第24話 新たな試験
~調査メモ~
カミノテツオは辛いのがダメなようだ
アンナとセクリは平気にしている。
同じメニューを頼んだところ大して辛くなかったので余程敏感と考えられる。
6月26日 火の日 8時00分 マテリア寮 アンナの部屋
取材も終わった次の日、全てが理想的に進んでいたら偽物の注意喚起を含めた父親捜索願いの新聞が他国に渡り始めている頃合いだろうか?
アンナは今週一杯謹慎中、昨日は普通に外に出してしまったけど俺が誘った問題。何か言われたら俺が責任を取ればいい。
本来なら制服に身を包んで食事に勤しんでいる所だが普段着でのんびりしている。つまり、全てが後ろにズレている。そんな訳で台所では鼻歌混じりのセクリが朝食作りの真っ只中。
私服のアンナを見ていつも思うが洒落っ気が無く素朴過ぎる。服がアンナの可愛らしさに追い付いていない、足を引っ張っている。
もっと可愛らしい服を買った方がいいのかもしれないが、流石に娯楽で言い訳が思いつかない。そもそもどう誘えばいいのか……言い方を間違えたら傷つけてしまうかもしれない。「似合ってないから新しいのにしろ」って受け取られない言葉を考えないと──
「──お届け物です」
なんて考えているコンコンとノックの音と共に使用人長の通る声が耳に届く。
主を立たせる訳にはいかない、セクリは大事な料理中。動くべきは俺。
「はーい! 今行きます!」
前にも何か似たようなことあったような……と記憶を遡っていると手渡されたのは封蝋されている手紙。蝋の紋様は見た事あり、すぐに繋がった──
「アンナ! これって昇格試験のお知らせじゃないのか!?」
「昇格試験!? ちょうだいちょうだい! ──えっとなになに……」
のほほんとしていた表情に覇気が宿り、素早く俺の手からひったくるとビリビリと音を立てて開封される。今アンナのランクは『ブロンズ』。次来るのは勿論──
「本当だ! 『シルバーランク昇格試験のお知らせ』……だって! 謹慎なんてもらったからまだまだ先の話だと思ってたけど届くなんて……! え~と、内容は……」
──
拝啓 アンナ・クリスティナ様
汝は昇格試験を受けるに値する成果を達成したとみなし
『シルバーランク』への試験が開始されます。
~昇格条件~
『アルケミーバザール』にて売り上げ1位を達成すること
7月1日より試験は開始されます。
申請期日までに出店登録を行えば必ず出店できるように取り計らいます。
期間中のアルケミーバザールの開催月は7月、8月、10月、12月。
開催日は6日、18日、30日。
12月のみ24日に開催され、30日はありません。
出店申請期日は開催日の1週間前の月の日、12時までとなっています。
~注意事項~
競うのは出店した当日の売り上げのみ。
販売品については素材、調合品、個数、問わず自由。
販売方法も自由。
期間中何度参加しても良い。その内の1日最高売り上げを達成すること。
参加した当日の開始時刻から終了時刻までの金額が集計対象。
身内や使い魔が試験者の商品を購入しても金額は加算されないとする。
期間は990年12月24日のバザール終了時刻までとする。
──
「──だって。バザール? って2人は何か知ってる?」
「アルケミーバザール? 聞いた事ないな……言葉の響きから予想はできるけど……」
「ボクも仕事中に耳に届いたことはあるけど細かいことはぜんぜんかなぁ」
バザールというくらいだから店が並ぶというのが理解できる。試験内容としてそこにアンナが参加して何かを売るってことだろう。ただ一位なんてとれるもんなのか?
「なら詳しそうなのに聞いてみよう。という訳で──」
「私に声がかかった。という訳ですわね?」
「そーいうこと! ナーシャなら詳しいと思って」
呼んできたのはアンナの親友、ナーシャ・アロマリエ・フラワージュ。丁寧な言葉遣いと立ち振る舞いが様になっている優しい子だ。ただ、貴族だなんて話は聞いたことがないのでどう身に付けたかは謎だ・
彼女もアメノミカミの戦いでとても力を貸してくれたようで、俺も感謝している。
だが……その内容が余りにも容赦がなかった。防衛の為にミュージアムから人工太陽ソルのレプリカを強奪したということ。その話を聞かされた時、俺は彼女に足を向けて眠れないと敬意を感じてしまった。
「お声を掛けてくださって光栄ですわ。しかし……まぁ……これが試験の内容ですか……何といえば……あ、失礼しました。話を戻しまして……アルケミーバザールは簡単に言えば錬金術士が大々的に物を売るお祭り。ですわ!」
やっぱりそういうものなのか……でも随分と複雑な表情を浮かべている。困ったようなそんな。
「これが試験になるってことは何かあるのか?」
「どうでしょうね……抽選されること自体が難しいとされますが、申請すれば出店できるようですし一番の障害が無い以上大きな問題は無さそうですわ。それに売上一位が目標のようですが出店者やお客様の人数によって変動が激しいので酷い時は二万キラが最高という日もあったそうですわ」
「酷くても俺の月の給料越えてるやん……」
「流石に錬金術士の逸品珍品を販売する場所ですからね。バザールのある日は他国から足を運ぶ人も多いんですのよ。なので開催日程が固定化しているのです。基本偶数月ですが今年はアメノミカミが襲来しましたから、6月の分が7月にズレたということですね」
2、4、6、8、10、12の月の6、18、30日に開催されることが決定している訳だ。
ブロンズランクの時と比べると日程自体は半年近くある。開催回数は12回……チャンスは相当ある。あること尽くしだな。
「ひょっとしたらアメノミカミを倒した評価がすごくて試験が簡単になっちゃった。ってことはないかな?」
「それはないだろぉ──って素直に言い切れないな……ともあれ一度みんなで見に行ってみようか? 7月の6日にあるようだし、どんなのが売られてるか視察しないとな」
4月にも開催されてたみたいだけど、俺がこっちの世界に来た月だし本当に色々あったからなぁ……
「さんせい! ナーシャもいっしょに行く?」
「……え~と、そのご一緒したいのは山々なのですが、丁度その日は用事がありまして」
「あっ、ミュージアムの奉仕作業か……」
謹慎に加えてアルケミーミュージアムで一カ月の奉仕活動。誰よりも重い罰を与えられている。愚痴を零しそうなものなのにアンナから又聞きすることもない。人間の鑑かと思う。
「いえ、そちらはお休みをいただいているので問題ありません……いえ、そうではなく……すみません隠すつもりは無かったのですが、少し気まずくて……」
「? どういうこと?」
少し言い難いのか視線が分かりやすく視線が泳いでいる。一つ小さな深呼吸をすると覚悟を決めたようにまっすぐとアンナを見つめ。
「実はその日私も参加するんです。アルケミーバザールに──!」
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