第14話 使い魔の心中
6月24日 月の日 21時00分 客室
「ふぅ……美味しい料理に綺麗な風呂、それに俺の部屋よりも広いぞここ」
「宿泊用の部屋があるなんて驚きだよね。アンナちゃんの実家がこんなに広くて立派なんて思わなかったなぁ」
「実家、とはまた違うのかもしれないが。クリスティナ家が貴族というのははっきりと刻み込まれたな」
用意されたパジャマに着替えて同じ部屋で休むことになった俺とセクリ。
見上げれば魔光石のシャンデリア、布団もふかふかでふわふわ。着ているパジャマも肌触りが良くてこのまま持って帰りたいぐらいだ。
「使用人の人数は6人いてシャルルさんが使用人長だって。これぐらいのお家の広さだと普通なのかな?」
「俺も貴族のお家事情については知らないけど、掃除は行き届いてるし庭も綺麗だったから問題無いんじゃないか?」
従えている使用人の人数が貴族のステータス。というのも聞いた事があるがそれがこっちでも通じるかは不明だ。
「それと大事なのは料理! 台所も見せてもらったけど冷蔵庫もこ~んなに大きいし、包丁だって魔力を通すと温度を変化できるのがあったよ! 広さは寮の食堂よりも狭いけど設備自体は全然劣ってなかった! 料理のし甲斐がありそう!」
「あれだけ美味しいのにはそういう土台がしっかりしてるからか……」
「後ねクリスティナ家のお料理レシピも教えてもらったから、アンナちゃんにもお家の味を楽しんでもらえるよ」
「うん、それは良いことだ。家庭の味って生きてきた証の一つだからな」
ロドニーさんが食べて来たであろう料理をアンナも食べる。多分だけどロドニーさんが家庭の味をアンナには伝えられてないと思う。ここの環境は料理の役目は使用人と割り切ってそうだし、俺自身家庭の味を再現しろと言われても到底無理だからだ。
父親と言えばこの家では挨拶すべき人がもう一人いる。
「なあ、セクリはリドリーさんに出会ったか?」
「サリーちゃんのお父様だよね? ううん、色々部屋を回ったけど見てないよ」
「挨拶をしといた方がいいと思うんだけど……何か妙な雰囲気だったな。夕食の席にもいなかったし、最初の挨拶でも見なかった。おまけにそのことについて誰も言及しなかった。いないことが当たり前なのか?」
「お仕事で別の場所に行ってるんじゃないのかな? ロドニーさんが行方不明な今、次期当主はリドリーさんだと思うから色々と大変だと思うよ?」
「まあ普通に考えればそうだよな」
仄暗い考えが浮かんでしまうのは羨ましさからくる汚点探しだろう。
俺が人生をループできたとしても到底手に入れることが不可能な豪邸、見た目だけじゃなく中身も立派。料理も美味い。客人を泊める部屋すらある。
何かしらの欠点が無いと可愛げが無いということだ。まぁ……醜い嫉妬が本音だがな。
「せっかく錬金術が成功したんだからまず真っ先にお父さんに伝えに行くんじゃないかな? でもサリーちゃんが話に行った様子も無かったし、もし聞こえてたらアンナちゃんに何か言うんじゃないかな?」
「子供が大きく成長した感動の場面を見逃してしまった訳だ。いや、俺達が見逃させてしまったと言った方が正しいかもな。ある意味では悪い事したなぁ……」
できないことができるようになる。分かりやすい子供の成長。感動しない親がいるだろうか? いやいない。お祝いしたくなるだろう。
「成功した証拠は2人が持ってるんだから大丈夫。これからどんどん成長していく姿が見られていくんだから今見逃しても次がどんどん来るって!」
彼女は今日錬金術の才能に目覚めて二つの作品を完成させた。テリー君の「おしゃぶり」にハリーさんの「四点杖」。
ハリーさんに渡した時、彼女は何か言われるか不安そうだったけど。本当に何も言われなかった。多分頭の中で色々せめぎ合って言葉が見つからなかったのだと思う。俺があんなことを言ったおかげで、非難する言葉を言えば成功の波を消してしまうんじゃないかと感じてしまったのかもしれない。
ただまあ、態度で示すことにしたのか杖を突いて歩くことにしたみたいだ。
「アンナのおかげでこの家の空気も良くなった気がするし、未来が変わるってこういうことなのかもしれないな」
「アンナちゃんは本当にすごいよね……今日初めてあったばかりなのにあそこまで心をさらけ出して触れ合うことができるなんて。おかげで錬金術を成功に導けたと言えるよね」
「俺もそう思う。でも何というか……ちょっと、いやかなり妬けるな……あそこまでアンナの寵愛を受けるなんて。こんな感情湧くこと自体が間違ってるけど。血の繋がりがある親戚に会えたことが本当に嬉しかったんだろうな」
少しは家族代わりに成れたんじゃないか? という想いもあったけど、都合の良い自惚れだった。全然遠いし勘違いだと理解させられた。
見せる表情も何もかもが違う。今日に至るまで見た事なかった。外も中も違う。同じ顔を俺達に見せる状況が想像できない。
「もう何言ってるの! ──なんて、ボクも言えないんだよねぇ……同じこと考えてた……」
俺達にとってここは外野。血の繋がりも無ければ、知り合いの繋がりもない。異世界人の俺と最近封印から目覚めたセクリ。クリスティナ家との縁は何があっても蜘蛛の糸程の太さも結ばれることは無い。
分かっちゃいるけど寂しくある。
「……アンナは今お父さんの部屋で何を想っているのかねぇ……」
ここはもうアンナにとって帰れる場所になってる。ロドニーさんの部屋を使う許しも出てアンナはそこで今晩を過ごす。
立派な父親の部屋というのは子供にとっては聖地みたいなもんだろうな。
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