第35話 英雄新聞
7月1日 太陽の日 9時20分
「くぅ~……! たまんねえなこれ!」
騎士団本部に出勤してとんぼ返りの勢いで巡回に出発。勿論今日の新聞を購入することがメインだ。書店では最後の一部しか無かったのが妙に誇らしかった。
見出しは『アメノミカミ撃退、その真実』。かっこよく写された俺の姿に思わず別人かとも思ってしまう。
大まかな戦いの流れ、俺も知らなかった王都内の状況。気を失った後の動き。皆の活躍が知れた。ただやはり──
「──「彼が命を賭して稼いだ時間があったからこそ、我々は今をこうして生きていられるのだ」……なんて書かれ方すると勝手に顔がニヤけてしまうな」
他人に見られたら気味悪がられるだろうけど、ここなら誰にも見られずに読むことができる。
王都城壁上から見下ろしながら自分の成果を確認するのは何とも気分が良い。
全部が全部俺のおかげではないけど、一助になれたのは誇らしい事実。帰ったらスクラップにして保管しないとな。後は別の場所で保管用を変えたら言うこと無し。
この新聞に気が浮かれる半面、目を背けてはいけない問題が一つある。
「流石に黒幕の名前は書いてないな……ミクさんの名はあったけどちゃんと被害者として扱われて一応良かった」
正しく情報が伝わっていなければ彼女を犯人扱いする人も現れてもおかしくない。これをきっかけとして牢から出せればいいんだけど厳しいだろうな……安全の為とはいえ不当な待遇を強いている現状を早いとこどうにかしたい。
「納得できる状況に持って行けて初めてフィーバーできるってもんだ」
だから浮かれて踊り狂うのは何時かに取って置こう。さて、平和な王都とは言え巡回はサボらず真面目にやらないとな。ここからなら内側も外側も両方見られるから効率が──
「ん……? 何だアレ? あんなでっかいの西区にあったか?」
ほぼ毎日周囲の街並みは確認している。ビル街みたいに無機質に似たような風景が広がってる訳じゃないからおかしな所が見つかればすぐに気付く。だからアレ程の物があれば否が応でも何か起きようとしているのが簡単に想像できてしまう。
「……飛行船じゃないか!? それも二機!? しかも立派なマーク……国旗か!?」
飛行船の存在自体は聞いていたけど、この世界のは初めて見る。離れたここから見ても俺のいた世界とは造りが結構違っている。大型船をそのまま気嚢で吊り上げていく感じだ。その船のデザインも二機でまるで正反対。片や白くお城のような格式高い雰囲気があるが、もう片方は砂色を基調として優雅な雰囲気を放っている。
そして、大きな気嚢に描かれてる大きく美麗なマーク。雪と龍を合わせたものと三日月と鳥を合わせたもの。完全に別の所属だと判断できる。
(……テツ、聞こえる? わたしだけど──)
「飛行船は超高価、あの大きさってことは……状況的に二つの国のお偉いさんが来たってことか?」
(テツ? ちょっと? 聞こえてる!?)
(お、おう!? すまん、どうした?)
珍しい状況につい反応が遅れてしまった。でも珍しいなこの時間帯に呼び出しなんて……ここからだと学校に異常は見えないが何か大変なことでもあったのか?
急ぐ必要も考慮すべきとボトルを一本取り出しておく。
(今すぐに王城まで来てほしいんだって。テツが見当たらないから学校にまでレインさんが来てビックリしたよ)
(アンナの身に何かあったわけじゃないんだな?)
(うん、あ──わたしも王城に行くみたいだから先に行ってるね)
(俺もすぐ向かうけど、何が起きるかわかんないからセクリも連れていった方がいい)
(? わかった、いちおうセクリにも伝えておくね──)
調査部隊の部屋に行っても誰もいなかったからなぁ、行動表示板には一応巡回とは記しておいたけど場所までは書いてなかった。
あの飛行船がこの呼び出しと無関係とは到底思えない。
念の為の備えをしておくに限る。
破魔斧にボトルを差し込み、破力へ変換し、肉体強化術を使用して屋根を渡りながら王城へ向かった。
王都をよく見回せば巡回している騎士の数がいつもより多い、アメノミカミ戦後の警邏よりも圧が鋭い、怪しき者は全て罰するみたいな雰囲気が広がっている。
念の為一度騎士団本部に戻って荷物と身だしなみを整えてから王城に入ってみれば、針が刺さるような空気で満たされ、警備の人数が多いときた。
そして、平民では上ること叶わない大階段の前にアンナとセクリ、レインさんが待っていてくれた。
「あっ! 来た来た! こっちこっち!」
「お待たせして申し訳ありません。一体何があったんですか?」
「……簡潔に言えば君を目当てに他国からお客様がいらっしゃった」
「テツ目当てに? あっ、新聞が他の国に届けられてそれを読んだ人がテツのこと気になって見に来たんだ!」
アンナの言う通りそれが答えなんだろう。ただ、過程からもたらされた数値が想定以上に膨れ上がっている気がする。レインさんの「いらっしゃった」って……もしかしなくてもやんごとなき人がいるんじゃ……。
「さぁ行くよ、くれぐれも失礼の無いように」
「はい──!」
この階段を上るのは叙勲以来、早々踏み入れることはないと思っていたのに。こんな短い期間で訪れることになるとは……。何だか前来た時よりも掃除とか行き届いてる気がする……というより磨き上げられた感じだ。より良く見せるような。
「なんだか肌がピリピリする気がする……前みたいにテツをいじめるようなことしないよね?」
「それは……有り得ないはずだよ。ただ、あの方達が何を言い何をするかはまだ分かってないんだ」
「お腹痛くなってきそうなこと言わないでくださいよ……」
アンナが警戒するのも頷ける程ここは異様に静か、外の営みが届かない、歩く音だけが妙に響く。緊張を強いられているような空気。
レインさんの後を付いて行くと「会議室」に到着する。ここに俺を読んだ人達が集まっているというわけか……。新聞に飛行船、警備の人数、答えは想像し易いけど、考えすぎだと笑い飛ばしたい自分がいる。
だが、そういう答えこそ当たってしまうことが多いのが世の常だったりする。
「お連れしました」
重々しく開かれると、王のお付きが一礼して出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。皆さん準備が済んでおります」
部屋に入った瞬間、俺は予想が的中したことを肌で理解した。圧倒的な品格の空気に押しつぶされそうになってしまった。
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