第41話 状況整理!
7月1日 太陽の日 20時10分 マテリア寮 1002号室
無事に帰って来られて食事も済ませられて、ようやくダランと肩の力を抜けられ落ち着いて互いの情報交換を行うことができた。
緊張し続けていたのは俺達三人同じだったようで、同時に溜息を吐いたのには少し笑ってしまった。
「へぇ~……3人の子が婚約候補だったんだぁ。モテモテだね……」
アンナは楽しそうな表情で話を聞いてくれてたけど、セクリは妙に乗り気じゃないというか反応が薄い。目も何か鋭い気がする……状況が良くないことを分析して憂いているのか?
「わたしもチラっと見たけどみんなかわいかったよねぇ~誰と結婚するのか決めたの?」
「そんな気は全くないな」
「そうなの!? もしかして全然好みじゃなかったってこと!? 贅沢がすぎるんじゃないの!?」
確かに俺もそう思うし全く失礼なことを言ってる自覚はある。護衛や王様達が聞いたら不敬罪で刺しに来かねない。
「アンナより年下で子供すぎるっていうのはあるにはある。でも、だからこそあの子達は恋に恋するお年頃ってやつだ。誰も本気で俺と結婚しようとは思ってないよ、凄い敵を倒した英雄って分かりやすい肩書に憧れてるだけだ。あの子達が美人で良い子だってのは分かるけど憧れにかこつけて手籠めにしようとするのは間違ってる。大人が一歩引いてなだめることができなくてどうするよって話だ。俺はな、あの子達が「ああ、こんな人にも憧れた時があったなぁ」って思い出される存在で良いんだよ」
王様達も言葉全てが本気じゃないだろう。
上流階級の結婚となれば家と家の力をより強くするためでもある。大事な一人娘を家なし金なし魔力なしの何も無しの俺に託すなんてできないだろう。
自分の子供に経験値を稼がせる良い練習相手ってことだ。
おそらく俺の視察は嘘じゃないだろう。『惨劇の斧』と呼ばれていた頃統治非統治問わず多くの国がこの力で蹂躙された。危険因子かどうか一目見るためにやってきた。
そのついでに交易。これはもう確認済み今日の夕食が良い証拠でヴェステツォントとアクエリアスの食材や調味料が混じった普段と一風変わったお味に舌鼓を打った。
あれだけ立派な飛行船に人だけで来るのは大きな機会損失、それに他国の珍しい素材が手に入るなら錬金術にも利用できるし新しい何かが生まれるかもしれない。
「なんだかつまんないなぁ。主従契約が解除される頃にはあの子達も成長してると思うのにな」
「子供の成長は早いからね、あの子達も背が伸びて可愛いさや綺麗さがグンと上がると思うよ」
「それで、ああ、あの時婚約していればよかったなぁ~って思うんだよねきっと」
「勝手に変な想像しないでくれ」
二人の言うことも万里ある彼女達はお姫様なだけあってスペックが高い、年を重ねる度に美人に成長するだろう。いや、俺の想像を超える美人になるのは間違いないだろう。
確かに好意がこちらに向いている間に色々やってメロメロにさせる。そうすれば明るい将来は簡単に想像できる。綺麗なお嫁さんに立派な家で過ごす俺。前の世界では味わえない喜楽を堪能できるろう。
でも、できないことを語ったところでどうしようもない。ゲームみたいに好物上げれば好感度が上がるような単純なものじゃない。男と女が出会っただけで惚れられるような都合の良い世界じゃあないんだここは。
王様達が本気で婚約を結ぼうとしている可能性も塵程はあるかもしれないが……女の子に好かれるために尻尾を振る男はどうなんだ?
