第22話 思い出の一枚
6月25日 太陽の日 15時00分 撮影スタジオ
あれから何度も言葉を交わした。アメノミカミとどんな戦いをしたのか細やかに、俺が倒れた時の状態はアンナが話し、王城で決死の術式解除。ただ、アメノミカミを操っていた黒幕「メルファ・グランサージュ」については秘密のままだ。つい口走りそうになったところをレインさんに無理矢理止められた。
一通りの取材が終わった後といえば──
「そんなに緊張しないでください」
「は、はいっ!」
もちろん写真撮影が待っていた。
ブルーバックならぬホワイトバックな部屋で写真を撮られる俺。
表情はこれでいいのか? 体の向きはこれでいいのか? 目線は合ってるのか? 汗は出ていないか?
ただ立っているだけなのに喉が渇いていく。
撮影スタジオまであるなんて予想もしてなかったな……。
「はい完了です!」
「ふぃ~……」
フラッシュとシャッター音。終わりを告げるそれに安堵の溜息が深く漏れる。ほんの数枚だけでも俺には負担が大きすぎる……!
「はい、お疲れ様。お茶を用意しといたよ」
「ありがとな……ふぅ……慣れてないとはいえ撮影がこんなに疲れるものだとはな……世のモデルさんはすごいと実感するよ……」
まったく動いてないのに気疲れと緊張で頭が少しボーっとする。
「写真ってこんなに簡単にできるんだ。紙を吐き出してるみたいで何だかカワイイね」
撮った写真がすぐにプリントされる。いわゆるポラロイド、インスタントカメラという奴だ。ただまあカメラの外見は全然機械チックじゃなく、機能性よりも美術性と高めたファンタジー感が強い。
見ようによってはカワイイ……のか? ひょっとしたらこの一連の動作がカワイイのか?
「おおっ! テツがテツじゃないみたい!」
撮影に入る前に髪型や肌の色を調整する軽いメイクをしてもらった。正直言って生まれて初めてじゃないか? それに加えて光量や角度、結果としてイケメン度が増した俺の写真がそこにあった。アンナの言う通り本当に俺なのか……? と一瞬戸惑ってしまう出来栄えだ。
プロが本気を出して撮るとこうも変わるのか……映像のマジックだな……。
「いいのが撮れたな……よし! これは見出しに使うとしよう。後は破魔斧の写真も撮っておいた方がいいか……」
「あの! その前にもう一つワガママ言っていいですか?」
「何となく想像は付くが言ってみろ」
「アンナとセクリも加えて三人で写真を撮ってもらっても?」
「まったく……うちを写真屋か何かと勘違いしているんじゃないか? こちとら新聞屋だぞ」
呆れた口調に頭をかく仕草、流石にワガママが過ぎたか?
「やっぱりダメですか……」
でも、三人で写真を撮りたいと思ってしまった。
思い返せば自分の写真を撮るなんて全然やってなかったのに都合が良すぎる願いかもしれない。前の世界ではいつでもどこでもスマホでできたはずなのに。まぁ、単純に撮りたいのが無かっただけだが……。
でも今は違う。写真自体が貴重な世界だ次の機会がいつ来るかも分からない。心から信じられる仲間が傍にいる。どうしても写真に残したいと自然と湧いてきた。
「……いいから並びな。写真屋以上の撮ってやるよ。ただし1枚だけだ」
やったぜ!!
「ありがとうございます!! アンナ、セクリ! こっちに来い来い!」
「写真に撮られるのってそんなに気分が上がることなの?」
「楽しそうだからいいんじゃないかな? ボクも初めての経験だし気にはなってたんだ」
そういえばアンナもセクリも初めての経験になるのか。セクリにとっては封印されている間に作られた技術だろうし、アンナにとっては単純にカメラ自体を知る機会が無かったということだろう。
きっとこれはいい思い出の楔となる。当時をいつでも振り返れる大事な。
「……ライトニアに写真屋なんてあっただろうか……?」
そんなレインさんの呟きを耳にした後、ベストショットの為にあれやこれやと考え動く。
「アンナが真ん中なのは絶対だ。で左右に俺達がいる……そうこの立ち位置がベストだ」
「こういうのって何かポーズ決めた方がいいんじゃないの! こうビシっと!」
「絆の深さをアピールする為にもっと近寄った方がいいと思うよ!」
アンナが真ん中なのは全員異論がないにしても、ポーズの方向性で噛み合わない。
何度も見返すことになりそうだしこういうのって無難な方が良いと俺は思うんだが。
「俺としてはキリっとして誰に見せても──」
「主としては方向性を──」
「ボクとしては仲の良さを──」
譲りたいけど譲れない。最高を求める為ならば主にもささやかな抵抗も止む無し!
ワガママで通した一枚、おそらくこれ以上は本当に無理だろう。この世界のフィルム事情は分からないが、潤沢であるなら何十枚と何パターンと撮影して選ぶはずだ。だから一枚ですら貴重という考えは間違ってないはず、やり直しはありえない。
「今だな──」
意図しないフラッシュとシャッター音。
想像を
「「「あっ──」」」
俺達は揃ってゆっくりとカメラに視線が移動する。
カメラから新たな写真が吐き出されるのを見守ることしかできなくなってしまう。
「ちょっと、いい感じのポーズ考えてたのにぃ!」
「ふっ──これがお前達にはお似合いだよ」
アンナに渡される撮れ立ての写真。俺とセクリは覗き込むように見ると、そこに映っているのはカメラ目線なんて気にしてない俺達の姿。わちゃついてて統一感なんてない。でも──
「ふふっ、面白い写真」
「まったくだ……」
「わっ、本当にわたしが映ってる……!」
本当に楽しそうに笑ってる。
理想通りじゃなくても、想像以上の姿がそこにあった。この世界の思い出がまた一つ増えて、思わず胸が熱くなった。
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