第21話 初めてのダンジョン
4月14日 火の日 9時20分 ニアート村
ヴィント森林区域をさらに東に進んだ先、山道を登って到着したそこは木々に覆われた小さな村が見えてきた。ダンジョンがあるという村の割にのどかな雰囲気に包まれている。
山間部にできている村だからだろうか? 石畳で舗装されている道などなく地面が剥き出しで、王都で見かけたような大きな建物は一軒も無い。家も石造りではなく木材を組み上げて完成させたものばかり。言うなれば技術力が届いていない。
けれど、自然と共存しているような村の造りに感動を覚えてしまう。
「ここがニアート村……王都から離れるにつれて田舎の光景が強まってくるんだな」
「わたしの村とそんなに変わらない広さだ、この自然の音でいっぱいな……あれ? なんだか騒がしいような」
「ん? ……本当だあっちから聞こえてくる」
やけに声が響く。それにこれは祭りのような賑やかで温かい声質じゃない。声の種類は思わず身を縮こませてしまいそうな大人達の怒号と悲しみに暮れたような金切り声。いい予感がまるでしない声というやつだ。
「ダンジョンに行ってしまったんだわ!? 急いで探しに向かわないと! あぁ……なんでっ!!」
「落ち着きなされ! 応援の文書は送った、あんたらが向かった所で犠牲者が増えるだけじゃ!」
「間に合わないわ! こんな村に騎士が来てくれるわけがない!」
「止めたって無駄だぜ俺は行く! 息子を助けに行かねえと!」
「あの子たちが……! 私達の子が……」
「見張りは何をやっていたのよ!! 仕事サボってるんじゃないよ!!」
閉じた門の前で騒ぎが起きている。奥に行かないように立ち塞がりなだめる大人と鬼気迫った表情で詰め寄り押し通ろうとする大人達。
この空気に騒ぎ、相当な出来事が起きたとみてよさそうだ。それにダンジョンという言葉も飛んでいた。閉じられた門。もしかしたらあの奥がダンジョンに続いているんじゃないか? しかもそこで何かが起きた?
「なんか嫌な予感がビシビシとしてくるんだが……割り込みたくないな……」
「あの様子じゃ話を聞かせてもらえなさそう。誰か話ができそうな人は…………」
俺達は余所者、あんな昂った状態の人達と会話をするのは相当難しそうだ。
全員の言葉の槍が向けられているのは鎧を身に纏った人。あの鎧は王都でも時折見た事ある。前の世界で言う警察みたいな印象が強かった。
あの人が何か失敗でもしたのだろうか?
「あ、あの人なんてよさそう。すいませ~ん!」
離れた位置で我関せずと言った様子で眺めている男。自分には関係ないという空気が漂い表情にも呆れが見える。確かに冷静に会話ができそうだ。
「あぁん? 何だあんた達、旅の人?」
「そんなところ。何だか大変な様子だけどこの村でいったい何が起きたの?」
「どうやら立ち入り禁止にされてたダンジョンに子供らが入ったみたいでさ、戻って来てないときたもんだ。どうせ度胸試しとかそんなだろうな。子供の怖いもの知らずには困ったもんよ」
「助けには行けないんですか?」
「無理だ無理、ダンジョンを甘くみちゃいけねえ。俺も興味本位で入ったはいいけど、入口近くの部屋でビビッて逃げちまったよ。やべえのが住み着いてるはアレ。討伐部隊がこないとどうしようねえな。その討伐部隊にしろ編成やらなんやらで時間がかかって結局は……」
どうやらこの人は無関係なのだろう。軽々しい口調で冷静に状況を見据えている。
確かマルコフ先生も言っていた。ダンジョンはアトリエの成れの果てだと。生半可な準備で挑めば入場料は命となってしまうと。
「子供達が消えたのはいつ?」
「ん? なんだ嬢ちゃん……って、何か見覚えあるかと思えばその制服はマテリアの!?」
「いいから答えて」
普段と違う優しさの欠片も無い冷たい感情のこもった言葉。俺の心にも届くような小さな怒りの熱。手にも握り拳が作られ、これから何を言おうとしているのか理解できてしまった。
「あ、ああ。状況的に深夜だ。全員寝静まって見張りも消える、その時にこっそりだろうな」
「大体9時間はたってる……場所はどこ?」
「あの門の先だが……まさか本気か!?」
「本当に行く気なんだな?」
