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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第36話 王様襲来

 7月1日 太陽の日 9時30分 クラウド城会議室


「失礼します」


 会議室に踏み入れた瞬間、静謐さだけでなく部屋に漂う空気が緊張に包まれているのが肌で感じ取れてしまった。前の世界でもこんな空気にさらされたことはなかった。


「お仕事中申し訳ありません。あなたがいなければ進まない話だったので呼ばせていただきました」

「こいつがカミノテツオか! なるほど、新聞と比べたら少し貧相な男か?」

「あらぁ? いいオトコじゃない、生で見ないとやっぱりダメねえ」

「本人で相違なければ問題ありませんよ」


 俺を値踏みするように見るは三人の……男? 誰もが特徴的であると同時に気高さと品格のオーラを放っている。近くに行けばそれだけで押しつぶされそうになる。


「彼等はヴェステツォント、ハーヴェスティア、アクエリアスの代表、王に準ずる方達です」


 ……え? それはつまり──


「三国の王が同時にこの場に集結したということですか!?」

「一応あたくしは代理よぉ、王は一身上の都合により来られないわぁ」

「こうして揃うのはとんだ偶然と言わざるを得ないがな! 恐らく考えていることは同じだろうが」

「ええ、最北と最南の我々が同じ日に連絡も無しにライトニアに到着するのはある意味では奇跡でしょう」

「そうねぇ、天空城以来かしら? 皆お元気そうでなによりよぉ」


 いやいやいやいや、想定以上にヤバイ所に来ちゃったんじゃないかこれ? 絶対碌な事にならない。俺に要件? そんなの破魔斧レクスをどうこうするしか考えられない。今度は三国の騎士団長達と戦うハメになるのか? 嫌だわもうこれ……権力の壁を気にせずアンナの夢を共に追いかけたいわ……。


「さてと……自己紹介をしなくちゃね。そこの桃色髪のあなた、壁にある地図の前に立ってくれる?」

「ボ──こほん、(わたくし)ですか?」

「ええそうよ、あたくし達がどこの国からやって来たのか知って欲しいじゃない? 彼がどこまでこの世界について詳しいか分からないけど」

「かしこまりました──あっ、伸びる棒があった……」


 セクリは伸縮棒を伸ばし、壁に掛けられている縦幅が俺の身長位ある大陸地図の前に立つ。その地図は立体地図となって大陸内の形が大まかながら分かる代物となっている。

 

「さて、まずはワシから名乗らせてもらおうか。ライトニアから真北に進み、北端より少し南、そうそこがワシ達の住む『ヴェステツォント』。砂漠が広がる過酷な地域だが、そんな土地が生み出す名産品も戦士達も他国には負けん! まとめあげる王こそワシ『コーウィン・デザリア』!」


 『コーウィン・デザリア』様。褐色肌に筋骨隆々、王というよりも騎士団長を名乗っていた方が似合いそうな豪傑。見た目も発する圧も並じゃない。一対一で話し合いなんてしたら怖くてなんでも話してしまいそうだ。

 それで国の名前がヴぇ、ヴェステツ、オント? ヴェステ、ツォントか? 言い難いな……位置は相当遠い、山脈を幾つか超え平地を進みようやく到達できる。飛行船じゃなきゃ到底向かうことはできない。

 逆に言えば飛行船まで使って俺に会いに来たってことなのか!?


「次はあたくしね。桃髪のあなた、そのまま南に進めて。そう、そこライトニアとは随分近いでしょ? そここそが豊穣の山がある『ハーヴェスティア』。ライトニアから錬金技術を受け取る代わりに色々な香辛料や果実を輸出しているのよぉ。あたくしは宰相『カーラ・ムルハー』以後よろしくね!」 


 『カーラ・ムルハー』様。こちらも体格の良い方だが、決めた化粧に御洒落な装い。そして特徴的な口調……セクリとある意味似ている方ということだろう。それに、この人の圧は少し違う、怖さが無く覇王というより慈愛に満ちている。だけど、鞘に収まった刀のような印象も感じる。

 ハーヴェスティア、大きな山脈に阻まれることもなく相当近い。飛行船を使うまでもなく馬車で普通に行き来できそうだ。

 

「最後は私だ。大陸最南端に進めたまえ、そうそこだ。水と氷、そして竜の国『アクエリアス』。ライトニアとは氷属性の素材を輸出し、熱素材を輸入する間柄と言ったところだ。寒さが目立つ国だが衣食住に不便はなく海を有している。私の名は『ビリービル・ドラリスタ』見ての通り竜の力を有している。簡潔に言えば半竜人と言ったところだ」


 『ビリービル・ドラリスタ』様……ロックな感じな名前だ、知的な雰囲気が凄いのに。それとアンナと同じように角が生えている。けどあちらは左右二本。何よりも翼が見えている。その竜の翼というのはコウモリのように膜が張っているものらしい。

 アクエリアス……間に国があれど普通に向かうことすら困難じゃないか? 砂漠の国とは真反対の位置、余りにも遠い。ライトニアは内陸部に位置するから船で向かうことすらできない。一度西に行って船に乗って南に下っていくしか方法はない。そう考えると飛行船様様だな本当に。

 これで答えは出た、二機の飛行船はヴェステツォントとアクエリアスと見て間違いなさそうだ。


「──ご丁寧に感謝します。改めまして神野鉄雄です」


 しかし……何をどうしたらいいのかさっぱり分からない……! 王様との会話方法なんて親も本もおしえてくれなかったぞ? 身体の動き一つで首が跳ねられる事態にはなって欲しくないぞ!


