第3話 太陽の施し
アンナちゃんとテツオのお世話役で使用人なボク、「セクリ」が任されたのは中央広場。花壇と噴水、芸術祭のガラス像も飾ってあってとても華やかで綺麗な場所。
ここは大通りと比べたらお店の数は少ない。でも、なんというか品格が違う気がする。屋台の大きさも装飾具合も広いし豪華。
それと身なりの良い人がここに来ているみたい。普段買い物に行くとき使用人の服を着ていると目立って視線を浴びることも多いんだけど、ここにいると逆に目立たない。おじ様おば様と並んで歩くだけでその家の従者に間違えられそう。
そんな方達が屋台の前で足を止めて品物を見られているので、ボクも一緒に覗いてみると。
「ふ~む30000キラですか……ここでこれ以上の出費は避けたいところなのですがね……いかせてもらいましょう!」
何ヵ月分はありそうな食費に匹敵する数字の大きさに思わず目を見開いて驚きそうになった。いけないいけない、この状態だと清楚に瀟洒にしてないといけないのに。
これは銀……じゃない、白金の輝きだ。白金の箱に色とりどりの宝石であしらわれたオルゴール。30000キラの値が──あ、35000に上がった。
煌びやかなオルゴールの前に書かれた値札が付け替えられる。価格の隣にはおそらく名前が掛かれてる。
これは競売形式だ。1番高い金額を提示した人が手に入れることができる販売形式。
沢山の商品を用意するよりも渾身の1品を用意する訳だから錬金術と相性はいいかもしれない。アンナちゃんが作った『アブソーブジュエル』なんて大量生産できなさそうだけど、ミュージアムに認められる程の品。競売で売れば1番になれるかも?
他のお店を回ってみても中央広場にある屋台の殆どがそんな形式。置いてある商品も2つか3つ。でもなんだろう? 色鮮やかで煌びやかな魔道具や調合品があるのはわかるんだけど……圧を感じない。
『アメノミカミ』や『人工太陽ソル』みたいな別格は置いといても、触れるのを躊躇するような神々しさが無い。レクスさんに連れていかれた服屋さんではこちらよりも低価格でありながら気高さを感じられる品々と出会えたのに。
ただ綺麗なだけで特別な効果を持っているように思えない。軽いというべきなのかな?
ぐるりと1週しそうになると何にも置いてないお店に出会──
「あっ──! あなたは!」
「ん……? あなたはソレイユさん! あなたもお店を出していたんですね」
急に声を掛けられてビックリしたけど、真っ赤な髪と瞳ですぐに誰だかわかった。
彼女は『ソレイユ・シャイナー』代表作は『人工太陽ソル』っていう名前通りの太陽の熱と輝きを発生させる道具を作った凄腕の錬金術士でテツオの命の恩人でもあるんだ。
それとマテリア寮ではお隣さんでよく顔を合わせることもある。
「こういう時にお金を稼がないとね! アンナちゃんやテツオは? 一緒じゃないの?」
「バラバラに探索しています。初めてのバザールなので、効率よく調べて回ろうと思いまして」
「そっか……じゃあここに来るかもわからないか……それならセクリさんにコレをお願いしてもいいかな? アンナちゃんに渡してほしいんだ」
そう言って手渡してくれたのは1冊の本と幅が広い模様の付いた指輪。それと手で握れるサイズの塔みたいな装飾品。
オモチャな見た目でもズシりと来る圧。ただの装飾品じゃないのが触れた先から伝わってくる。
「こちらは……?」
「あたしが作ったレシピ本『冒険のおとも!』と前に使っていた『どこでも倉庫』。あたしのおさがりで申し訳ないんだけどね」
確か「どこでも倉庫」はどこにいても倉庫に繋がる。そんな技能を持っている道具! 何もない空間から杖を取り出したり、逆に杖を何もない空間から倉庫に送ったりすることができる便利すぎる道具!
これがあれば市場で買ったそばから倉庫に送ることができてずっと手ぶらでお店巡りができるようになる!
──じゃなくて!
「どうしてこちらを? 商品であるならきちんと支払わせて──」
言い切る前に手で遮られてしまう。それになんだか複雑そうな申し訳なさそうな笑顔を浮かべてる。
「お礼……というより謝罪かな? 彼があんな憎まれ役をやったのが先を見据えたことだなんて想像できなかった。レインが教えてくれたんだ「テツオと同じことを言われた」って。先に言われてなかったら戸惑っていたかもって」
何の話だろう……? でもなんだかソレイユさん達にとって感謝されることをやったのは確かみたい。それも何だか自己犠牲にしたような……じゃなきゃこんな顔しないと思う。ボクに内緒で何をしたんだろう? 相棒として話しておくべきじゃないのかな?
──ともかく。ここで断るのは遠慮じゃなくて逆に傷つけることになるかもしれない。それに何よりこの道具はアンナちゃんにとって世界が変わる道具になるはず。
荷物の問題が解消されたらどこまでも遠くに行けそうな気がする。だって……ゴーレムの素材を持ち帰るのは本当に苦労したもん……同じことをもう1回なんて言われたら心が泣いちゃう。
「それならありがたく頂戴します。主人達にもお伝えしておきますね」
「何があったかは深く聞かないでくれたらうれしいかな? さすがに恥ずかしいし申し訳ないから……」
「かしこまりました。ソレイユさんからのお礼と伝えておきますね」
「うん、ありがとう」
一礼してその場を後にするとふと思い出した。ソレイユさんのお店には何も並んでいなかったことに……。
競売形式なら商品はまだ置いてあるはずだけどそれは無かった。彼女の背後には空箱しかなかった。もしかしたらこのレシピ本だけを売りに来てたのかな? そしてそれが完売した……?
広場の時計を見るとまだ11時前、開始1時間も経っていなかった。
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