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第9話 理想の先に潜むモノ

 テツと分かれたわたし達は『世界樹の牢獄』の入り口近くまで到着すると、見下ろした先に広がった光景にとっても驚いた! 緑の絨毯で覆いつくされたみたいに木という木で埋め尽くされてた。森という言葉じゃ表しきれないぐらい。そして中央には他の木が追いつくことができないぐらい高い木があってわたし達いる場所まで届いてそう。

 そう、森に繋がる道はとっても高いところにある! 世界樹の牢獄に入るには山脈に沿って作られた道を下らなければいけないの!

 そもそもニアート村は山間にある村で王都と比べると寮の屋上を簡単に超えるぐらい高い位置にあってこの村からさらに東に進むと、わたし達が行ったダンジョンの入り口。前回来た時は気づかなかったけど、別の道もここにはあって、そこを進むとここに到着する。

 危険で有名な場所の近くだから警戒はしていたけど、大きな障害も魔獣に襲われることもなくあくびしそうなぐらい簡単にたどりつけちゃった。

 後、目的地を示すみたいにここにはわたしと同じ位の高さをした風で飛びそうに無いどっしりとした石の塔が置いてあって目印としてわかりやすい。


「これが世界樹の牢獄……こんなに緑と魔力が濃い場所なんてはじめてみた」


 すり鉢状の広い広い山脈に囲まれていて、その山脈も崖みたいに急で登ることが難しそう。王都みたいな形だと思ったけど大きさは何倍も違う。

 明日ここに入るんだと思ったら肌が震えた。だって1度入ったら出られなくなりそうだって思えた。だからここが牢獄なんて怖い名前がついているんだと心からわかった。 


「あの真ん中にある木が世界樹だね。植物に詳しくなさそうな子でもすぐにわかるぐらい大きい……枝とか葉っぱを素材にするって聞いたけどどれくらい大きいんだろう……?」

「手のひらサイズってことはないと思う。ひょっとしたらテツをぐるぐる巻きにできるぐらいはあるんじゃないかな?」

「まさか~! ……まさか?」


 冗談が冗談じゃないような気がした。ここからじゃ遠すぎて実際の大きさはわからない、濃い緑に覆われていて1枚1枚の様子なんて測りようもない。

 こうして見てもやっぱり不思議だ。あれだけわかりやすい位置にあるんだし魔獣でもないんだからもっと世界樹の素材はライトニアで広まっていてもおかしくないと思う。

 テツに教えてもらったけど、もともとニアート村は世界樹の素材を安定して採取するために作られた中継地点の役目を持ってたみたい。

 でも昔に大変なことが起きて今は王都と世界樹を繋ぐ中継地点の役目だけになってるんだって。

 う~ん……1度の失敗で採取計画を止めるなんて何があったんだろう?

 やっぱり……


「とても1日で世界樹にたどりつけなさそうな広さだよね……暗い夜の中、虫や魔獣がテントを破ってゆっくりと襲ってくるかもしれない……キャリーハウスが無かったら休むことすらできなさそう」


 この森を拓いて道を作るのが難しすぎるんだと思う。わたし達が立っているここを1日の始まりにして、森を切って、襲ってくる魔獣や何かと戦って、1日の終わりはここまで登ってくる。

 逃げ場や拠点を作れそうなところがどこにも見えない。世界樹の近くが1番安全そうだけどそこに着くのが目的。あやふやになる。


「ボクもキャリーハウスには驚いたよ! 昨日の動作確認も上手くいったし、アンナちゃんにはお家造りの才能もあるんじゃないかな?」

「褒め過ぎだって! でも、村にいたときは家の修理はわたし1人でやるしかなかったからそれで身についたのかも」

「中々大変な生活してたんだね……」


 セクリが同情してくれてる……まぁ、わたしもよくやってたと自分を褒めてもいいと思う。

 雨漏り、風穴、ひび割れ、色々あった。壊れ方に合った必要な修復材料を調合して、屋根に登ったり壁の穴を埋めたり……こっちに来てから考えることなかったなぁ……。ひょっとしたら村の家は壊れてるかもしれないけど、大事な物はこっちに持ってきてる。心配はない。

 あっ、そうだ! そのときはキャリーハウスをポンって出して新しい家にする方法もいいかも!


「──そういえば、地図には水場が書いてあるけどここからじゃぜんぜん見えない!」

「森が壁というより蓋になってて地表が隠れてるんだよねぇ……おかげで地形も見えないから丘とかがあるのかもわからないのも問題だよ」

 

 さっきから水場が見えないかな? と探してたけどセクリの言う通り森が蓋になっててぜんっぜんわからない。合ってるのかだまされてるのかもわからない。地面が見えるのは世界樹の根元ぐらい。でも、周りの木が塀みたいになっててよく見えない。きっとあの辺りは栄養も日の光も全部世界樹がひとりじめするから植物が育たないんだと思う。


「──あ、見て! 鳥が世界樹の周りを飛んでるよ!」

「本当だ! 巣にしたりしてるのかな? ……あれ? ここからでも見える鳥……?」


 ここから世界樹までかなり距離はある。大体は点みたいな大きさで視認はできないはず……でも確かに小さいけどくっきりと鳥の形が確認できる。


「──ってあれはメルフィルス!? ここにもいるんだ!」


 金属的な光沢を持つ赤や茶色の羽に木を枝にしそうな巨大な体。間違いない、大型鳥系魔獣『メルフィルス』だ! それも3匹! 村でも見ることはめずらしくて、高いところにいても羽ばたく風が地に届くぐらい力強くて1日で大陸を1周できるぐらい速いって噂もある、人間じゃ戦うのすら難しい空の強者。

 3匹はそれぞれ高さを変えて世界樹を旋回してる。何をしているんだろう? 世界樹に何か獲物でも求めて──


「──えっ?」


 のんきに想像していたらいきなり1匹が墜落を始めた──。

 葉が生い茂った下の方を飛んでいた1匹に白い線みたいなのが沢山翼に絡まって体勢がくずれて、羽ばたくことができなくなったのか地面に向かって落ちていった。

 落下の衝撃で舞い上がった砂埃がここからでも見える昇っていく。残った2匹が気付いて助けるかのように地面に向かっていくと、大量の線が再び降り注いでメルフィルス達に当たり、2匹とも地面に落ちてしまう。

 そして、飛び立つ姿は見られず、木々の陰に隠れてしまってどんな様子なのか見えなくなってしまった。


「今のって……!?」

「あれは糸……? 世界樹から糸が発射されたの?」


 セクリも目が点になって驚いてた。このまま飛び立つことができなくなったら森にいる魔獣達に襲われて食べられてしまうのがすぐ頭に浮かんできた。

 世界樹に到達できれば問題ないと思ってた、そこまでの道が大変なんだって。でも何かが潜んでいる。大型の魔獣を撃退できる力を持つ何かが。

 ……世界樹の枝を手に入れるには樹に到着したうえで何を倒すなり何かをしないといけない。お父さんを探すためには世界樹の力以上に相応しいのは思いつかない……でも、最悪の何かが起きたら……ううん起きる前に諦める必要が出てくるかも。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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