第51話 アルケミーミュージアム カフェ
同日 12時30分 アルケミーミュージアム一階 カフェ『錬金釜』
アビコンで導き出されたとんでもない結果を頭の中で反芻しながら、少しずつ受け入れて何とか飲み込めた。確かに数値の変化があったのは喜ばしいことだ、成長を数字という形で実感できる。
三人の姫達は頭に「?」を浮かべているだろうけど、この数字は本当に想定外なんだ。
思わず小躍りしたくなるぐらい気分も良くなる。
時間も昼食には丁度いい。プラン通りカフェに向かってみんなのお腹を満たすことにしよう。
「こういうところで食事をするのって初めてな気がするわ」
「私も部屋に食事が運ばれてくるか、兄弟みんなで大きなテーブルを囲って食事をするかのどちらかですね」
「エルダはいつも部屋で1人……」
お姫様方には色々な食事事情があるようだ。
席についてもソワソワと周りを見渡している。ここのカフェは内装にも凝っているから余計だろう。
ここはまるでアトリエの中を再現したかのように錬金術に使う道具が壁に掛けられていたり、テーブルのアンティークさも風情がある。前の世界で言うコラボカフェみたいなもんだ。
「折角の機会なんだから、今日は遠慮せずみんなの好きな物を頼んでいいぞ。お金のことなら気にすることはない!」
「なら、遠慮しないわよ?」
「…………いいんですか? 私、沢山食べますよ?」
「た、たくさん食べてもいいですか……?」
「お残ししないなら好きなだけ食べるといい」
そう言うとみんなしてメニューに釘付けになる。いい顔で悩んでいるなぁ。
「それじゃあさっそくだけどみんなでコレにしない?」
「これは……?」
ルチアがメニューで指で示したのは『虹色ティー』。
見た目も良く、喉も乾いていたのでみんな賛成して注文することにした。
どうやらこのカフェでは定番の一品らしく、利用するお客さんの殆どが注文しているようだ。
錬金釜型のカップに透明なお茶が入っており、備え付けの小さな試験官に入った赤、青、緑のお茶を注ぐことで色と味が変わる。誰でも錬金術士気分を味わえるだけでなく、様々な味を楽しめるの人気の秘密らしい。
「ほどよく甘くなったり、苦みがでたり……中々癖になりそうね。これだけのお茶も売ってるのかしら?」
「赤を入れると甘くなるんですね……! 青は爽やかさ、酸味? ……緑は苦み? いえ渋み? 混ざるとより複雑な味になって面白いですね」
「色がこんなにも変わるんだぁ……! 全部を入れると白になるから……そこからまた変えて……あ、溢れそうになっちゃった!」
飲み物一杯でこれだけ楽しそうになるなんて、これって錬金術を使わなくても再現できそうだけど、多分何かしら仕込んではいるんだろうな。
「お茶でこれなら料理となるといったい何が起こるのでしょうか? 早速注文させていただきますね!」
ルチアが頼んだのは「フルーツパフェ」と「鉱石ゼリー」。
フルーツパフェは俺の知っている物とそう大差ない、パフェグラスに季節のフルーツとソフトクリーム、コーンフレーク、半液体のジュースみたいなのも入ってる。
鉱石ゼリーは「これってルビー、サファイア、エメラルド、トパーズじゃない!?」とルチアが言った通り宝石を模した硬そうなゼリーが鉱床の土台に刺さるように立っていた。
スプーンとナイフを使って小さく解体しておそるおそる口に運ぶと彼女は眼を見開いて驚いた。
「切った時は固いんだけど口の中で溶けるぅ~! フルーツの味が凝縮してて、美味しい! 本物の宝石を見たらこれを思い出して口に運んじゃいそう」
なんて言うぐらいだ。相当楽しんでくれているようでよかった。
プリムラは「パイ包み釜シチュー」「太陽ケーキ」。
パイ包み釜シチューは、錬金釜型の容器にパイ生地を被せて温めたシチュー。容器が違うだけでそう変わらないと思っていたが、スプーンがパイ生地を突き破ると肉と香辛料の暴力的な香りが鼻に届く。
近距離で直撃したプリムラは尻尾が大きく天を突くぐらいに驚いていた。香りだけじゃなく味にも相当満足しているのか食べるのも早い。
太陽ケーキ、これは俺も驚いた「このケーキ……温かいです!?」なんて言って思わずみんなの視線が注目したぐらいだ。10cmぐらいのホールケーキ、オレンジ色にコーティングされた表面。
赤と黄色の熱々ジャムをタルト系の生地に入れているのはわかったけど傍目からじゃ判別できない。
彼女の言葉が頼りになるけど──
「…………!」
言葉が出ないぐらい夢中になってる。今食べている味や触感を頭に入れているのだろうか?
