第47話 究極合体!
「どこに行くのかは決まってるのよね?」
「ええ、今日は俺が案内する場所は『アルケミーミュージアム』です。ライトニア王国を知ってもらうのに1番適した場所だと思うので」
ライトニア王国は錬金術の発展と共に成長した国。
錬金術の歴史はそのままライトニアの歴史に繋がる。
施設内には堅苦しい展示品だけでなく、錬金道具の体験フロアもあればコンサートホールも併設されている。そして、休憩兼食事処のカフェもあり観光するにはうってつけの場所である。
「まぁ! 話を聞いて一度行ってみたいとは思っていたのです!」
「ではこちらへ付いてきてください」
「ちょっと待った! 先に済ませておくことがあるわ」
「何か気になる点がありましたか?」
ルチアの言葉に緊張が走り少し身構える。
粗相は今のところしていない。場所が気にくわないとなれば説得するしかない。心臓が少しずつ高鳴っていく。
「あなた敬語やめなさい。あたしはあなたを保護者として見たいわけじゃないの。無理に丁寧な仮面付けられると気持ち悪いのよ」
「しかし、貴方がたは姫です。隣を歩く者の振る舞い一つで品位を落としかねません」
「いや、英雄って呼ばれてるあなたが子供にヘコヘコしてるのをこの国の人達が見たら悲しむでしょ? あたし達の部下じゃないし大人なんだからせめて対等に振舞わないとライトニアの品位が落ちるでしょ?」
真剣な表情で突き刺す言葉に内心「うぐぅ」とへこたれそうになる。反論のしようがない正論。
ルビニアとサファイアスに注意されていたことが裏目に出てどちらが最善か葛藤が生まれる。
「確かにそうですね、元々縁談に来ていた面もありますしこのままだとよそよそしさといいますか、壁を感じて何だか寂しいですね」
「エルダも、テツオさんが話しやすい話し方がいいと思う……」
そう言われて考えが決まった。
「ふぅ……こほん、そこまで言われたら意地を張るようで逆に失礼。それじゃあこれからはいつも通りに話させてもらうよ。じゃあ改めてついてきてくれ」
「そうこなくっちゃね!」
「では失礼しまして……」
すっと滑りこむようにプリムラは鉄雄の右手を掴み。
「あっ──」
反射的にエルダは鉄雄の左手を掴む。
「……あなた達ねえ……!」
一瞬呆れたような顔を見せるがすぐに何か閃いた企み顔を浮かべ。
「テツオ、少し屈んで」
「? わかった」
背後に回り、両肩に手を置いて馬飛びの要領で体を持ち上げ鉄雄の肩にお尻を着陸させる。
「よっと! さぁ立ち上がりなさい! ──ふふん! 絶景ね!」
「えぇ……これは予想外だわ……」
両肩に太ももを乗せて肩車の体制となる。
褐色の太ももに顔が挟まれ、呼吸するだけでルチアの仄かに甘い香りが鼻をくすぐる。
「ちょっと!? それははしたないのではありませんか?」
「ず……ずるい……」
「この発想があったあたしの勝ちといったところね! さ、進みなさい!」
「はいはい、落ちないように気をつけてくださいね」
二人は自分にない発想に驚くと同時に少しの嫉妬を見せた。
鉄雄本人は両腕及び上半身が完全に封じられた状態である。
傍からみればまるで子沢山の親が子供に甘えられている状況でもあった。
(これだけ密着されると三人の体温の違いっていうのもわかるな……じゃなくて! これって中々危険な体勢じゃないか? 破魔斧はすぐに掴めない。視界も狭い、音も聞き難い……)
愛らしい三人に囲まれ役得であれど頭は冷静。
デートであるが護衛も含まれている。怪我一つ許されない、宝石のように大事に扱うことが
とはいえ、そんな負担をたった一人に任せることはあり得ないし求めていない。
観光客の装いと怪しげな売人とペットみたいな竜、三名が離れた位置から四人の様子を伺っていた。
「お嬢……やりすぎじゃないですか……」
「長生きしているがあのような逢瀬は初めて聞くな……時代の変化か……?」
「チガうだろう。コドモだからカけヒきというよりじゃれてるだけだ」
護衛として当然いる。邪魔をしないことは大前提に何かが起きても対応できる位置に。
管理が行き届いているライトニアでは暴徒はまず起きない。私服隊服入り混じった防衛部隊の哨戒も行われ、怪しげな集団には既に声が掛かっていたり、尾行が行われている。
尚、この三名も職務質問を受けてしまっている。
(多分あの三人もいるはずだから、俺が反応が遅れてもどうにかなるはずだ……いざとなったら頼んだぞ!)
