第25話 一つ目のピース
そんな一世一代の覚悟を込めた告白みたいに言わなくても……。
「そうだったんだ。はじめて参加するの?」
「いえ、何回か……実は私こっちで暮らすお金の殆どをバザールで稼いでいるんです、依頼は不定期ですしできないものもあるので、良いものを作ればそれだけ売れるので安定しますの」
何かしら知ってるとは思ってたけどまさか普通に参加しているから詳しい。というのは予想外だったな。
言葉にするのは野暮だから言わないが、自分がアンナの試験の障害になってしまうかもしれない。と考えたから困った顔をした訳だ。
「それじゃあ今度の試験はナーシャが相手になるんだ!」
「ええっ!? 確かに暮らしの命綱ですから私はこれからも参加しますけど、それでも月に一度ですわよ? アンナさんの参加と合うことの方が難しいのでは?」
「それもそっか、まだ何するかも考えて無いしまずは見てから何を用意するか考えないとね」
「焦る必要はないさ。ブロンズみたいに短期間じゃない、素材も今持ってるのを利用しても良さそうだからとにもかくにもバザールの空気を堪能してからだな」
期間は長い、焦るには全然早い。大事を成す為の情報収集だけは迅速にすべきだがな。
それとナーシャの言葉をそのまま信じるなら、単純に三分の一の確率で参加が被る。商売事とはいえ友人同士の対決、避けるべきかもしれない……だが!
アンナはミュージアムに作品が展示され、アメノミカミを無力化する道具も作った。彼女よりも腕前は優れているだろう。
同日対決となっても負ける気はしない!
「ナーシャさんは何を作って売ってるの?」
「それは……っ! 秘密ですわ! バザールの時にお披露目するので楽しみに待っていてくださいませ!」
企んだような良い顔をしてる。
よっぽど自信がある品を売っているとみて間違いなさそうだ。
「そうだよねぇ……きっとまだ見たことない沢山の道具や素材を見られるんだろうなぁ」
「ええ、錬金術士向けの素材を売ってくれる方も勿論ですが、バザールの時は財布の紐が緩くなる方が多いそうなので限定品を販売する方もいらっしゃいますね」
「限定品……! 何だかいい響き! 色々見て回れるなら羅針盤を作るアイデアも見つかるといいんだよねぇ。ソレイユさんを超える物を作るとなると素材だけじゃなくて調合方法も見直す必要があると思うんだ。こう今までにない発想とかが必要じゃないかって」
そこまで考えているとはなんともご立派な……! 新聞はあくまでも他者頼り。自分のペースで調べられる訳じゃないどれだけ進んでいるかも把握できない。
結局のところ、自分の力で捜索することを肝要であるのは変わらない。俺はあくまで可能性を広げたまでだ、苦労することなく見つかるのが一番いいが、期待しすぎて自力で成す事を止めた上に見つけてもらえない。それが最悪。
「ソウルチェイサーだったよね? あっ! 思い出したけど、あの筆を使えばお父さんを見つけられるんじゃ!?」
「じつはもう2人がいない間に試し終わってるんだ。わかってたけど反応無かったよ」
「そりゃ半径1kmで反応したならもう見つかってるよな……」
「うう、それもそうだよね……」
けど、試したことは間違いじゃない。王都内にはいないことが分かった。もしかしたら国内に隠れているなんて想像をしなくてよくなったのだから。
「そうるちぇいさー? というのは何ですか? 何やらお父様捜索の重要な鍵な気がしますが」
「そういえばナーシャには話してなかったね。じつは──」
アンナは簡単に父親捜索の道具『ソウルチェイサー』の改良版を作成することを説明した。
それにナーシャは驚きと関心を持った表情で反応していた。
「中々凄い道具もあるものですね……占星術の一種かと思いましたが霊縁を利用した捜索方法の超強化版と呼べる代物ですね。となると霊的素材、ソウルオーブ等を利用するのでしょうか?」
「うん、ソレイユさんが作ったのはそれを使ってたよ」
「より強化版を作成するとなると……『冥府の霊石』も候補に挙がりそうですわね……」
「「「めいふのれいせき?」」」
「綺麗に揃いましたね……冥府の霊石は『大陸希少素材図鑑』に載っている程珍しい素材で、名の通り死後の世界から持ってこられたとされ大陸全土を探しても一個しか現存していないと言われる物ですわ。今はマジカリアの美術館に保管されているそうです」
「マジカリアは確か……ライトニアの南方にある統治国家だったな」
「話を聞く限り大切に保管してありそうだしもらうことは不可能なんじゃないかな? 泥棒することになっちゃうよ?」
「私よりも酷い状況になること請け合いですわ! ライトニアとマジカリアは仲が良くないそうなので考えた最悪を超えた最悪な状況が作られそうで怖いですわね」
ミュージアムで奉仕活動を強制された子が言うと説得力があるなぁ。
「でも、手に入れられたってことだよね? そんなにすごそうな素材なら絶対に役に立つって……!」
初めてのレストランで気に入ったメニューを見つけた子供ぐらいすっごい目がキラキラして興奮してる。
もうこれは、心から決めたって感じだ。遠くない未来に探しに行きそうな空気を感じる。
「ならそれも一度しっかり調べてみるか? 飾られてるのを貰うのは無理でも調べることは罪にはならないはずだろう。それに希少素材ってことならひょっとしたら騎士団の方にも情報が来ているかもしれないしな」
「うん! ありがと! よ~し、ナーシャのおかげで良さそうな素材も見つかったし、バザールでもいいの見つけるぞ~!」
「偶然とはいえ役に立てて光栄ですわ」
流石は親友と言わざるを得ないな。ここまで次に繋がる情報が頂けるとは思ってもみなかった。
使い魔としても負けてらんないな!
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