第11話 本当の顔
「お爺さんに必要な物を作ればいいと思うけどわたしはぜんぜん知らないからなぁ~。サリーは何か気になることある?」
「お爺様は最近歩く時壁に手をかけるところが多かったり、シャルルさんに手を貸してもらってる姿をよく見かけてるから使いやすい杖がいいと思うんだ。でも……お爺様また怒ったりしないかな?」
「だいじょーぶ、テツも言ってたでしょ先にテリーに渡されて寂しいんだって。サリーが作りたいと思ったのが1番正しいことだから。これからドンドンいろんなのを作って、いつかはお爺さんの腰を抜かせばいいって! そして杖無しじゃ歩けないようにするの!」
「そこまではしなくてもいいかなぁ……でもそうだよね。作りたいものを作っていけばいつかはお爺さんにも褒められる錬金術士になれるよね?」
「もちろん! サリーはお姉ちゃんより沢山勉強してきたんだから、ぐんぐん成長できるって!」
出会った時と比べて心の距離がグンと近くなっている二人。成功体験がその絆を確固たるものにしたに違いない。
それに、委縮して「調合をしたくない」と口に出してなくて本当に良かった。アンナの姉としての支えもあって前を向いてくれているようでホッとした。
ハリーさん道化と辱めた甲斐があったものだ。俺は凄まじく好感度を下げただろうけど安い対価だ。
ああでもしないとアンナとサリーちゃんが仲良く調合する絵は見ることはできなさそうだし。
「俺達も見学させてもらっていいかな?」
「テツにセクリ。それにテリーも!」
何を作るのかで俺達の存在には気付いて無かったようだ。
それにしてもここがクリスティナ家のアトリエか……マテリア寮のアトリエも立派だと思ったけど、貴族の個人宅に設けてあるとなると、際限なく個人の我儘詰め合わせでこうも広く立派にできるものなのか……!
人間的には尊敬し辛いがハリーさんは確かに職人と言える人なのだろう。今も前線に立っているかは知らないがこの部屋は今も確かに生きている。
「こんなに見られたら緊張します……!」
「へーきへーき! 1回成功したなら次はもっと簡単だって!」
ここに来たのは俺の我儘半分。余計なプレッシャーを与えに来てしまっているかもしれない。庭にでも出て時間を潰すべきか?
っと足の向きを変えようと思ったが、俺よりも強烈なプレッシャー放ちキラキラとした瞳で見つめる子がいる。
おしゃぶりしっかりと咥えたまま、視線はお姉ちゃんのサリーちゃんをしっかりと捉えている。
「あー! むー!」
「おっとと! そんなに暴れないでねぇ~今見やすい体勢に変えるからねぇ」
「テリーがこんなに食いついて来るなんて初めてかも……私が積木とかパズルで遊ぼうとしてもすぐそっぽ向くのに」
「子供は気配に敏感だからなぁ。お姉ちゃんが楽しそうなのを感じて興味津々になったんじゃないか?」
「──そうなのかな?」
照れた笑顔で身体をモジモジさせている。こういう顔で笑うんだな。とても初めて見た時と同じ子だとは思えないぐらいだ。
「私もご一緒させて頂きます」
「シャルルさんまで!?」
「ええ、私はご主人様の目の代わりにやってきました。本当にできるのかどうか確認するためです」
「何よそれ? サリーを信用していないってこと?」
「喜ばしいことですがサリー様は昨日までまったくできなかった。無条件で信じるのは呆けた愚者だけです」
「まあ、落ち着くんだアンナ。流石に夢物語みたいな嬉しい話をすぐに信じるのは難しい。ちゃんと現実だと理解らせるのも大事なことだ」
空気が悪くなるのはほんっとうに避けたい。
シャルルさんの言葉を超好意的に訳すならこういうことだ。めでたい話は裏があると疑ってかかるのが人間の心理。そこを解きほぐしていくのが大事だ。
アンナがサリーちゃんに入れ込み過ぎて視界や狭まっている。無意味な争いに発展する前に鎮火するのが俺の役割でもある。
「なるほどね……確かに夕食が好物だった時は目の前にでてくるまで疑うからそういうことね」
「ああ、そういうことだ」
面倒だからそういうことにしておこう。
「それじゃあテリーはお姉ちゃんといっしょにみましょ~ね~」
「むーっ」
伸ばした両手を拒否するようにセクリの服掴んでる。
笑っちゃいけないんだろうけど顔がニヤケてしまう。分かりやすく落ち込むアンナの顔に困ったセクリの顔。半日も経ってないのに随分と懐かれたものだと尊敬もしてしまう。
俺もアンナも油断したら赤ちゃんにされかねないから当然と言えば当然だが。
そんなうちの使用人とは違って隣のシャルルさんはまるで隙が無い、磨かれた刀のように視線が鋭い。この人は先程のやり取りもバッチリと見ている。だからこんなにも瞳も気配も殺気だっているのだろうか?
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