「行く。行くに決まってる! もともとそのダンジョンには行く予定だった。それに子供を見つけ出すお仕事が増えただけ。最高の錬金術士を目指すならやってのけないと!」
「……なら俺はそれに従うのみだ。けど、俺達は挑戦者だってことを忘れたらダメだ。俺達も同じ轍を踏みかねない」
気軽なダンジョン探索になると思っていた。実力を試す良い試金石になると思っていた。危なくなったらすぐに撤退を視野に入れられる探索だと思っていた。
けれど、『救出』という任務が追加された瞬間に口には出せないが恐怖と責任が心の奥底で湧いてくる。
何が出てくるかわからない未知のダンジョン。帰って来ない子供達。「間に合わない」「もう亡くなっている」頭にどうしても浮かんでしまうこれらは何があっても口に出せない。吐いた言葉は現実になりかねないから。
「それぐらいわかってるって。門は通れなさそうだから外に出て大回りに森を抜けて行くよ!」
生きていることを信じて疑っていない瞳と態度。眩しすぎるその姿に何時からか捨ててしまった勇気や信じる心の有無の差を見せつけられてしまう。
アンナに抱くのは間違っていながら嫉妬に似た複雑な心境を胸に後を付いて行くしかなかった。
「おいおい本気かよ……あの2人に任せてもいいのかよ? けど錬金術には錬金術士をぶつけるのが正しいのか?」
騒ぎの目に気付かれないようにこっそりと村を囲う塀を回り込んで移動し、村人達がいる門の反対側に出ることができた。門越しながらまだ騒いでいる声が聞こえてくる。
「お父さんやお母さんとこのまま離ればなれになるなんて間違ってる……!」
「アンナ……?」
「後はここをまっすぐ……行くよ!」
覚悟めいた言葉。自身の正義感に沿って出た言葉とはまるで違う。何が何でもやり遂げるような執念めいた感情がこもっていた。
まさか自分の命を掛けてでも見ず知らずの子供を助けようとはしないよな? 俺を助けるぐらいの聖女であることは間違いないが。最悪の事態は想定し助けられるようにしなければならない。
そのための力を無理矢理にでも引き出す場面が来るかもしれない。腰に備え付けた黒斧に自然と手が伸びてしまう。恐れずに使い方を聞いておくべきだったか?
不安を抱えながら林道に入り進むこと数分。目的の場所へと到達した。
「あからさまに不自然だな……どうやって作り上げたんだ? 中から飛び出てきた感じだな」
植物が生い茂った山の岩壁から人工的に作られた石造りの通路が不自然に飛び出ている。その四角形の入り口から踏み入れることを躊躇させる異質な雰囲気が漂ってくる。あの村人が言っていたことが肌で感じる。
脇にはどうやら侵入を禁ずることが記された看板が立てられているが、入口自体に通行を遮断する物は何も無い。命知らずや危険予知が無い者はもちろん誰でも入れてしまう杜撰な門である。
けれど、普通だったらすぐに退く。恐れこそが門の鍵だろう。
「早速入るよ。テツはあの黒い斧手に持っていて。何かあってから取り出すと遅くなるかもしれないから」
「分かった。そういえば、村の人達には何も言わなくて良かったのか? あの人が伝えるとは限らないし」
「こういうのは隠れて裏でやるのがかっこいいの。感謝されたくてやる訳じゃないからこれでいい」
恰好を付けて余裕なことを言葉にしているが、僅かなながらに震えた声、聞き逃す訳が無い。
恐らくだけど、伝えておいて失敗したら残った希望が完全に消えてしまうからだろう。だが言及する気なんてない。逆に言えば逃げても咎める人がいないことにもなる。
俺はアンナのしたいことを完遂させたい。子供達を助けてダンジョンを攻略してハッピーエンドで終わらせたい。けれど、全てが都合よく動くなんてまずありえない。
俺は俺が絶対にすべき信念の為に動く。それが例えアンナの気持ちを裏切ることになろうとも。
4月14日 火の日 9時50分 ニアート村のダンジョン
胸に大きな覚悟を宿して初めてのダンジョンに踏み入れる二人。
「おお……! これがダンジョンなのか? 明るいし、床も壁もレンガ模様。どうなってるんだ!?」
「すごい……! 山の中に造られてるなんて到底考えられない!」
状況が状況でも夢にまでみたダンジョン。崇高な想いがあれども興奮を隠すことはできなかった。目に映る光景は好奇心を刺激することを止めなかった。
王宮の玄関のように歓迎するのは声が反響するほど何もない大部屋。
