


 楽しい思い出など無い過酷な日々。キャリーハウスなんてないサバイバル生活。食べる物に困らない肥沃な土地故に、実力が無ければ肥えた餌になるだけ。

 それを生き抜き勝ち抜き今の立場を手に入れたと言っても過言でもない。


「じゃあ世界樹の枝とか実については何も知らないってこと?」

「実物についてはね。ただ──実についてだけれど今思えばあれは実の奪い合いだったのかもしれない」

「ええ!?」

「え!? どういうことよ?」


 二人はわかりやすく喰い付く。


「8年か9年前か……そもそも私が牢獄へ修行へ向かおうと思ったのは森の空気がおかしいという噂を聞いたからなんだ。地獄のような環境で鍛えなければ強くなれないと思ってね」

「なんと……あの美麗な強さはそうして磨かれたのですね!」


 武闘大会で活躍したレインに見惚れたのがサリアン。

 当時の記憶も想起され強さの土台の一つが知れたことに悦楽の表情を浮かべていた。


「当時焦りや復讐心に満たされ、強さに貪欲であった私でさえも世界樹に向かうのは躊躇した。殺気の色が違ったんだ食うか食われるかじゃない明確な目的を持った殺し合いだと。中心に近づけば近づく程その空気は強く濃くなっていた。それでいて神聖とも言える歪な雰囲気だったんだ」

「それが禁断の果実の争奪戦……」

「ふぅ……でも、レイン姉さまの話を聞く限り魔獣達だけで行われたのではないでしょうか? 誰か人間が手に入れるなり食したなら噂が出てもおかしくありませんし」

「ああ、全て森の中で完結したと考えてよさそうだ。1ヶ月ぐらいしたら森の空気もはっきりと穏やかになったのは記憶にある」


 事実、どの国でも新種の生物や変異体が出現した噂は広がっていない。

 人であれ魔獣であれ。世界樹の牢獄から抜け出したという情報はニアート村にもあがっていない。


「……じゃああの森には実を食べた何かが今も潜んでるってこと?」


 森の中で完結している。つまりは果実に選ばれた存在が今も尚森にいるということ。そう繋がり想像した。


「だとしたら危険なんじゃ……! 今のテツオ達なら世界樹に到達することは想像できる。実を食べた存在が根城にするとしたらそれは世界樹になるはず!」

「流石に考えすぎかもしれないね。あの森に住む魔獣達は非常に狡猾で能力も高い。世界樹の実の効果も曖昧な現状、食べただけで王として君臨できるとは思えないよ」

「大事な後輩ができたからって心配しすぎなんじゃないの~?」

「なっ!? ──確かに想像しすぎかもしれないけど、調査部隊としてそういう想像力は養っておかないといけないでしょ」


 森に身を置いて適応したレインの冷静な言葉に、ここぞとばかりに鬱憤晴らしを含めたからかいの感情を込めるサリアン。


「否定はしないんだ」

「また変なところを突いてくるわね……! あなたこそ弟子が心配じゃないの?」

「アンナに余計な心配はいらないでしょ。あの子は錬金術士じゃなかったらどんな戦士なるのか想像つかないぐらい伸び代がある。土台を整えてあげただけでああも成長するなんて流石はオーガの血が混じってると言えるわ」


 余裕綽々と心配の欠片すらしていない。信頼というよりも楽観的に近い。

 それだけアンナの潜在能力の高さに加え、力が芽吹いていることを理解していた。


「まあ心配ならニアート村に行くのが良いだろうね。国の復旧も殆ど終えているし重要な調査依頼も来ていない。ダンジョンの監査や村周辺の調査含めて出張しても止めやしないよ」

「何か変な勘違いされてそうで腹立たしいわね……」

「あら? 勘違いとは何をかしらね? 賢いあんたにくわしく、ご教授願いたいものね」


 同じ調査部隊の仲間であり、年上の後輩。

 困ったことや知らないことがあれば真っ先に聞かれるような間柄。

 のんびり適当に流す騎士団生活が今では魔術講師として鉄雄に魔力もとい破力の扱い方を教授している。 おまけに鉄雄が国を救った英雄扱いされ、その英雄に叡知を与えた人物として最近では他の部隊や貴族からも魔術講師の依頼が届くようになってしまった。

 

「はぁ、テツオに関わってから私のまともな休日が月の日しかなくなったのよね」

「……いや、それが普通なのだが……いや、違う。キャミルも一応騎士なのだから毎週決まった日に休みがあるわけじゃないんだけど」

「やることが増えたんだからいいじゃない。鉄雄が来なかったら肥えた豚よりも酷くなってたんじゃない?」

「酷い言われようだわ……」


 嫌々な表情を浮かべながらも、キャミルの頭の中ではニアート村にいく準備を整え始めていた。

 世界樹の牢獄への好奇心が上がったのもあれど、自分の想像を拭い切るには自分の足と目で確認するのが確実だと判断した。

 決してそこには後輩に対して特別な情を感じている訳ではないと言い聞かせるように。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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