真剣で楽しそうな顔、満足しているようで何よりだ。
味については今度確認しておこう。
エルダは「グリーンカレー」「王都ハニトー」。
グリーンカレーは文字通り緑色のカレールー、けれどライスは黄色い、ターメリックで色を付けたのだろうか?
緑色野菜に香辛料の組み合わせでこの緑色を表現しているのだろうか? 知っている料理なだけあって興味深い。
「あ、あの……少し食べて……みる? すごく気になってるみたいだから……」
しまった、みんなが美味しそうなのを頼んでいるからつい油断した。
断るべきか? いや、これは彼女の勇気かもしれない。ノーと断れば、傷つかないだろうか? ここは自分の心に素直に従うべきだ。
「それなら一口だけいただくよ、ありがとう」
「そ、それじゃあ……あ──」
「…………うん、これは中々! 野菜の様々な味と辛みが見事に混ざり合って良い。野菜嫌いの子供でもパクパクいけそうだ」
自分のスプーンでさっと一口分頂き、味を堪能する。
セクリの料理も美味しいけどこういう遊び心満載なのはまず出てこない。
今度アンナ達を連れて食べに来てもいいかもしれないな。
ただ何だか彼女はよそった状態で固まってしまっている。流石に図々しすぎたか?
「……あ、はい。たしかに、美味しいです……」
う~む……美味しそうにはしているが何というか影がある。食べないのが正解だったか?
あっという間に全部食べてくれたし、裏を読むべきだったか? けどまあ、量というのなら問題ないだろう。
残る王都ハニトーの見た目は凄まじい、ルチアとプリムラもその形に注目していた。
何せ筒型のパンにアイスにアーモンド、はちみつと何通りものフルーツソースで彩られている。中はくり抜かれて色々しているだろうけど、頼まなきゃ内容は分からない。
「パンの皮を王都の壁に見立ててるってことかな……」
ハニトーを王都っぽくしたってところだ。この壁の上を走って訓練する日々を思い出す。
なんというか観光客ぐらいしか食べないかもしれないな。見た目が良くても国を守る壁を自ら崩して食べるなんて罰当たりな気がするし。
空気が悪くなりそうだし口にはしないけど。
「ヴェステツォントでも食べられないかしら……錬金術が必須だと大変そうね」
「こういう濃い味は久しぶりなので口の中が楽しいです」
「いつもと違ってにぎやかでいいなぁ」
こうして落ち着いて現状を振り返るとここが天国かと思ってしまう、可愛らしいお姫様方と家族のように一つのテーブルを囲んで食事をする。
どんな善行を積んだから与えられた褒美なのだろう?
可愛い子に食事代を払うおじさんの気持ちがわかってしまいそうになる。美味しそうに食べている姿は癒しでもあり、自分の中の黒々しい何かが掃除されていく気分になってくる。
自分も綺麗な何かの一部になっていくそんな気持ちの良い錯覚に溶けてしまいそうだ。
「テツオさんはあまり食べてないような気がしますが?」
「俺はみんなが楽しそうに食べているのを見て満足しているんだ」
嘘じゃない、胸がいっぱいお腹いっぱい。注文一つで満足感で満たされている。
俺が頼んだのは『錬金爆弾パン』フェルダンの形をしたほんのり辛みが口の中で弾けるパンとグレイロゼの形をした爽やかでひんやりとした風味が口の中に満たされるパン。どちらも今まで感じたことのない味で驚いた。
お土産にもできるようだから、後日アンナ用に買いに来てもいいかもしれない。
「お待たせしました、こちらとっておきのデザートになりますわ」
最後のデザートとしてこれまでの料理と違って錬金術でなければ作れない料理を注文させていただいた。
ナーシャが持ってきたソレに彼女達は理解が及ばないと言った表情で驚いていた。
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