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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第21話 分析結果

 俺は数え切れないぐらい人を見て取材を重ねてきた。英雄、悪人、落伍者、子供から老人、獣人、亜人思いつく限り全て。

 こうして目を見て言葉を交せば情報は手に入る。纏う空気、放つ匂い、口調、声質、目付き。全てがその人の成り立ちを表している。

 信頼に値すべきか、警戒すべきかも全て。

 俺が知りたかったのは神野鉄雄の精神性。降って来た力に溺れている人間の目は幼い。口から出る言葉は我を通そうと張る声が目立つ。そして何よりも臭い。本人の匂いをかき消すが如く血や酒や女、別の匂いが幾重にも重なっている。まるで空っぽの器を何でもいいから埋めようとするかの如く。

 この男については複数人の部下に調べさせていた。

 「未熟」「不安定」「生きた爆弾」端的にまとめればそんな事ばかり。戦場に立てる訳がない。

 多分嘘じゃあ無かったんだろう。アメノミカミと戦う前は本当にそんな言葉が似合う半端な男だったんだろう。

 だが、今目の前にいる男はそんな前評判とは繋がらない。

 普通の人間にしか見えないが目の奥、心の底にある信念。将来性が凄まじい。

 これまでの前評判は城が立つ前の整地作業に対して文句を言っていたようなもんだ。今の鉄雄からは何が出来上がるか分からない期待しか見えてこない。そして──


「俺は切り札を持っているんだぞ」


 というような揺るがぬ自信も感じられる。それは破魔斧レクスだけとは到底思えない別の何か。

 斧に依存しているような評価はもうできないだろう。例え斧が取り上げられたとしてもこの男は何かをしでかす。そんな姿が容易く想像できる程力が積み上がっている。

 この男の重要度は1月前と比べることはできなくなった。

 もしもの話で出なかった。いや、あえて口にしなかったのだろうな。

 2度目のアメノミカミ襲来。もしも鉄雄がいなかったら歴史が変わっていただろうな……俺も今この新聞社にいるか分からない。命を失っていた可能性もある。

 アメノミカミの襲来と鉄雄とレクスは無関係。鉄雄がいたからやってきた訳じゃない、6月9日にアメノミカミは必ずやって来る。

 あの戦いの流れは全てまとめてある。

 アメノミカミは複数体用意されていたこと、レイン・ローズの心が折れたことも。

 そして嬢ちゃん達が特効道具を完成させたおかげで撃退できた。

 ソレイユ・シャイナーも来てくれたようだが全てが終わってからだ。

 つまりは──


 神野鉄雄がいなければライトニア王国は終わっていた! 


 その成果を証明するかのように得た勲章は国防武勲章。鉄雄含めて5名しか受け取っていない、ただの強者には決して与えられない信の勲章──!

 紛れもない活躍、加えて隊長の尻拭いもしてくれた──

 そのはずなのにどうにもレインと鉄雄の間に壁があるというか……とても決死の覚悟で戦った部下にする空気じゃない。冗談で恋心に探りを入れたが浴室に虫の死骸を見たかのような嫌悪感を発するとは。何をしたんだ本当に……?

 何か俺達の知らないやり取りがあったのか?

 成果に対し強欲な褒美を求めたか? いや、玉座を交代しろ以外なら殆ど通ってもおかしくない成果だ。興味はあるが、本筋から大きくズレてしまう。


「あの、俺のワガママを聞いて貰ってもいいですかね? というよりこのワガママを通す為に取材を受けたと言っても過言じゃありません」

「……力になれることなら何でも構わないぞ」


 目の色が変わった、欲の欠片すらない純粋で真剣なものに。

 この男のワガママ。新聞に関係することだと思うが絶対に通すという圧を感じる。


「主であるアンナの父親。ロドニー・クリスティナさんの捜索願いも一緒に掲載してくれませんか?」

「……何?」

「この新聞は他国にも配布されます。つまりは俺達が直接探しに行かなくてもその国で発見報告が届くかもしれません」

「──あっ!!」


 隣に座る主は目を見開いてポカンと口を開けて心底驚いた想像で彼を見ている。

 都合の良い妄想だが、0では無い可能性。

 今回の仕事は神野鉄雄の偽物が現れたことで、その被害を広げない為の措置。「惨劇の斧」改め「破魔斧レクス」を鉄雄が所持しているのは他国も既知としているだろう。だが、姿形を100%認識しているとなると怪しい。カメラのように対象の姿を捉える道具は超高級品に加えてマジカリアが技術独占している。鍵となる素材がマジカリアにしかないのか錬金術で複製ができない。故に名前は知ってもが姿は知らないという現象が起きてしまう。

