第38話 新たな愛の契りを結べば良い
「アンナさんが卒業し、使い魔契約を解除された時あなたはどの国にも属さない。1人きりになってしまいます。そんな状況は大きな損失。なので婿入りしてください。そうすれば合法的にあなたを国を迎え入れることができます」
「婿入り……結婚しろってことですか!? 言葉からして!?」
「テツが結婚!?」
「!?」
これが明るい話題!? 確かに結婚はめでたい話だとは思うけど。階段を何段階も飛ばしたような提案じゃないか!? デートもしたこと無いのに結婚!?
アンナもこれまで見たこと無いぐらい驚いてるし、セクリも何か視線がブレにブレてる。
「はっはっは、その相手は無論ワシの娘だろうがな!」
「あなたがアンナちゃんに向けてる庇護欲をあたくしの娘に向けて欲しい、ということよ。あなたは誰かを守る時に最も強く輝くみたいだし、守る存在が常にいた方がいいと確信したわ」
「一応聞いておきますが、既に婚約している相手がいるとか特別な想い人がいるなんてことはありませんか? 交友関係は調査済みでもあなたの心の内は見れないので」
「そんな相手はいませんよ。仮に俺なんかがそんな想いを向けたら返って失礼ですから」
気になる相手が全くいないと言うには嘘になるだろう……でも、それは共に歩いて行きたい相手か少し想像してみると俺じゃあ釣り合わない。まるで絵にならない。
「それを聞いて安心したぜ。何せワシの娘は特別に可愛いからな、そんな相手がいたらもう目に映らなくなってしまうだろう!」
「スタイルの良さならあたくしの娘が一番な気がしたけれどね。まっ、見た目も大事だけれどそれ以上に魂よ、中身が噛みわなければ一緒にいても辛いだけだもの」
「だとすれば私の娘でしょう。教養に精神性、なにより将来性。立派な淑女になること間違いありませんからね」
何というか子供自慢が始まってる……!
そんな秘蔵っ子をどうしてだ? どうして俺に託そうとする?
「ですが、そんな自分の娘を生贄みたいな扱いをするなんて……! よく考えてください俺ですよ? 魔力も無ければ、100キラで始まって101キラで買われたのが俺ですよ!? 俺が冷静に考えたって正気の沙汰じゃない、泥酔したって首を縦には振りませんよ!?」
「101キラなのはごめん……わたしお金あんまり持って無かったから……」
「アンナは落ち込まないでくれ……買ってくれたことが救いだから」
言わなくていい事まで言ってしまった! でも、事実だ。競売にかけられた男を婿にするなんて王族としては歴史に恥を塗ることになるはずだ。
「勘違いするなよ? お前の姿と評判や実績を伝えた上で末っ子が会ってみたいと決めたんだ。一切の強要はしていない。他の娘達はお気に召さなかったからな無理に連れて来ることはしなかった」
「婚約していない娘達に聞いてみましたが、気に入ったのが1人だけでしたので気に病む必要はありません。それに今日で婚約が決める気はさらさらありません。娘がいくら素晴らしかろうとあの子が望まなければ強いる理由はないです」
「あたくしのところもそんな感じね、いくらなんてもご機嫌取りに大事な娘を差し出す親はいないわよぉ~。あくまで顔合わせよ」
「これは何というか勇み足過ぎて申し訳ありません」
冷静に考えればそうだよな……色恋沙汰の経験値が無さ過ぎて赤ん坊レベルの俺じゃあ、想像だけか変に先走る。最終的に結婚を視野に入れてはいるが最初の一手で婚約が確定する訳じゃない。
第一皆様方は自分の国に帰る。娘さんも連れて。
だから今日は顔合わせみたいなもんだ。想像と実物の差を自分の目で確かめるだけ。
だから断られたところで大きな問題になることはないだろう。落胆させるかもしれないが……。
「お話中失礼しま~す、ただいま戻りましたぁ」
砂糖菓子のような甘ったるく耳に残る声。
新たな来訪者の姿を目に捉えた瞬間身体が強張って、彼女から目を放せなくなった。
「パトラ! まったくお前という奴は……!」
「ごめんなさいお父様。それと、話を遮ってしまい申し訳ありませんでした」