外と同じくらい中は明るく、床も壁も目立つ凸凹もなく綺麗に整えられ職人が磨いたと思えるほど。
「本当に不思議……灯りは多分寮の部屋にも使われてるのと同じ『魔光石』だ。壁や床も自動的に整えられる道具で造り上げたんじゃ……」
「なるほどなぁ、でもこれだとランタンとか持ち歩く必要も無いな。それにここまで綺麗だと危険があってもすぐにわかりそうだな」
「たしかにそうだね。通路の先も良く見えるし、静かだし、これなら何かあったらすぐにわかりそう……」
二人の判断は正しく部屋から続く通路の先も広く明るい。障害物も無く異音もしない。危険が現れたとしても真っ白な雪原の中、真っ黒な獣が遠くから攻めて来るようなもの。
間違ってない判断だと客観的に見てもそう思える。けれど拭いきれない不安が肌に張り付いて来ていた。誰もいないのに誰かに見られている。誰もいないのに生きた気配を肌に感じる。
(子供達は何で帰って来れなかったんだ? この広い部屋に明るい道……危険なんてすぐ気付き……いや、安全だと思って奥に進みすぎたのか?)
ただ奥に行きすぎて帰って来られてないだけなのか、危険な何かに襲われたのか、罠にかかってしまったのか。今はただ想像することしかできない。
「でも気を緩めすぎないでよ。わたしは地図を描きながら進むからいざとなったら守ってよ!」
「その道具はまさかマッピングか! 流石にそこまで気が回らなかったな……」
画板、定規、ペンを鞄からとりだし今いる部屋の形を記録していく。
それらは落ちないよう画板と紐で繋がっている工夫も施されダンジョン用に調整されていたことが一目で分かる特別仕様。
(正直やってみたい……)
誰も踏み入れたことの無いダンジョン。どの本にも載っていない、透明な存在。二人の冒険譚が始まりの一筆となり景色を描いていく。
そんな新雪に最初の足跡を作る感覚、鉄雄が興奮しない訳がなかった。
「用意するのはわたしの役目なんだから気にしなくていいって。……ここを出口としてっと。進む道は1つ。よし、先に進むよ!」
簡単に形を描き、注釈も付け加えて最初のマッピングを終える。その後は鞄にしまい杖を片手に持ち直し不測の脅威に備える。
鉄雄が先頭に立ち、その一歩後ろをアンナが進む。
歩む速度はゆっくりに、見るもの全て、響く音全てに疑問を持ち脳に記憶するように心がけ、警戒を全面に押し出す。
「ん? 天上にツタ? 外から侵食したのか?」
そしてブレーンストーミングのように怪しいと思ったことを素直に口にだす。何が脅威に繋がるか分からない。情報の共有こそが生き残りに繋がる一手だと知っている。
目に留まったのは歩む通路の天井に根のように張り付いたツタ。明らかな変化に足を止めて観察する。
「何言ってるの? もしそうだったらさっきの部屋にも生えてないとおかし……っ!」
「どうし――?」
「かまえてっ!!」
緩みかけていた空気を引き締めるが如く吠えた。聞いたことの無い声色に鉄雄は一瞬強張り動きが止まってしまう。
擦る音が激流の如き勢いで通路の先から響き渡る。視界に映るのは幾本もの太い縄。いや、植物のツルが床を這いずりながら波打ち獣のような速さで伸びてくる。
目の良さで脅威を確認できても逃げる暇も、対応する間も無くアンナに絡みついた。
「はやいっ!?」
「アンナッ!?」
目の前に蔓延る幾本ものツル。これまでの人生で見た事の無い異質な光景。自分は無視され、隣にいた大事な主だけが脅威に襲われる。「何故自分ではないのか?」と焦りと疑問が恐怖を煽り、汗が吹き出し心臓が握り絞められる。
腕、腰、脇、肩、太ももと複数部位に巻き付き、先の見えぬ果てまで牽引しようとツルがピンと張った。
しかし、そこで止まった。その場からアンナが移動することは無かった。
「ぐぬぬぬぬぅっ……! テツ! 今のうちに、切り裂いて!! 何でもいいからっ! 長く持たない……!」
巻き付くまでのほんの一瞬の間に足の位置や体勢を調整し、自身の有利な状況を作りその場に踏みとどまった。細腕であっても人間とは違う筋肉密度。しなやかで頑強な足腰。鍛え抜かれた肉体はツルの引き戻す力と完全に釣り合っていた。ただ、奥から伸びる援軍。次は無い──
(行けるか? いや! やるしかない!)
