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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第57話 英雄より菓子屋

 7月2日 火の日 16時11分 マテリア寮 食堂


 本当に無事に終えられて良かった……。

 ルチア、プリムラ、エルダの三人とも今は食堂でゆっくりしてくれている。

 王様達も会議の途中だったみたいだけど切り上げて寮に来て三人の近くにいる。やっぱり親なんだなぁと大事な娘なんだと伝わってくる。

 それにどれだけ大事にしているかは王様達が寮に入ってきた時にこの右手が味わった。

 コーウィン様、ビリービル様、カーラ様、三人から手に痕ができそうなぐらい強く握手してもらい、深々とお礼の言葉を頂いた。

 そして俺は今、ロビーのソファで術の反動を癒している最中。なのだけどレインさんが困った顔でやってきた。この時点で嫌な予感が湧いてくる。


「テツオ、今いいかい?」

「レインさん? どうしたんですか?」

「あの男が君に会いたがっている。それに、君が来たら知っていることを全て話すとも言っていた。だから付いて来てくれないか?」


 チラリと食堂に視線を向けると護衛の三名もいるし、ルビニアさんとファイさんのトップ使用人もいる。ここがこの国で一番安全な場所だと言っても過言じゃない。


「……わかりました」

「助かるよ」


 向かう先は騎士団本部地下の取調室。

 厚い扉を何回か通り到着したその部屋にはゴッズさんとキャミルさん。そして生き残った襲撃者。

 ゴッズさん達が事情聴取を行っていたということか。


「おお! 来てくれて助かりましたぞ! テツオが来るまで何も話さんと頑なになってしまってな」

「おかげで真っ白、名前すら書けちゃいないわ」


 相当頑固な相手のようでゴッズさんが俺を救いのヒーローを見る目で見つめてくれている。キャミルさんも白い調書をヒラヒラと波打たせて見せつけてくる。

 二人を困らせている男は俺をまっすぐと見つめてくる。


「どうして俺を呼んだんだ?」

「あんたには聞きたいことがあったからな。それに、無理矢理聞き出されるよりかは納得して全部話した方が気分がいい」

「俺に聞きたいこと? まあでも、まずはお前は誰で何者なんだ? それがわかんなきゃ会話もままならないだろう?」 

「俺は傭兵団のフーガ。……もう団でも何でもないがな。おそらく生き残ったのは俺1人だけだ」


 馬車に乗って襲ってきたのと、囲んで襲ってきた連中。あれで全員ということか……。 


「どうして姫達を襲ったんだ?」

「俺達はどこにでもいる金さえ貰えれば何だってやるそんな傭兵さ。今回の仕事も依頼された、すさまじかったぜ。来訪した姫、もしくは王にケガを負わせることが任務。前金200000キラ、達成できれば800000キラ。当分は遊んで暮らせる額だ、拠点を作ることだってできる」


 前金二十万で達成報酬八十万!? これは確かにすさまじいと言える。前金だけで俺の一年分の給料を超えているときた。

 それよりも問題は、この男の背後に王国混乱の絵を描いた奴がいるということ。今回の襲撃は何とか防げたがまた同じことが起きても不思議じゃないということだ。


「依頼してきた奴は誰なんだ?」

「依頼人については口を割らねえ──」


 覚悟のこもった口調と目。けれど、ふっと口元が緩くなり。


「と言いたいとこだが仲間が全員消された。こいつはどう考えたって契約外だ、命の礼も含めてお前には話す」


 傭兵の矜持も依頼者側が不履行(ふりこう)すれば無意味という訳だ。


「とは言っても全部はわかんねえ。依頼してきた奴は顔半分を隠せるぐらいの仮面をつけてて口元ぐらいしか見えなかった、背丈もお前より少し大きいぐらいで髪も茶色で特に特徴もねえ、おそらく男で種族は人間だろうがな」

「そいつはもしかしたらカリオストロの一味じゃないのか?」

「いや、そいつは自分の組織については何にも口にしなかった。それに恰好も貴族なら誰でもなれそうで特徴はない、仮面だって土産屋に行けば買える簡素な物だった」

「カリオストロだったら自分達が用意した錬金道具を与えて使わせるだろう。状況も今より酷い可能性が……」


 目を伏せ気味に言い淀んでいるレインさん。

 ただ納得もした。カリオストロのボスはメルファさん。錬金術を極めているライトニアに復讐しようとして 


「とにかく、昨日異国の王が来る情報は掴めるぐらいの男だ。相当国の内側に潜り込んだ奴なのは間違いなさそうだがな。この話を聞かされたのは6月28日の夜だ。短い期間での準備だったから大変だったがな」


 今は7月2日、三国の方々が来たのは昨日……つまり二日!?

 敵ながら同情しそうな短期間で計画を組み上げたってことか……。


「待ってくれ。他国の王達がやって来るというのは書簡でのやり取りでしか知ることはできない! 私でさえ知ったのは29日の朝だ。受け入れ準備もその日から行われている。仮に情報が洩れるとしてもその日からしかありえない!」

「俺が知るわけないだろ? それに、どの国の人間がやってくるかは俺達も知らされてない。あいつが知っていたかもわからないがな」


 そういえば……俺も一応騎士の一員なんだよな……?