直観的な信頼。もしも自分が同じ立場だったらいる。
アンナがデートするなんて事態に陥れば血の涙を流しながら見守ることだろうと。
「あそこがアルケミーミュージアムですよ」
中央広場から東に大通りに沿って歩けば迷うことなく到着する。
広くなだらかな階段を上がっていけば汚れ一つないミュージアムがお出迎え。
「お城のように広い建物ですね!」
「は、入っていいのか戸惑っちゃう……!」
外観に圧倒されたのか手を握るのが自然と強くなる二人に対して、頭上のルチアは腕を組んでじっくり見据えていた。
「ここを維持するだけでもどれだけ人が必要なのかしら……」
「何十人といるだろうな。お城と同じくらいは人が使われてると思うぞ?」
「飛行船からこの国を見下ろしましたが、とても広く農地も多いですからね、人を支える土地が多いから人口も多いのでしょうね。それにあの大きく筒のような壁が国を守っているのも1つの要因でしょう」
「うん、これだけ高くて厚い壁は見たことないよ……どうやって作ったのかも気になるけどこれなら魔獣も入ってこれないよ」
「暴風に襲われてもへっちゃらそうだもんね、これがあれば安心して人が寄って増えるのがわかるわ。それに錬金術で暮らしを便利にしてるんでしょ? 中々ズルいと思うわ」
「とても昔からあるってお姉様も言ってた……でも、何時からあるのかは誰も知らないって」
「もしかしたらミュージアムに記載されているかもしれませんね。これだけ立派なんですから国についての歴史もまとめてあるのではありませんか?」
子供らしい疑問を持ちながら、大人顔負けの言葉を交わす三人に鉄雄は自分の子供時代と比較して少し情けなく思った。子供時代に同じ物を見ても「すっげえ」だけで終わってしまいそうだと。
そんな気持ちを切り替えて「入ろうか」と手を引いてエスコートする。
両手替わりとなった二人が扉を開け、上の一人をぶつけないように少し屈んで入ると。
「ようこそいらっしゃいませ! アルケミーミュージアムにようこそですわ!」
と礼儀正しく明るい声でお出迎えをされる。
「わぁ……! 館内もとても綺麗なんですね……! えっ、あちらにあるのはコンサートホールですか!? ここはどんな設備なのでしょうか……」
「こっちにはカフェがある……美味しそうな匂いがする……」
「こらこら、興味を惹かれるのはわかるけど、気ままに動こうとしないでくれ」
二人が左右別々にふらりと足を進め、大岡裁きのように両腕が引っ張られる。
「ご、ごめんなさい! アクエリアスにもコンサートホールがあるので、どんな違いがあるのか興味が湧いてしまいました」
「あ、あう……ご、ごめんなさい」
「まあ、気になるなら後でな。今日は演目無さそうだけど、見学ぐらいはさせて貰えるだろう。カフェは周り終わったら利用するつもりだから、お楽しみは後にとっておこうな」
「は、はいぃ……ありがとうございます」
「感謝します」
開いた翼が閉じるように再び二人は寄り添う形となる。
「それにしてもなんだか室温が外と大きく差があるような? 外よりは過ごしやすいですが温いですね」
「そう? あたしは寒い気がするけど? 外の温度が過ごしやすいわ」
エルダと鉄雄は丁度いいのか疑問を浮かべなかったが、南と北、慣れた気温が違う証明のようにプリムラの額には小さい汗粒が付いていてハンカチでそれを拭っており。エルダは肩車の状態で少し体を震わせ鉄雄に伝わらせた。
「こうなってくると温度調節は難しいだろうな……」
「まぁあたしのことは気にしなくていいわよ? いざとなったらぁ、あなたに温めてもらえばいいんだから!」
「あばばばっ!? た、戯れがすぎる!?」
頭を押さえて足を擦り付けて摩擦熱を作りあげる。ただ陶器のようにスベスベで柔らかい太ももなので擦るよりも滑るが正しい状態。
しかし高めの体温に密着された上に熱の増加。女の子にここまでのことをされた経験は無く、強烈な不意の一撃に顔が歪む。
「何言ってるのよ、こうされてぇ本当は嬉しいくせに」
(これはどっちを言えば正解なんだ!?)
「嬉しくない」と否定すれば、相手の容姿も批判することに繋がらないか心配した。
「嬉しい」と肯定すれば続行だと予想できる。
「あ、あの……! あそこの装置から冷たい風が来ているので降りたらいいんじゃないですか……!」
エルダが指差すは天井に埋め込まれている四角い装置、四方向に通風口がありそこから冷風が放出されて館内を冷やしている。
鉄雄の世界で言うエアコンの役目を果たしているが性能はそこまで高くない、自動的に温度感知して温冷を操作できず温度計を確認して風量や温度を調節し室温を一定に保っている。
「なるほどね、でも残念ね、冷たい空気は下に溜まって暖かい空気は上に溜まる。つまりこの状況が最適! 少し移動すれば問題ないわ」
「そ、そんなぁ……」
「はいはい……このまま一階の展示室に向かうから付いてきてくれ」
深く考えることは止めてこの形態のまま見学することに決めた。
他の観光客や私服防衛部隊員からは奇異の目で見られているが気にするだけ無駄だと結論付けたのだった。
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