 他国で「神野鉄雄が問題を起こした」と広まれば、破魔斧もあり管理責任を問われるだろう。例え本人でなくとも、都合の良い偽の真実を人が求めてしまえばお終いだ。

 10年前はまさにそれが蔓延った結果だ。安心の為に皆が不確かな可能性に飛びついた。いや……言い訳だな、真実を見つけられなかった無力な俺のな……。


「俺としては構わない。が、ロドニー・クリスティナの捜索……それは確か調査部隊でも依頼されていた事案ではなかったか? 俺達が干渉することで調査部隊の仕事に泥を塗らないか?」

「そんな泥、アメノミカミ撃退で洗い流せる粗末事でしょう。俺はこれが一番正しく確実な方法だと信じてます。他人の顔をうかがって遠慮する気はありません。これ以上の案がでるなら引きますが」


 なるほど正論。調査部隊の探索力は過去と比べれば貧弱そのもの。10分の1以下まで隊員が減ったのが大きい。少数精鋭と言えば聞こえはいいが、広範囲の調査となると少数では負担や時間、そもそも機能しない。

 レインに視線を向けるが、彼女はそのことを理解しているのか悔しさを帯びた表情で口を噤んでいた。


「分かった載せよう。なら最近のロドニーの写真はあるか?」

「…………アンナ持ってる?」

「村にはしゃしん? って言うのを作る道具なんて無かったから……」

「どうしましょう……?」

「確か毎年「注目されてる錬金術士の卵」って内容でマテリアの取材をしてますよね? その中に昔とはいえロドニーさんの写真が残ってると思いますよ」

「探しておいてくれ」


 俺が言うまでもなく、部下が把握してくれて助かる。ただ問題は──


「ありがとうございますっ! ──あれ? でも15年近く前ですよね多分。今と姿が変わりすぎてるんじゃ……」

「話を聞く限りじゃそれが最新の写真になってるだろうな。卒業後行方をくらましたって話は俺にも届いているから、写真を撮る暇も無かったな」

「わたし絵はへたっぴだからなぁ~頭の中にしかお父さんの顔が残ってないや」


 面影は残っているだろうが、こればっかりはどうしようもない。幸いにも娘がいる。


「持って来ました。ロドニー・クリスティナさんの写真は……こちらですね」


 バインダーには新聞社を結成してからの歴代マテリアの錬金術士が数多くまとめられている。特に腕利きの者なら枚数も多くなる。ソレイユ・シャイナー以降は目を引くような者もおらず惰性で続けている所はあったが、こういう事態の為にも続けていくべきだろうな。

 何せ力のある錬金術士ほど外の世界へ旅立っていくのだからな。


「これがお父さん……! 確かにお父さんだ! でも記憶の中のお父さんと比べるとなんだか軽そう」

「親になると自然としっかりと地に足を付くようになるんだよ。しかしまあちゃんと父と認識できるならそれでいこう」

「…………」


 数枚ある写真の中で笑顔で親指を立ててポーズを決めている写真を見つめている。

 ああ、なるほど──


「──あの、焼き増しや複製ってできませんか? 折角なんでアンナにロドニーさんの写真を持たせたいんですけど」

「ああ、構わないよ」

「えっ!? そんなこともできるの!? やった! ありがとうございます!」


 俺も気付いていたが、鉄雄も気付いていた。彼女が写真を欲しがっていることに。

 そこにすかさず焼き増しを提案するとは。当たり前に知っていたなこの男。それに彼女の笑顔を見て心底嬉しそうにする様子……。

 分かってはいたが、この男はアンナ・クリスティナの敬虔な信徒と言っても過言じゃない。使い魔契約を行うと主に対して強い庇護欲を得るというが、そんな甘いものじゃない強い念を感じる。この娘の為なら悪魔にでも魂を売りかねない。

 アメノミカミと死闘を繰り広げた経験が自信にも繋がっているのだろう。奴と渡り合える者はまずいない、それも長時間……! 強さで言えばこのレインに次ぐ実力者に仕上がってる可能性もある。

 アンナが手綱を握っている間なら安心できるだろう。しかし、その綱が外れてしまった場合が想像つかない。恐らくこの男は「惨劇の斧」を握っている時よりも強くなっているのだから。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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