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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第59話 王様は欲張り

 「アビコン」それはテツに心に深い傷を負わせた道具。あれが写した数字、周りの人の落胆した声、わたしの心にも嫌な気持ちが広がったのはすぐに思い出せる。

 テツがここまで立派に成長するなんて想像以上だった。

 あの王様達もわかっていたからあんな話をしてくれたのかな? だとしたら昨日の話は夢物語なんかじゃ決してなくて、現実的な話だということになる。

 これはテツに話してはいけないこと。テツがいなくなった後お城の会議室が聞かされたこと。


「ここから先は彼に伝えるのは無しで行きましょう。主のあなただからこそ話すことです」


 なんて重い前置きから始まって。


「あなたがマテリアを卒業した後、アクエリアスに来ませんか?」

「……ええ!? そんな急に!?」


 本当にびっくりした。テツのことを話すのかと思ってたのにわたしを誘ってくれるなんて想像してなかった。


「おいおい、魂胆が丸見えだぜ? この子を誘うことでカミノテツオを自国に引き入れやすくするためか?」


 やっぱりそうだよね。と思っていたら。

 やれやれみたいな顔でゆっくり首を横にふってた。 


「将来有望な錬金術士に声を掛けておくのは当たり前では? それに、我が娘の魅力を前にあの男が耐えきれる訳も無い。これは単純に将来を見据えたビジネスの話でしかありませんよ?」

「ほぉ~ん……前半には賛成してやるが後半は空想もいいところだな。ルチアの小悪魔的な可愛さに腰砕けになって首輪をつけられる未来しか見えないがな」


 空間が氷漬けになったみたいに無に支配された気がする。

 な、なんだろう……この火薬の粉が舞ってて今にも爆発しそうな危険な空気は。


「幼いながらも優しく気立てもよく、日々勉学に勤しみ博識、将来は美人と約束されているのがプリムラです。尻尾のお手入れする際にコロンと転がってしまった姿は愛らしさが爆発しました。令嬢意識が強いからこそギャップに心打たれない者はいないでしょう」

「はん! ワシのルチアだって美人さで言えば負けとらん! むしろ勝っとるわ! 自信に溢れた態度を取っているがそれは自分磨きを怠っておらん証明。影ではなりたい自分になるため努力する姿は何とも誇らしい。努力の土台があるからこそ自信に満ちておるのだ!」


 こ、これはいわゆる親バカ合戦って言えばいいのかな!?


「はいはい、コー様もビリー様も落ち着きなさいな。自慢合戦で終わらなくなる前に治めなさいって」


 その言葉で心を落ち着かせたのか二人は小さく溜息を吐くと椅子に深く座り直してくれた。


「あなたは何も言わないの?」


 同じように参戦するかと思ったのにどっしり落ち着いて2人のやり取りを見ている。


「エルダの良さを語ろうと思えばいくらでも語れるわよ。でもね、あの子の良さはいっしょに過ごさないとわからないことも多いの。ここでいくら語っても1番聞いてほしい人はいないものね」

「……確かに」


 テツに聞いてもらわないと意味がない気がする。


「だ・か・ら──あなたハーヴェスティアに興味はない? 卒業してからじゃなくても今からたま~にうちに来て錬金術しに来てくれてもいいのよ? 珍しい素材がたっくさんあるのよぉ~! きっと面白い体験ができると思うわぁ~」

「えっ!? すごい不意打ちがきた!?」

「はん! お主も狙いは一緒か! だがな、希少素材なら厳しい砂漠で生まれたワシの国こそ潤沢よお!」


 砂漠の素材……! 過酷な環境で生まれた動物や植物は特別な力を持っている。なんて聞いたことがある。錬金術に使ったら不思議なものも作れそう!

 でも、希少なのにたくさんあるってなんだかおかしな話な気がする。


「アクエリアスも負けてはいません。我が国は海洋生物の素材が豊富です。内陸では見られない物も多く錬金術の幅も広がりますよ」


 海の素材……! それはとっても魅力的! 本の中でしか知らない場所。川や湖と違って果てしなく水が広がってて数え切れないぐらいの生物が住んでいるって書いてあった。

 1度ちゃんと行ってみる価値はすごいあると思う。


「誘っておいてだけれど、今すぐに決める必要はない。厳しい環境だけれども言葉だけで表せない魅力が沢山ある。観光に来てくれれば宿も案内も用意しよう。その時はテツオも一緒にな」


 とても魅力的な提案に心がウキウキしてきたけど、あまりにもわたしにとって都合が良い。

 対価としてまるで釣り合ってない気がして怖くもなってきた。

 だから、聞いてみることにした。


「あの……気持ちは嬉しいけど……わたしよりも立派な錬金術士はいます……どうしてここまで?」

「成長することを信じているからだ。それにカミノテツオがあそこまで殺気の無い優男なのは君のおかげだろう? 強いだけの英雄になんぞ興味はないのだ。心が備わってなければ意味が無い。君が育てたと言っても過言じゃなかろう。だから君が必要だとワシは感じた」