混乱しかけた意識の中、主人からの明確な命令に忠実な使い魔の動きが遂行なされた。
素早く上段に構え黒き斧をギターの弦のように並んだツル目掛けて、床に叩きつける勢いで振り下ろす。
黒き一閃は一度も斧を振り下ろしたことの無い鉄雄の動きであっても、たわむことなく抵抗の欠片も無く綺麗な断面を作り別れた。
「うわっ、とと!! 助かった! ってまた来た!?」
体が急に自由になったことで大きく崩れる体勢。安堵する暇も与えられず迫り来る次弾を回避することは不可能だとすぐに悟ってしまう。
(どうする!? 全部切り落とせばいいのか? 無理だ!?)
増えたツル。時間差、変幻自在の軌道。目で追いきれない。狙って切り落とすことは不可能だと理解させられた。諦めたくなくてもどうしようもない現実が目の前にあった。
二人の頭に『失敗』の文字が浮かぶ。
しかし、片方には啓示とも呼べる新たな言葉が響いた。
(前に構えるのじゃ)
「こうか!?」
頭に響いた言葉に疑問を持つことなく素直に斧を前に向けると。刃から黒い霧があふれ出し通路を埋めるように目の前に壁を作る。それに触れたツル達は刺激物に触れたかのような反射行動で通路の上下左右の壁にぶつかることを厭わずに大きく距離を取った。
「何だこれ……? いや、これまさか……」
(最も使い処が多くなる技だの。まずはこれに慣れるとよい)
脅威を簡単に退ける黒い霧。安堵と同時に疑問が浮かぶもそれはすぐに結びついた。忘れられない転移をした運命の日に自身の身を包んだものと同じ存在。
霧は流されることなく鉄雄達の前に広がり敷き詰められ停滞すると、ツル達は突入を不可能と理解したのか諦めて通路の奥へと引き下がっていった。
「これってもしかして魔力を奪う効果のある霧……?」
「みたいだ……しかも、夢の中でないのにあの少女の声が聞こえて、助けてくれた」
「そうなんだ、はぁ……びっくりした。でも、魔術みたいなこともできるようになるんだ」
脅威も消え去り、自分達を救った目の前の現象に恐る恐ると手を伸ばすと、初めて斧の刃に触れた時と同じ指先から力や熱が抜き取られるような感覚に陥り、すぐに引き戻す。
「この霧全部が奪う力を持ってるなんて……それに見て、霧の近くの魔光石が暗くなってる」
魔光石は名の通り魔力を糧に発光している石。大気中や地中、空間に存在する魔力が得られなければただの石と化す。霧により魔力の道が防がれたことで自然と光量が減ったということ。
「はぁ……何とか助かったな。まさかここまでの力を持ってるなんて思いもしなかった」
「斧の出番があるとは思ってたけどこんなに早くとは思わなかった。まだまだ未熟……」
用意していたものが全て役に立つことが無かった。届く前に鞄からフェルダンを出せていれば? 刃物系の武器を装備していれば? そもそも注意力が足りていないのでは? 反省するべきことはいくらでも湧いてくる。
幸運とも言えるのは失敗した経験を手にして生きていること。最悪、失敗してそれでお終いという可能性も高かった。
「……先に巻き付いたのを取ったらどうだ」
「へっ? あ、忘れかけてた」
服に食い込んで縛り付いているツタ達。少女が拘束されている状況に背徳感を湧き上がってしまいそうになっていた。
「結構しっかり結んできてる……手が届かないし片手じゃ無理そうだから手伝って」
「任された。それにしてもここまでがっちりと捉えて来るなんて植物というよりタコやイカみたいだな……」
(たこ? いか?)
