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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第55話 参観

 同日 クラウディア城 会議室


 偶然にも訪れてしまった四国(よんこく)首脳会談。

 朝より続けられた会議は未だ終わりは見えず、警護として傍らに立つレインも途中でラオルやゴッズと交代し集中力を回復させて再び挑む。

 長時間続く会議。その議題は尽きることは無かった。


「錬金術士の誘致」

「定期的な交易」

「交易ルートの開発」

「魔獣の生息情報」

「環境情報及び土地開発」

「対カリオストロ」


 国の将来を思えば噴水の如くいくらでも湧き出た。

 大テーブルの上に広げられた地図に資料。人員のリスト。

 国土を広げるにも交易ルートを開発するにも魔獣の問題があまりにも大きい。国の発展は魔獣の闘いの歴史でもある。

 そんな荘重(そうちょう)な空気に満たされた空間を割くかの如く荒々しく開かれる扉。


「──大変です!! 急ぎ伝えたいことがあります!!」


 ライトニア騎士団防衛部隊の一人が顔面蒼白で声を荒げた。

 会議の最中に突入する不調法、礼節を学んだ騎士にあるまじき行為に緊急事態が起きたとすぐに理解した。


「何がありました?」

「王城正面にて暴走馬車が襲来!! 神野鉄雄及び三国のお姫様が巻き込まれました!」


 一瞬の完全静寂。そして──


「何だとおぉっ!? 無事なのか!?」

「現時点では無事です! ──ってうわっ!?」


 報告を聞き切る前にルチアの父コーウィンが椅子を倒す勢いで最初に会議室を飛び出し、ビリービルとカーラもその後に続くように報告しに来た騎士を吹き飛ばすような勢いで駆けていく。

 目指した先は王都中央広場を一望できるテラス。

 その一瞬後にレインも到着して周囲を見渡した。


「お気をつけください! 皆様も狙われている可能性があります!」


 レインの言葉は誰にも届いていない。

 腰壁に手をかけて身を乗り出しながら広場付近を確認すると──


「いたっ! あそこだ!!」

「シャドウ達は何をしているの!? ──ってあの竜は何なの!?」

「ッ!? スピリア様!? 何故あのお姿に!?」


 眼下に映るは巨竜と化したスピリアに囲まれている娘達と鉄雄。そして砕けた馬車。

 逃げ惑う人々、哨戒に付いている防衛部隊員も混乱しどう動けばよいか迷っていた。


「娘の近くにいるあの黒い鎧はまさか……カミノテツオか!?」

「あの姿は報告書にはあったけど大丈夫なのかしら?」

「本気の戦闘形態です。物理的魔術的な攻撃を激減し、肉体強化も行われています。問題は、他の個所でも襲撃が起きていないかです」


 レインの視線は王都の外郭、二国の飛行船が停留している西に向けられる。

 直接見ることは叶わずとも黒煙は上がっていないことに一抹の安心を得て視線を鉄雄達に向き直す。


「ワシも援護に──」

「おやめください、逆に邪魔になります」

「何だと!? ワシの力を……」


 迷いが無く落ち着いた瞳でコーウィンを見つめるレイン。

 氷の如し透き通った不安の無さに滾っていた熱が冷まされ、腰壁にかけようとした足が下ろされる。 


「問題ありません。あの連中は私よりも弱いと思うので。私達が鍛えた男があの程度の賊に後れを取るはずがありません」


 鉄雄の成長を常に見ていたのはレイン。黒鎧無双(こくがいむそう)に包まれ姫達が無事な時点で問題ないと心で思ってしまった。

 思い出される鉄雄に施した訓練の数々。

 鉄雄の訓練相手は主にレインとゴッズ。

 レインの時間停止に加えて正確無比の高速剣技を用いて容赦なく鉄雄の隙を突いて突いて突きまくった。無駄な動き一つでもすれば紙の剣で突かれ斬られた。紙製であっても一流の剣技が乗せられれば立派な凶器。入団したての鉄雄はこれにより痣を作ることが多かった。

 ゴッズの剛剣は受ける事叶わぬ一撃必殺。鉄雄の最も苦手とする魔力に頼らない純粋な腕力による剛撃。死に物狂いの回避かスライムの如し柔軟な受けを要求された。

 そしてもう一人。サリアン・ラビィ。彼女だけは隊長副隊長と違い、本気の殺意で鉄雄を殴ろうとする。両者の良い所をバランスよく取り入れている彼女の拳と蹴りは破力を使わなければ訓練で済まない怪我を負いかねない恐怖と共にある。

