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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
222/403

第27話 変身

 6月30日 月の日 5時00分


「こんな朝早くから始めるんだな……」

(無論じゃ、乙女の準備というのには時間が掛かると言うものだからの。さっ! 早く交代するのじゃ! ここから先は今までと違う限定的完全交代、お主は外の情報が分からない)

「ふぅ~……問題無い。レクスには沢山助けてもらったからな、小さな恩返しの一つだ……いくぞ? 準備はいいか?」

(あぁ、始めてくれ──)


 深く息を吸い、ゆっくりと息を吐く。破魔斧の側面に手を当て、覚悟を決めて祈るように目を瞑る。

 次、目が開くと。


「──ほう、やはり違うの……思考や精神に粘つくような感覚がまるでない……これが完全に交代した状態という訳か……まさかここまでやるとは何ともお人好しというべきか。いや、今は──セクリ!」

「無事に交代は済んだ?」

「無論、さっそく始めるぞ!」

「全ての準備は昨日の内に済んでるから!」


 足のつま先から頭のてっぺんまで自分の身体だと認識するほどの一体感。元から自分の身体であったかのような違和感のなさに高揚感を覚え始めていた。

 何百年と斧の中で霊として過ごし体を借りられるのは稀、そもそも平安な時を堪能し、世の事象に目を向ける余裕ができたのは鉄雄が持ち主となってから。

 大罪に塗れてもなければ戦事でもない風景は彼女にとってあまりにも眩しく、新鮮であった。

 だからこそ、今日という日は特別。向かう先はマテリア寮の共同浴場、この時間帯に利用する者は基本いないが念のため貸し切りとされている。


「それじゃあ始めるよ……」

「ああ、頼む──」


 セクリは心の内では鉄雄に申し訳なさを感じていたが、それも最初だけ。

 改造作業が始まればその瞳に活気が湧き上がり、尻込みする感情は消え去った。

 全裸となり、錬金製の脱毛クリームにより文字通り全てのムダ毛を処理され、肌の色を整えられ、この日のために用意された女物の服に袖を通し、眉を剃り化粧を施され、銀髪のウィッグを被せられる。

 最後に果実の甘い味に改良された音符型の飴を口に放り込み──


「おお! まさか鉄雄がベースであるのにこうも変化するとは……! 写真に収めてあ奴に見せた方が面白いのではないのか?」


 浴場の姿見で自らの姿を満足気に眺める。そこには神野鉄雄を連想させる姿は微塵も無い。

 体格が少し良い女性が目の前にいた。その姿は成長したレクスを想起すると言って過言ではない。


「ふぅ~ボクながら良くできたと思うよぉ」

「では次は腹ごしらえといこうかの。普段あ奴が食べとるのを窓越しで眺めるような真似をせんでいいのは気分が良い」



「──なんて言ってたけど、普段通りの朝食で良かったの? (チーフ)に頼んでもらったらもっと豪華で美味しいのが食べられたんじゃ?」

「わらわが求めたのはこの小さきテーブルで囲む食事じゃ。手を伸ばせば気を許した者に触れられる程度のな。それに中身のない豪華な料理は見飽きた」

「ふわぁ~……普段より1時間ぐらい早いんじゃないのぉ~」


 パジャマで眠気眼で眼を擦ってるアンナも一緒にテーブルに着き、鉄雄がレクスとなっただけで他は普段と変わらない朝食となる。

 使用人の気まぐれサラダ、長オススメのハーブティー、鳥骨出汁のスープ、カリカリ焼きベーコン&スクランブルエッグ乗せ食パン。

 昨日の夕食や食材の残り具合に食堂で期限が近づいて来たのも分けて貰い作られるメニュー、品質は悪くないにしても決してご馳走と呼ぶにはいくらか杜撰。

 けれど──


「……あ奴普段からこんな良い物食っておったのか──」


 レクスには十分響いていた。彼女の想像にはない複合的な重なり、歴代の使い手達の中から見た食事風景よりも質素なのは間違いなくとも、味は格段に超えているのを舌で感じてしまった。

 ふんわりとした卵にカリっとしたベーコン、バターと肉汁の香り、切れ込みが入ったトーストに染み込む

肉のうま味。口の中で多くの触感と味が踊っていた。尊大な態度を取っていようとも瞳の輝きは子供と変わらない。そして、どんどんと形が小さく減っていく姿に悲しみの色が映っていた。


「…………わっ! テツじゃない誰かいる!?」

「レクスだよ、ほら今日が改造する日だからさっきまでやってたんだよ」

「ほぇ~……これがテツだなんて言っても誰も信じないんじゃないかな……」

「本当に今更じゃな……店が開く時間になればお主達も共に出かけるぞ、言うなれば両手に花という奴じゃな!」

「えっ!? わたし達もいっしょに行くの?」

「当然じゃろう? 今日という貴重な一日を満喫するには一人ではいささか彩りがない。お主らという花を携えてこそわらわの一日はより輝くというもの。言うなれば両手に花という奴じゃな! はっはっは!」

「まぁ、こんな機会は中々ないだろうしボクはお供させていただくよ」


 と、肯定の意を示すが実のところ調査部隊から命を受けていた。何かあった時すぐにでも止められるようにと。


「素直じゃないのぉ~もっと二つ返事で追従の意を示しても構わんのだぞ? わらわの誘いを受けられることは何よりも光栄なことだと言うのに」

「光栄かどうかは置いといてもレクスとゆっくり話す機会なかったからちょうどいいかも。いつもと違う何かが見えそうだし」


 ただ、それはセクリだけ。アンナには一切伝えられていない。確認するまでもなく絶対に顔に出ると誰もが理解しているから。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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