アンナと同じ褐色の肌に銀の髪、服装はヴェステツォントの礼服なのか踊り子のような服に身を包み、体のラインがはっきりと出て胸の谷間や腰のくびれを見せつけるような恰好。半透明の布に包まれているのが逆に扇情的に見えてしまう。なによりセクリに負けないスタイルの良さを視線が追いかけてしまう。こんな言葉は失礼だがエロイ。見た目に立ち振る舞い、何をとっても心の奥の情欲を刺激されてしまう。
「失礼したなテツオ。こ奴はワシの娘、名を──」
「パトラ・デザリア。以後よろしくね英雄様」
俺の手が彼女の両手に包まれ、体温が混ぜ合わさせるかの錯覚に陥る。
別格。本当にそうとしか言えない。この世界で美人な女性は何人か見た。でもこの人は違う明確に線引きできてしまう。美の領域が違う。年も判別し難い、レインさんと同じ位だと思うけど肌も髪質も若々し過ぎる。
目が離せない。それに宝石のように煌めく瞳がまっすぐと俺の目を射抜いている。頭の中まで覗かれるような気持ちになるけど、何故か捧げたくなる気持ちすら湧いてくる。
「え、あの──よ、よろしくお願いします」
「あら照れてるの? かわいいわね」
片手が離れることに僅かな寂しさを感じるが、頬に手が触れられた瞬間に焼き鏝で触れられたかのような衝撃の高揚感が湧き立つ。
そういえば結婚相手の候補はまだ分かっていない。もしかしてこの人がそうなのか!? そう思うと何だか悪くない気が凄いしてきた。
「先に伝えておくが、パトラは婚約候補ではない。観光目的でやってきた奔放娘だ」
「そうですか……」
「妹をよろしくね、もう少し男らしかったらお食事のお相手をさせてもらうところだったけど」
そう美味い話があるわけじゃないか……。
ただ、本当にヤバイ。強制的に一目惚れさせられた感じだ。子供時代に綺麗なお姉さんに出会った時のような鮮烈な衝撃。顔が熱い。本当に幼稚園児と大人のお姉さんみたいな状態になってた。
コーウィン様の言葉は親バカだろうと思っていたけど、この人を見ると真実味が凄い。そんな人の妹さんが俺に会いたいと思ってくれた。
何というか自然と頬が緩む。
「堅苦しいことは考えずまずは会ってみてくれ、ここで問答繰り広げるより有意義だろうからな」
「分かっていると思いますが、婚姻を結んでいないのですから。いくら愛らしくても手を出す事は許しませんよ。美人で将来性があるといっても禁じます」
「まあ、『きっちり』責任を取ってくれるというのなら構わないけどね。逃げようものなら二度と夜を眠れないようにするけど」
本気だ、そんな気はさらさらないけど。迂闊に手を出せば山に埋められてもおかしくない殺気がひしひし伝わってくる。
「別室に待たせています。ご案内するのでついて来てください」
「分かりました。では、失礼します」
王のお付きの人に付いて行くように部屋を後に──
「アンナ・クリスティナ。君はここに残りたまえ。大事な話もあるし、使い魔とはいえ一人の男。親しい者が近くにいれば本心を隠すやもしれん」
「……え、あ、はい──! ……わたしにはなし? 何を?」
できない。完全に足が止まる。何故アンナに話を? 俺だけじゃなかったのか? 部屋が別れたら確実にアンナが守れなくなる。どれだけ甘い提案で安心を誘おうともアンナを守る盾としての役目は消えることはない。だからパトラさんに触れられた時は本当にヤバかった。この状況下で守護意識が抜け落ちてた。そういう意味でも別格だ。
(テツオはそのまま向かって大丈夫。ボクがいるし何かあったらすぐに伝えるから。王様達に泥を塗る方が危ないと思う)
(……分かった)
セクリを呼んどいて本当に良かった。
「王様方、アンナはあまり敬語に慣れていない身なのでお目こぼししてもらえると助かります」
「……確かになれてないけど、だいじょーぶ! だからテツは早く未来のお嫁さんでも探してきてって!」
「無理に丁寧に話しすぎると変なことになるかもしれないから、喋りやすい言葉を使うんだぞ?」
「もぉ~子供扱いして!」
「では失礼します」
ぷんすこ愛らしく怒るアンナと警戒を任せたセクリと別れ。お客様方の元に向かう。
悪い人達じゃないとは思うけど、三十分も話してなければ共に食事もしたこと無い相手。腹見せて信頼するのは流石にお人好しが過ぎる。
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