 最近では防御した所を衝撃だけ貫通させる技術で攻め込もうとしているので、鉄雄も防御の仕方を工夫している。


「だが、人数差が──いや、なんだあの黒い触手は……?」

「……私もアレは初見ですね。何時の間にあんな術を?」

「まるで墨のようですね。水系統の陣地形成型のようですが……練度が想像以上です! こんなの報告にはありませんでしたよ!?」


 墨汁の如く黒き液体だが、状況に合わせて自在に枝分かれし、相手の戦術を一方的に飲み込み押し流し、圧倒する。離れた位置で戦況を見下ろせるから理解できる隙の無さ。

 同じ状況で襲撃者達に指示していたとしても姫達に傷を負わせることは不可能だと理解させられる自由度。

 

「あの姿……! まるで──」

「アメノミカミみたい。かしら?」

「っ! ええ、規模そのものは半分以下ですが……水流の動きといい……まさに……」


 アメノミカミそのもの。形成された触手の動きに変幻自在の液体変化。

 剣を交えたレインだからこそすぐに繋がった、あの男達が見ている光景は自分があの戦いで見たのと同じだと。


「だとしても、あそこまで自在に操作する方法は誰も教えて……まさか──!?」

「奇しくもアメノミカミが彼にとって素晴らしい教材になったのかしらね。でもまさか……ここまで安心して見守れるとはあたくしも思ってなかったわ。ここにいるあたくし達よりもあの子達の方が安全なんじゃないかって思えるぐらいよ」


 カーラは言葉通り焦らず見下ろしていた。エルダが渦中に巻き込まれていても演劇を見ているかのような落ち着きで。

 鉄雄があの術を完成できたのはアメノミカミの影響が大きい。

 アメノミカミと一番長く戦ったのは鉄雄。レクスと交代している間も全てを見て吸収した、いつ切り替わっても大丈夫なように(けん)に徹した、岡目八目のように。

 結果、自分を死の間際に追い込んだ事実を受け入れ飲み込む事で自分の術として昇華した。アンナを守る為の武器として。

 多くの騎士達が手も足も出なかった変化自在かつ攻防一体の水の触手。

 それを破魔斧の力でアレンジ、消滅(しょうめつ)硬化(こうか)吸収(きゅうしゅう)を自在に組み込むことで魔力吸収(ドレイン)の黒霧を広げているだけとは術の領域が違う。

 攻撃をしようものなら触手に受け流され、触れた箇所から浸食され飲み込まれる。魔力を吸い尽くした後は覆い被さり硬化することで拘束。

 領域(りょういき)(たが)えば()(もの)有象無象(うぞうむぞう)。これまで使用していた破術とは一線を画す。

 そして、姫達に危険が及ぶ前に戦いは終わった。

 黒い繭に包まれた四つのミノムシが地に転がり、文字通り手も足も出ない姿で終結した。


「美しい……優れた魔術は芸術とも評されるが……漆黒の渦を模していながら不吉さを感じさせぬ……! ワシが飛び出る必要が本当に無かったではないか!」

「ファンタスティック……! あの強力な力をあそこまで優しく仕上げるなんてどんな心をしているのかしら……! あの子達に一切の血や暴力を与えてなければ見せてもいない……! 見事と言わざるを得ないじゃないの! 見に来て正解だったわ……」

「想定以上の成長ですね……彼を受け入れるか疑問も迷いもありましたが、もはや粗末事……余裕と冷静さ、そして敬意。戦いは人の本性が色濃くでますが彼は人として信頼できます」


 それぞれが確信を持った言葉で褒める。

 拍手も加えるカーラ、見惚れるように目を輝かせるコーウィン、深々と頷くビリービル。


 痣と泥に塗れながら努力した身体に冥界に足を踏み込みかけた決死の戦闘経験。誰にも褒められず何も無いと評価された最低価格の男の才能が──今、芽吹き認められた。


「おまけにあの子まだ伸びしろありそうじゃない? 見たところ全然身体動かしてないし」

「確かに斧もスラッシュストライクにしか使ってねえな……あれじゃあ杖の運用と変わらねえ」

「彼は使い魔ですからね、攻撃よりも防御に力を入れたのでしょう。でなければあそこまで」


 神野鉄雄の成長を支えるのはレイン達だけではない。レクスの戦闘能力も鉄雄に複写されていく。

 レクスが乗っ取り激闘することで鉄雄の身体に戦いの経験値が染み付き蓄積される。

 基礎体力筋力を上げることで先取りしていた理想の動きを追いかける、いずれはレクスと同等の動きも可能となるだろう。


「まあ、そこんところは今はいいだろう。無事に終わったとはいえルチアが心配だ。早いところ安全な場所に……ん? 何か光ってないか──?」

「…………っ!? あの光! まさか!?」


 既知とし、昨今目にした輝き。

 その意味を知れど間に合わないと悟ってしまう。

 と同時に慈悲もないのかと怖気も走った。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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