「早速だが堅苦しい言い回しは無しで行こう! お前を我が国ヴェステツォントへ迎え入れたい!」

「──何ですって!?」

「ええ!? ダメ! テツはわたしの大事な相棒なんだから!」


 おお……アンナッ! こんな圧が強い場所でハッキリと断ってくれるなんて涙が出そうになってくる。


「まあまあ勘違いしないでくれ、言葉が足りなくてすまないな。今すぐに、という訳では無い。契約や等価交換を大事にしている錬金術士さん相手に横入りや盗みはご法度。だから今行われているカミノテツオの使い魔契約が解除された後に我が国が受け入れる。という話だ」

「私もそのつもりですが、1度会って話してみないことには決断できませんからね。あなたの未来は不確定なことが多そうですから」

「マテリアの錬金術士が行う使い魔契約の期間って基本は卒業まででしょう? 幼い頃より契約している使い魔を除いてはね。そ・こ・で! 卒業後、フリーになったあなたをハーヴェスティアの住民にしちゃおうと思ったのよ」


 考えなかった訳じゃない……いつか来る別れ。その後俺は何をするか。俺はどうなっているのか。正直言って不安しかない。

 アンナが隣にいるのかも分からない。セクリも立派な使用人としてマテリア寮で活躍するか貴族お抱えになるだろう。じゃあ俺は?

 破魔斧が取り上げられる可能性は余りにも高いだろう。そうなったら俺に何ができる? 最低価格の惨めな俺に逆戻りしかありえない。たった一人で……。


「卒業後も彼女が契約更新をする場合もありますし、そもそも彼はライトニア王国の住民で──」

「あらぁ~! ダメよボク! そんなウソを吐いちゃあ。バツとして食べちゃうわよぉ~?」

「ヒッ!? ……ごほん! 嘘なんて──」

「使い魔は物扱いしているのはどこの国でしたか?」

「……モノ? 物? ってどういうこと?」

「錬金術士を守る盾として存在する使い魔に人権は無い。主人の所有物である。例え人であっても。どのような扱いをしても他者から異を唱えることはできない」

「物であるから、国民登録はできないのよねぇ~。騎士団も仮登録、出世も絶望的。本当に酷い制度よね」


 知ってる。アンナがあまりにも人扱いしてくれるから忘れそうになるけど。使い魔は基本的に主人の所有物。ただ勘違いしてほしくない、外側からは悲惨だとか可哀想と見るかもしれないが。

 心から認めた主人に仕えることは何事にも代えがたい誉れであるということを。他の皆も似たようなことを想っている。


「そんな……じゃあテツがこくみんとうろくっていうのをできるようになればここで安心して暮らせるようになるってこと?」

「あらぁ~それをされるとアタシたち困っちゃうわぁ~。でもできるのかしら?」

「…………できません」

「だと思ったわぁ~!」

「え!?」


 それも知ってる。


「そもそも国民登録はその人物を国の住民だと認める制度。税を収める必要はでてくるが、騎士の守護対象になり、国に家を建てたり、店を開くこともできる。犯罪行為に走らなければ、ライトニア王国という大きな家に住み続けられるという訳です」

「ほぇ~……」

「大事なのは「人」という種族の使い魔を国民登録ができるってなれば、いずれ大きな穴になると判断したのよね? 過去にどんな過ちを犯した人間であっても錬金術士の使い魔だから問題無い。で通すには危険すぎるもの」


 この話を始めて聞かされた時は大してライトニアに愛着なかったから気にしなかったけど、やっぱり今もそこを問題とは思えないな……。

 ただ聞き忘れたことが一つある──


「ちなみに、仮にですけどアンナとの契約が今切れた場合俺ってどうなるんですか?」

「……錬金術士の庇護下を離れた時点で不法入国者となる。騎士団に籍があるがアンナちゃんの名があって初めて有効。契約が切れると同時に脱退処分となる」

「……俺ってそんなに不安定な状態に立っていたんですね……」


 何時でも手の平返し受ける状況にいる訳だ……。


「がっはっは! 中々面白い立場におるようだな! やはり会いに来て正解だった、新聞にも報告書にもこんなことは書いてなかったからな!」


 陽気に笑い飛ばされた方が幾分かマシだなこれ。確かにライトニアは技術も発展して便利な国。けれど、ここが俺の居場所かと聞かれれば疑問が湧く。アンナと共にいるから楽園気分、離れてしまえばこの国は俺にとって安心できる場所ではなくなるだろう。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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