 まっすぐと心に直接届けるような力強い言葉。

 たった今思い付いた言葉というよりも、最初からそう心に決まっていたかのようだった。


「あたくしはね、彼も欲しいけれどあなただって欲しいのよ? お二人も同じ考えかもしれないけどね」

「なんだか欲張りな気が──」

「強欲でなくて何が王だとも! 欲しいがあって国が強くなり大きくなる! 満足している国に発展の未来は無い!」

「異論はありませんね。民を思い土地に寄り添い、より良い未来に必要なものを考える。それには立派な錬金術士と信頼できる英雄が必要と思ったわけです」

「それ故に! ここからが重要なことだ。クラウド王よ、お主に問う!」


 体がちょっとビクッてするぐらい通る声。

 緩やかだった空気がギュッと絞められた感じだ。


「何でしょうか?」

「カミノテツオが他国の者と婚約し移住することとなった場合、破魔斧レクスの所在はどうなる?」

「……? そのままテツが持つんじゃ?」

「今は国で管理している。例え暴走してもレイン・ローズが止めてくれるから安全。彼が信頼できる人だとわかっていても、強すぎる力、特に魔力を奪い自分の力に変えるなんて能力を持つ人に恐れを抱かない人はいないわ」

「私としても気になっていました。ありえない話ではないと思いますが仮に急な別れが来たとしたらどう対処するのですか?」

「っ──!」


 ありえない話じゃない。

 本当にありえない話じゃなかった……ソレイユさんが来てくれたおかげでテツは助かった。あの時を思い出すだけで体の奥から冷えていく感覚におそわれてしまう。


「……失礼。嫌なことを考えさせてしまったようですね」

「……現在は魔術的な要素を一切含まない強固な倉庫を作成しています。前と状況が大きく違うので土地を喰らう状態が発生するかも不明です。現時点ではカミノテツオが国の監視下から離れる場合破魔斧レクスはライトニアで封印する予定となっています」

「なるほどな……最高ではないか」

「あら? それなら引いてくださるのかしら? 競争相手が減るなら助かるわ」

「はっ! 笑わせるな、最初から織り込み済みだ。ワシが引くのは奴が男としての価値が低い場合のみだ! ルチアを任せられる男であれば問題なし!」


 想像と違う……。

 破魔斧とテツが離れたらこの人たちはテツはどうでもいいと思ってた。


「不思議そうな顔をしていますね?」

「──えっ、あ、はい……みんな破魔斧じゃなくてテツを欲しがってるみたいだから。ちょっと意外で……」

「あんらぁ~、ちょっと心外ね。あたくし達を甘く見・す・ぎ。破魔斧レクスは確かにすごい道具よ。でも、使い手を選ぶ道具。現時点ではテツオと引き離された瞬間に道具としての役割は無くなるわ」

「惨劇を繰り返しかねませんからね封印はやむを得ないでしょう。ですが……破魔斧と同質の力がたった1つだけ。というのは あまりにも楽観的だと思いませんか?」

「あっ……! ということはテツがいて似た道具を見つければ!」

「想像通りだ」

「今までは口伝や書簡で危険だと流布され、発見しても持ち出さず逆に深く封印した可能性もあります。ですがカミノテツオがいれば正しく扱える。必要なのは破魔斧とテツオの両方というより、使い手のテツオですよ」


 心がおどるってこういうことなんだって思った。

 テツがすごい評価されていることがすごい嬉しい。見ている人はちゃんと見ているんだって飛び跳ねそうに嬉しい。


「結局繰り返しではありませんか? 同質の武具が見つかった場合、歴史が繰り返されてもおかしくありません。破魔斧を封印した意味もなくなります!」

「あ……そういうことも──」

「ありえないわね」

「「え?」」


 思わずクラウド王様と声が重なった。


「例えば剣として存在していたとしましょう。発掘されうちの国に来たテツオに渡されました。人はどう思うかしら?」

「わたしだったら……う~ん……1度調整しに向かうかなぁ……」


 ガクリって音が鳴りそうなぐらい体勢が崩れた。


「──ふふ、本当に面白い子。でも、人々はアメノミカミを退けた英雄が復活したと思うんじゃないかしら?」

「確かに……!」

「対策の情報も昔と違って沢山揃っていますからね。あの新聞もいい心理誘導に繋がります」

「そして嬢ちゃんに調整してもらって見た目も綺麗になれば、惨劇の道具よりも英雄の武具として祭り上げられててもおかしくねえ」 


 みんなから英雄って言われてるテツがなんの歴史もない似た武具を持てば、みんなが想像するのは平和を守る武具。

 わたしもそういう想像しかできない。

 ここまで考えていたんだ……!


「では、クラウド王の真意が聞けて安心しました。将来私の国に迎え入れた時に余計な争いをしなくてすみそうです」

「聞き捨てならねえな……」

「はいはい、ケンカはよしなさいな」



 最後に小さな言い争いもあったけど、こんな話を聞かされた。 

 きっと今のテツはすごい評価が高い。お姫様達も守ったっていう実績もある。例え他国に行ったとしてもすぐに受け入れてもらえると思う。

 それに……この子達もなんというか……テツに対して強めの矢印が出てる気がする!

 やっぱりここは主として使い魔の仲人もがんばらないとね!

本作を読んでいただきありがとうございます!

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