第19話 初めての取材
~調査メモ~
新聞社や出版社がマテリア寮を監視する姿を見かける。テツオ達の情報を探っていると推測される。
彼等に見つからないように動くのも面倒だ……
6月25日 太陽の日 13時00分 ライト新聞社
「ここが王都で唯一の新聞社、『ライト新聞社』だ。騎士団との繋がりも太くてね、情報の共有だけじゃなくて手配書の発行もここで依頼しているんだよ」
王都の南通りに位置する新聞社、周りと比べても大きく四階建てもあり、山の字の段差ができてしまっている。
「普段読んでる新聞もここで作られてるのかぁ……」
「王都の外にも新聞社はあるけど、王都の中ではここの新聞ぐらいしか利用されてない。話は通してあるから行こうか。なるべく早い方がいい」
観音開きの扉を開くと受付を尻目に仕事に勤しむ人の姿が映る。
紙の山に埋もれていたり、大きなタイプライターみたいな機械に、古めかしい印刷機。パソコンに打ち込んでどうこうする。なんて要素は感じられない。レトロというか始まりの技術だと思う。
「わぁ~ここがしんぶんしゃって所なんだ! 紙の匂いがすごい……!」
「あっ! 今日読んだのと同じのがある! 本当にここで作ってるんだ……感動的だね」
「断る理由が無いにしてもどうしてアンナちゃん達を連れて来たんだい?」
「ちょっとしたワガママを通させてもらうためです。こんな機会滅多な事じゃやってこないと思うので」
レインさんはピンと来た表情を浮かべてくれる。俺の目標を理解しているなら想像に容易いだろう。
単純明快、ロドニーさんの捜索に一役買ってもらう為だ。
「多少のワガママも安いもんだ、国民が気にしてる英雄様の顔や言葉、それを記事にできるってんならな」
「あなたは?」
恰幅の良い髭も髪も白いのが目立つおじさん。新聞社の人だろうけど圧というか立ち振る舞いが王様に近いのを感じる。
「これは失礼。俺は新聞社社長、カーメル・シャットだ。以後よろしく。世間を騒がせる英雄様の記事を作れるとありゃあ断る理由はないわな」
「よろしくお願いします」
俺達は頭を下げて挨拶する。まさか社長さんだとは……通りでまるで自分の庭みたいに馴染んでるわけだ。
「新人の経験値上げもしたいところだが、お上の依頼もあるから俺が取材をやらしてもらうぜ。こっちへ来な。──おい! カメラの用意をしといてくれ!」
「はい! すぐに!」
そんなわけで二階の個室に案内された俺達はソファーに座り紙とペンを持ったシャットさんと向き合うことになる。
本当に取材が始まるかと思うと、望んでいた身であっても緊張が止まらないし喉が渇いていく。用意された紅茶を飲んでも味が分からない。
「まずはそうだな……名前からだな」
「神野鉄雄、です」
「異世界人なだけあってこっちじゃ聞かない響きだな。確か家名の位置も違うんじゃなかったか?」
「神野が家名、鉄雄が名前です」
「へぇ、やっぱりそうか。ちなみにどこからやってきたんだ?」
「日本という国からです」
「ニホン……ああ、日本か。聞いた事があるねえ。過去にやってきた異世界人も日本から来たのもいたぜ」
「それって本当なの!?」
異世界人がいた。そんな話は競売所で聞いたことがある。けど、本人には出会ったことがない。同じ異世界人である俺に会いに来てもおかしくないのに一切そんなことなかった。
そもそも、今日まで過ごしてきて「○○が異世界人だよ」なんてこと耳にしたことない。
「今その人はこの国にいるんですか!?」
「確かにこの国もいた。が、この国を後にしてからはどうしてるかはサッパリだ……それよりも、あんたの国の字で名前を書いてくれねえか? 確か漢字ってのを使ってるんだろ? でも俺は疎くてなぁ」
「構いませんよ……と」
「これでカミノテツオか……中々渋い雰囲気持ってるじゃないか。普段は世界言語か漢字のどっちで書いてるんだ?」