 異国のお偉方が来国させる情報って当日になってから知らされたような……。


「俺一切聞いてないですよ……」

「あんたはレクスと交代するって話が上がってたでしょ。余計な考えを残さないようにあえて知らせなかったの」


 30日にレクスと精神を交代してアンナ達とデートしている間に国では色々やっていた訳だ。

 飛行船の発着場の整備や哨戒、王都内の巡回強化や城の清掃、もてなしの準備……。

 俺の頭では思い付きそうなこと以上に色々と。


「書簡を盗み見たってことはありえないんですか?」

「難しいだろう。書簡を見るためには運搬している鷹を捕らえる必要がある。だけどあの子達は賢くて速い。飛んでくる方向や位置がわかっていたとしても現実的じゃない」


 鷹で運んでいるのか……という驚きもあるが。

 レインさんの口ぶりからしてこれがこの世界での当たり前。それに絶対的な信頼も置かれている。相当賢い鷹を飼い慣らしているということなのだろう。

 冷静に考えれば空輸が最短かつ最速だ。地図の位置関係に超えるべき山々。魔獣の存在もある。飛脚じゃ厳しいだろう。

 それに鷹なら書簡を盗み見ることをしない。見たとしても他者に伝える方法が無い……よな?

 だとすればやはり知ることができる人物は限られる。いや、もう一つある。


「その鷹を予め手懐けておいて運搬途中で呼び寄せて中身を盗み見て、綺麗に戻して送り直したって言うのはどうでしょう?」

「大事な書簡がそんな杜撰な送り方をされるわけないでしょ。封蝋されてたり、術式が込められてたりで開けたかどうかはすぐにわかるのよ」


 キャミルさんの呆れたような口ぶりが心に響く。

 こういう情報セキュリティもしっかりしているんだな……となると考えたくはない最悪に行き着く。


「なら、送った人間か受け取った人間のどちらかがフーガの依頼人に繋がっていたか、依頼人本人ってことですよね?」

「頭でわかっていても人から言われると中々心に来るものだね……城には鳥便(とりびん)と呼ばれる運搬専門の鷹達を管理している部門があるんだ。1度そこを洗う必要がでてきたね」


 心底やれやれと言った様子で溜息を吐いていた。

 身内を疑う行為に辟易(へきえき)しているようだ。無理もない、アメノミカミの時に続いて似たようなことが起きているんだから。


「そっちの事情については俺は何も興味は無い。聞くことが無ければこれで全てということになるが?」

「──そうだサクリム! サクリムの術式がどうしてあったんだ?」


 死ぬとわかっている術式を自分の身体に受け入れるだろうか? 異国の王族に手を出すなんて失敗する可能性の方が高い任務。失敗したら口封じされるなんて想像できるはずだ。

 そんな俺の疑問にばつの悪そうな表情を浮かべた。


「……っ! そいつは俺達にとっても予想外だった。あの野郎……通信用魔術と言っておきながらサクリムまで仕込んでるとはな……! 実際に指示が送られてきたからそれ以上までは警戒してなかったぜ」

「なるほどね、相互型念話(テレパシー)の術式を書き込むと同時にサクリムの術式も書き込んだわけね。刻印として身体にあっても気付けないのも無理ないわ」


 自分は大丈夫だとわかっていても思わず首に手が伸びた。

 使い魔の刻印。首のスカーフをどかせば洒落た首輪みたいなデザインが姿を見せる。もしもこれにサクリムがあったらというもしも。 

 想像するだけ不毛だと、首振ってそんな思考を振り払った。


「散々質問に答えたんだこっちからお前に聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」


 今まで以上に真面目な雰囲気に心の奥底まで覗いてきそうな真剣な眼差し。

 このために俺を呼んだ。そんな気がするほどの圧を感じる。


「何故俺を助けた? あの娘達がどんな人物か知っていて、その先の混乱も理解した上で殺すつもりでやったんだぜ? 本気だった! なのに何故だ!? 何故、助けた……! 救う理由は無かったはずだ!!」

「……深い理由なんてない。死にそうな人間が目の前にいたら助ける。ただそれだけだ」

「大事なモノを傷つけようとした人間でもか?」

「……俺は、人が死ぬとこなんて見たくない。大事な人が傷つくところも見たくない。だから……どっちも取るよ」


 あの時は無我夢中だった。あの子達を守るのもそうだったけど、この男がミクさんと重なって見えてしまった。自分の意志とは無関係に命を散らされる。

 例え悪人でも、見捨てることはできなかった。

 もしも見捨てたら、この先同じ状況に陥った時もっと簡単に見捨てるができてしまうかもしれないから。


「甘いし夢見がちだな。英雄なんかより菓子屋の方が向いてるんじゃないか?」

「でも、あんたは救えた。あの子達にケガさせることもなくな。だからこの道は選んでいいんだ。甘くて夢見がちが俺には丁度いいんだ」

「……………ああ、そうだな。そんなお前だから俺は今こうして生きているんだろうな」


 男は小さな笑みを浮かべて満足そうに納得してくれた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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