「そういえばそっちはどんな話をしてたんだ?」
話を変えよう。色恋話は腹の内を探るようで苦手だ。あの子達はそこまで考えてないと思いたいけど、周囲がどう糸を引いてるか分からないからな。
「……詳しくは話せない、テツには伝えないでほしいって言われてるから」
「そうか……なら聞かないことにする。でも、脅しとかそんなのだったら話して欲しい」
好奇心猫を殺す。この猫は俺じゃなくてアンナになりかねないから聞かない。でも、脅迫染みたことで口を閉ざすならば話は変わる。
アンナに危害が及ぶならば何時だって戦う覚悟はできている。
「大丈夫だよ、怖い話は無かったから。お父さんの捜索とかマテリアを卒業したら自分達の国に来ないかとかね」
「スカウトか! あの人達は先見の明があるな……!」
明確な目標を抱いているアンナは立派に成長する。例え大きな困難が待っていたとしても俺達で支える。そして、今とは比べ物にならないぐらい凄い錬金術士となったアンナを見てみたい。
「せんけんのめい?」
「未来を見る能力があるってことだ。アンナが立派な錬金術士になることを信じているから今のうちに招待しておこうってことだ。有名になってから言われるよりもずっとありがたい言葉だな」
「なんだか照れちゃうね……!」
「それとロドニーさんの捜索はどうだって? 状況的に見つかってはなさそうだったけど?」
「王族に近い人にお父さんらしき人はいないって。国に紛れ込んでないか捜索はするけど、あまり期待はできないって……」
「そうか……身を隠す理由がないもんな……」
ハーヴェスティアだったらもう帰ってきている。北のヴェステツォントと南のアクエリアスは徒歩じゃ現実的でないにしても飛行船がある。錬金術でお金を稼ぐなり名を上げれば、新聞記事の情報も合わせて今日帰ってきてもおかしくない。
望んだ結果でないにしても作戦は成功している。
コンコン──とリズムの良いノック音が響く。セクリが「はーい」と扉を開けるとそこには。
「「おじゃまいたします」」
「ち、チーフ!? どうしたんですか!?」
「それにお付きの人!? どうしてここに?」
使用人長はよく大切なお届け物で訪れてくれるから少し驚くぐらいだけど。クラウド王お付きの人は違う。ここに来ること自体が有り得ない事態。確か護衛兼お世話係、離れることもあってはならないんじゃないのか!?
「大事な要件があって来ました」
「緊急性及び重要性が極めて高いので私もこちらに足を運ばせていただきました。ですがその前に──」
両名が綺麗に立ち並び、視線をこちらに向けると。その瀟洒な雰囲気に思わず緊張して唾を呑む。
「改めまして自己紹介を、私はクラウド王専属使用人『ルビニア・ピアニ・ブリミアンス』──」
「マテリア寮使用人長『サファイアス・ピアニ・ブリミアンス』──」
「「よろしくお願いします」」
揃った声に優雅に一糸乱れぬ動作で二人が頭を下げくれる。動きに気を割き過ぎて聞き漏らしそうになるけど同じ家名を口にしていた。
「まさかお二人は……!」
「想像通り私達は双子の姉妹です。私ルビニアが姉で」
「私サファイアスが妹です」
「「「あっ!?」」」
何で今まで気付かなかった!? 顔が本当にそっくり! 二人にちゃんと会って顔を合わせたのに。
確かに髪色と目の色が赤と青で大きな区別ができてしまう。けど隣に並ばれると身長も纏う空気も同じだし、声もどっちもプロの使用人だからか質とか抑揚が似ている。おそらく二卵性双生児だろうけど観察力があれば気付けたはずだ。
「長さんの名前ってそんなだったんですね……皆さん長って呼んでいたんで今の今まで知りませんでした。今度からサファイアスさんと呼びますね」
「そういえばボクも言ってなかった気がする……」
「私達は主を影から支える存在です。名が売れることを誇りとは思っていませんのでお気になさらず。後『ファイ』でも構いませんので」
「では、夜も遅くなり始めたので本題に移りましょう。『3国のお姫様方との逢瀬』についてです」
「逢瀬……って男と女が仲良くすることのことだよね!? 何ともないって言ってたのウソじゃん!」
「そんながっつりした交流はしないって……王都の観光案内して適当に満足して帰国してもらうだけだ」
丁寧に接待して婚姻とか婚約の話は先送り、自分達の国に帰れば俺のことを「あの程度」と思って自然と気持ちが冷めるだろう。世には俺より良い男が星の数ほどいる。自らババを引くことはない。
「どうやら来たのは正解でした。そんな甘い考えではいけませんよ不躾にもほどがあります。戦に発展したらどうするのでしょうか?」
「──え?」
「明日の逢瀬はもはや外交、将来的な国交にも影響がでかねない重要な問題です」
「交易の途絶は勿論、最悪ライトニア民の入国禁止措置が図られる可能性も0ではないでしょう」
「──何ですって?」
もしも起きてしまったら最悪を超えた最悪がアンナにも降り掛かりかねない。いくら三国にロドニーさんの影がなくても将来『ソウルチェイサー』の改良版が完成したとして、もしもそれらの国の方向を指していた場合、向かうことができなくなる。その周辺の村や街にいる可能性だってある。お父さんの居場所が分かっても国を経由する必要があれば二度と会えなくなってしまう。
アンナが絶望する表情を想像するだけで身の毛がよだつ。最も有り得そうな詰みの道。
自分で自分の顔が白くなってくのも分かるし涙目になりそうだ。
「ですがご安心ください。このために私達が援護に来たのです。明日に備えて服もいくつか用意してきました」
「……よろしくお願いします」
お互いにとって益が無さそうな逢瀬でも、見栄と権威の張り合いは一人前。
これが接待か……子守りな接待とか相当大変じゃないか……? 何かまた国の平和を守る大役を与えられてないか俺?
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