「世界言語ですね。全員が分かるのに合わせないといけないんで」
「違いねえ。さて、いい感じ温まって来ただろうしここからが本題だな。記者として読者が1番聞きたいことを聞くのが役目だからな」
ゴクリと喉が鳴る。確かにさっきよりも緊張は薄くなって話やすくなってきた。何というか見た目と違って気の良い声で話してて楽だ。
聞き心地が良いだけじゃない、会話のキャッチボールがしやすい。
秘密にしているような事も口に出してしまわないか心配になるなこれ。
「──恋人や意中の相手はいるのか?」
「……へ?」
「おいおい呆気に取られすぎだぜ? 何時の時代英雄の恋話なんて性別問わず子供から老人まで話の種になるんだ。ここは外せないだろ?」
本気か冗談か分からないけど、多分本気だ。
しかし……
「なんというか申し訳ないけど、いない、です……はい」
「……いやいや、そんな──まさか」
俺の言葉が嘘じゃないのを察したのか、視線が動いてレインさんに向けられた。
「嘘ではないと思う。英雄だと呼ばれ始めたのはアメノミカミの戦いが完全に終わった後。人々が盛り上がっている時、その間テツオは殆ど動けなかったはずだ」
「騎士団の中にいるんじゃないのか? レインさんあなたは──」
「冗談も選べ」
「これは失礼……真面目に調査部隊で縁がありそうなのはキャミル・スロースだろうがどうなんだい?」
普通にキャミルさんの名前が出て来た事に驚きが隠せなかった。
記者にとってはこれが当たり前ってことなのか!?
「……キャミルさんは立派な師だと思ってますよ。あの人に魔術の基礎を徹底的に教えてもらったんですから。恋とか愛は無いですけど尊敬している人なのは確かです」
「真面目だねぇ……じゃあそっちの2人はどうなんだ?」
「俺の身近にいる人全てに色恋を疑うのは流石にどうかと思いますよ……」
「それもそう──」
「恋愛とかで括れるものじゃないでしょうに。アンナは大切な存在。それに嘘偽りはありません。使い魔だからじゃない、首の鎖が消えたとしてもアンナの夢を手伝うつもりです。これを愛と呼ぶならそれで構いませんよ」
「おっ、おう……!」
これは恋心じゃない。アンナには笑顔でいてほしいし、夢を叶えてほしい。
世界中の全てがアンナの敵になることがあっても最後まで隣にいる役目は奪わせない。
「聞いてるこっちが照れるんだけど……!」
「じゃあこっちの美人のメイドさんは?」
「美人だなんてそんな……!」
「難しいな……」
「むずかしい!?」
ホムンクルスで両性具有、確かに美人で一緒にいて穏やかな気持ちになる相手。
けど、それだけで解決するような間柄じゃない。
「セクリも大事だけど、なんというか同じアンナに仕える者としてライバル心があるというか……」
負けられない気持ちも嘘じゃない。家事全般で完敗しているしお世話になってる身だけど、それ以外で負けられない、護衛にしろ採取にしろ、役に立ちたい気持ちで後輩に負ける訳にはいかない。
俺達は大事な仲間だけどどこか競い合ってる部分がある。
でも、だからこそ一つの安心感がある。それは俺がどうなったとしてもアンナと一緒にいてくれる信用できる存在がいるということ。
任せられるから無茶ができる。アンナには話せない秘密だけど、セクリのおかげで選択肢が増えているのは事実だ。
「中々面白い関係じゃねえか! まあ、何となくそんな相手がいないのは分かっちゃいたけどな。英雄と呼ばれる前からあんたのことは何度か調べてた。新人にマテリア寮の監視をさせてな」
「とんだ新人研修だな……」
「事件が見つかれば騎士団に売れる。そして信頼も得られるって寸法よ。さて、次といこうか。ここから大事な内容になっていくから構えてくれ」
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