両手を広げて背中を見せると、白いマントごとだったり器用に隙間を通って巻かれたツルもあった。
成人男性の親指以上の太さで身体にピチっと密着し細身の体でも食い込む精密性。
触れて分かる軟体生物のように弾性に優れ、表面は滑らかな樹皮。もはやツルというより触手に近い。
「思ったとおり斧はすごい力を秘めてた。この力があればダンジョン探索がかなり安全に進めるはず! それと、さっきので1つ思ったことがあるの」
「何かに気付いたのか?」
「あのツル達はテツを狙わなかった。でもわたしを正確に狙ってこれた。植物に目や耳や鼻は無い。なら多分、魔力を感知してると思う」
「そういえば……理由があるのか?」
「お父さんが言ってたこと思い出したんだけど、発見したてダンジョンには生物は存在しないの。いるのは魔力生命体の『マナ・モンスター』だけ。それらは長い間封じられた反動からか魔力をとても求めてるって」
「要は魔力に飢えている。だから、アンナだけを狙った! 俺には魔力が無いから!」
「あと、マナ・モンスターは魔力で形を作られた粘土みたいな存在だけど、長い時間をかけて存在を頑丈にして1つの生物に進化することもあるって。多分この植物はそういうことだと思う……」
「なるほど……確かに植物らしかぬ動きに、アンナ狙い。普通の生物とは違うってことか……」
『マナ・モンスター』は魔力で形作られた人形。魔力でできた皮と中身、不安定故に強度は人間に劣る。しかし、長い年月をかけて魔力を貯め込むと身体は徐々に安定し一つの生命体として存在を確立する。
本来の固体よりも能力が格段に上昇したことに加え、初めに与えられた命令を無視して行動が可能となり自己を手に入れてしまう。
「でもこれで1つ安心できることがわかったよ。襲ってきたのが動物じゃなくて植物ということは子供達はまだ無事かもしれない」
「どういうことだ?」
「あのツルの行く先が仮に生物を食べる固体としても、植物は動物と違って消化にすごい時間がかかる。生まれがマナ・モンスターなら、栄養よりも魔力を欲するのが自然なはず」
「つまりは食べるよりも捕えて継続的に魔力を吸収しているってことなのか?」
「多分だけど期待していいと思う。でも、子供の魔力量はわたしよりも少ないから急がないと」
死んだ生物からは魔力は生み出されない。反応があったとしてもそれは残留していた魔力だけ。生かして手元に置いておけば欲しいときの取れる保存食となる。ただ、無限に溢れるものではない。いずれは枯れてしまう泉。
生きている希望。生きたい渇望。
それらは時間によって削られていく。
(この斧の力をもっと引き出すことができればこの先何が待ち受けていていても……)
突入して十分足らずで全滅しかけた不甲斐なさは記憶に新しい。鉄雄の手に握られている斧が無ければ突破はできなかった。
自然と握る力が強くなり夢で言われたことが現実となっていた。この場にいる存在理由を考え気が重くなり表情が沈んでしまう。
(んっ……? これは切れたツルだよね……)
アンナはふと視線に入った自身を捕えたツルの1本を拾って弄る。見落としそうな些細な違和感。興味を持ったのは捕えた部分では無く千切れた欠片も無い断面。
余りにも綺麗に切られていた、鉄雄の無茶苦茶な振り方では到底作れない矛盾したもの。
(どうやったらこんな風に切れるの? 魔力を奪う以外にも何か特別な力があるんじゃ?)
錆びたように黒く輝きの無い刃。優男な鉄雄の腕。どんな奇跡があったとしても切断に至ることは無い。もしもその奇跡を作り上げたのなら斧の持つ技能。
夢のような可能性に思わず顔が綻ぶ。
(あの斧の力をもっと引き出してくれたらこの先何が待ち受けていていても……)
不安と期待。実力不足を埋めるは未知の力。
その力がもたらすのは希望かそれとも。




