第50話 アルケミーミュージアム4階
案内されたのはミュージアム四階、『調合品体験コーナー』
ここでは錬金術によって生み出された道具や素材を技能を抑えて安全に楽しめるように調節した物がブースで区切られ、それぞれ体験できるようになっている。
最初に向かったのは『グラビストーン』を精錬し敷き詰めた反重力エリア。
ここでは無重力と呼ばれる浮遊感とは異なる体験ができる。
「え~と、『これは10kgの重りです。反重力ゾーンの機能を起動すると……?』どういうこと?」
ルチア、プリムラ、エルダは中で疑問を浮かべながら中を観察していた。
ガラスで区切られたブース。床には小さい黒い板が何枚も敷き詰められており、ブースの真ん中には持ち手が付いた10㎤の白い四角い箱。
そしてこれ見よがしに設置してある丸い取っ手の上げ下げレバー。
「このレバーを動かせばいいんじゃないかな……?」
ルチアが重りを持っている間にエルダは何気なしにレバーを下す。
すると床が淡く発光して──
「ちょっと重いけど──ってわわっ!? 落とし──!? う、浮いてる!? え、あたしも!?」
「ば、バランスが……! あれ? 床に足が付いていません!? 尻尾も?」
「こ、転んだけど、転んでない……? 床が遠い……?」
高さ50cmを水面にするかのように彼女達は浮いていた。
バランスよく立っているルチアはそのまま視線が50cm上がり、手放した重りもゆらゆらと浮いている。
プリムラは尻餅を付いた状態で浮かび尻尾の重さもあってか若干お尻から沈んでいる。
急な変化に転んでしまったエルダはけのびの姿勢で宙に浮いている。
「ここではグラビストーンを下に敷いている状態ですけど、リュックの底部や荷台の底に設置すると掛かる重量を軽減することができますわ。馬車はもちろん飛行船にもこの技術が利用されているので安定して長距離移動できるようになったのですわ」
「着陸している時はこの反重力効果を停止しているって訳ぇ?」
「ええ、その通りですわ。錬金術で重力の方向性を指定したり、起動と停止できるように調整していますの」
重力を発生させると言われるグラビストーン。まだ謎の部分が多いが魔力に触れると力場を発生させる力を持つ。不思議な特性として一つのグラビストーンで発生する力の方向は常に一つ、下に発生している石をひっくり返しても上になったりせず下を向いている。
錬金術によって多くのバラバラな方向を一つに揃えて使いやすくしているのだ。
「ち、力の入れ方が難しくてた、立てません! 腕も沈んで……! でも押し返されて……不思議な感覚です……!」
「効果時間は一分程度だから焦らないで待っててくれ」
「は、はいぃ……!」
「これってタイミングよくジャンプしたら普段以上に高く飛べるようになるんじゃ……!」
戸惑いや驚きの表情を浮かべながらも紛れもない未知の体験に感動しているようだった。
時間が経過すると、浮かんでいた三人と一つがゆっくりと床に付いた。
「飛び慣れてたから平気だったけど不思議な感覚ね」
「な、なんだか変な感じです……あ、歩き──あっ!」
「おっと、大丈夫か?」
プリムラはバランスを崩してこけそうになるが、鉄雄は自身のお腹を盾にして受け止めた。
「い、いえ──! 申し訳ありません!」
(その手があったわね……! か弱いアピールのチャンスじゃないの、失敗した!)
「気にしなくていい、ケガしなくてよかった」
不意の急接近に思わず顔を赤らめ、スッと離れて髪と服を整える。
「あっ、重りの位置を戻さないと……」
エルダは誰の目にも映ることなく片手で重りを持ち、元の位置に戻した。
その後も色々な錬金道具を体験する三人。
目に付いたのは『空間絵筆』。これはキャンパス要らずで宙にそのまま絵を描くことができる道具。各々の好きな物を描いて見せあった。
ルチアはコミカルでちょっと特徴的なサボテンとラクダを描き。
プリムラは独創的で抽象的な言葉にし難いウナギのようなドラゴンを描き。
エルダは誰もが兎だと理解できる動き出しそうな兎を描く。そしてそれは実際に少し動き出してナーシャも鉄雄も驚いた。
続き『魔炎ストーブ』『魔氷クーラー』と呼ばれる魔力を糧に熱と冷気を発する道具にルチアとプリムラの二人が特に興味を持つ。
持ち帰りたいと願うが、ライトニアでは普通に販売されているので各国の商人達が買っているはずとナーシャが伝えると。それもそうだと大人しくなった。
そして、自分の戦闘能力をレイン・ローズと比較して数値化できる『アビリティコンパリゾン』通称『アビコン』を使い自分たちの数値を確認してみた。
ルチア・デザリア
体力:20
力 :25
技術:50
速さ:20
魔力:190
プリムラ・ドラリスタ
体力:15
力 :30
技術:20
速さ:5
魔力:280
エルダ・フルスト
体力:40
力 :60
技術:3
速さ:15
魔力:180
となり、子供ながらに中々高水準だと鉄雄は思わず震えた。
当の三人は互いの数値を確認し合って、見た目によらないと改めて理解した。
数値として見るならレインは速さと技術が凄まじい。体力は騎士として上位。力は一般の騎士と大きな差は無い。魔力は魔道騎士以上。なので速さと技術は100に近ければ大陸上位とみて間違いない。逆に体力と力は100に近くともそこまで誇れるものではない。魔力が100なら油断はできない。
となれば特に注目されるのが魔力。プリムラが言うにはこれは王家の魔力と呼ばれる生まれながらの才覚が大きく影響している。ということ。
こうなれば無論鉄雄もチェックされるのが当然の流れである。
ちなみにこの世界に来て最初に測った数値がこれ。
体力:3
力:5
技術:1
速さ:1
魔力:0
当時の凄惨たる記憶を思い出し顔が少し青くなってしまう。自分があれからどれくらい成長しているのか数字で無慈悲に表されるのだから。もしも大して変化が無かったらこれまでの日々は何だったのか? そんな不安が心を押しつぶそうとしている。
それでもお姫様方の数値を見たのだから自分が拒否できるわけもない。「なるようになれ」という気持ちで大人しく比較される覚悟を持った。
アビコンの光を浴びて、宙に表示された数値を恐る恐る確認すると一つの項目は予想と現実が一致していた。だが、前の数値を知っているナーシャと鉄雄は想定外の数値に目が点になった。
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