第9話 そんな大層なものじゃない
「必要な素材は『ミントーン』『ニガヨモギ』『アロエール』『自然水』後は……『クロウメロンの根』を粉にして使おっか」
「レシピ通りに作らないんですか? 本来なら『クロウメロン』じゃなくて『ハチミツ』ですよ? 素材なら保管されてるはずだと──」
「ううん、これでいいの。今回作る『キュアクリーム』に『ハチミツ』は使わない方がいいと思ってね」
素材に傷みは無い、ミントーンもニガヨモギもいい感じに乾燥してる。アロエールは使い所が多いだけあって鉢で大きく育ってる。うん、割合は大体全部1で問題なさそう
それにしても本当に色々と素材が沢山あって目移りしそう。それに製粉機もあるから処理も楽。ここなら理想的に何でも作れそう。
使う錬金釜は小型、錬金液も入れた。そして、粉も挽き終わったからこれで下準備は完了。
「じゃあさっそく調合始めよっか? こっちに来て」
さっき言った通りサリーを覆うようにわたしもいっしょに調合棒を持つ。素材も手が届く位置にある。よし──!
「本当にこれで上手く行くんですか? レシピ通りでもないですし──」
「集中して、始めるよ」
フットパネルを操作して釜に火をかける。火力の調節は送る空気の量とわたしの注ぐ魔力に影響される。ここは錬金術の腕前は関係無い、料理器具もこんな感じだから。
「まずはミントーンとニガヨモギと投入。ゆっくりとかき混ぜる。この時、広げるんじゃなくて内側に集めるように」
調合棒の投入位置と角度で集中と拡散ができる。外側に刺して縦にすれば集中、中心に刺して斜めにしてかき混ぜれば拡散。大体はこれでできる。
釜に投入する部分に羽を付けると勢いが上がるけど調節が難しくなる。人によっては片側に羽を付けたり太さや長さの違う複数本を持って調合するのもあるみたい。
「続いて自然水を少量ずつ流し込んでいく。1度に沢山入れると釜の温度が下がるから注意ね、あと素材を追加投入した時に集束したのがバラバラになることが多いから注意して」
荒々しくいっきに入れると急激に反応してガスが発生したり、最悪爆発することもある。投入順番を間違えても爆発することもある。
この順番は本にも載ってたりするけど、オリジナルで作る場合は本当に「なんとなく」の世界。知識で悪性良性反応は予想できるけど投入素材の数と順番によっては判断できない。1つ前では安全だと証明されてても2つ前が悪さを引き起こすかもしれない。
うん、これを説明しろって言っても無理だ。
「沸騰し始めたらアロエールを投入。上げ続けないように温度管理はしっかりとね……泡の大きさだったり熱気で判断すれば──」
「……温度計で分かりますよ」
サリーの視線の先には細長い棒と丸いメーターが合体した道具があった。
えっ? あれを釜に刺せば温度が分かるの? そんな便利な道具があるの? 温度計の存在は知ってるけど村で1回壊してから使うの止めたんだけど、釜の火力に対応できて細かく測れるようなすごいのがあるの?
「…………お姉ちゃんも今度からソレ使おっかな」
王都は違うんだなぁ……お父さんも教えてくれなかったからお父さんがいない間に作られたのかな?
何で誰も教えてくれなかったんだろう……。みんな当たり前に使ってるってことなのかな?
「気をとりなおして。このままバラつかせないように回転速度を少し上げて、色に変化が見えてきたら最後のクロウメロンの粉を中心にゆっくりと投入。少しずつ回転速度を落としていって……琥珀色になったら──」
釜におたまを入れてすくい上げて容器に入れる!
「完成!」
後は蓋をしてっと。うん、完璧!
「すごい……! 本当にできてる……! わぁ……」
驚いた顔に興味深そうな顔で特製の『キュアクリーム』をじっくりと観察してくれている。
これなら姉としての信頼は取り戻せそう!
「後は発現してる技能の確認を忘れたらダメだよ。え~と……『傷を癒す』『解毒』『美容効果』の3つ。効果はそこまで高くないと思うけど上出来かな?」
「本当に錬金術士だったんですね……!」
「信じてもらえて何より。はい、じゃあコレあげるね」
「え──」
「がんばるのはいいけど、自分の身体も大事にしないとね?」
「まさか私の為に!?」
「もっちろん! 寝る前に手に塗っておけばキレイに元通りになってくと思うよ。それに、テリーに使ってもだいじょうぶだから」
これは昔お父さんが作ってくれたのと同じ物。なんでもわたしは赤ちゃんの頃から色々動き回る子だったらしく切り傷もよくあってそれでよく作って塗ってくれたみたい。
このお家にいるならテリーにそんな心配はなさそうだけど、サリーの手はキレイにしてあげたい。念のため塗った後にテリーに触ってもだいじょうぶなようにハチミツは抜いておいた。
「ありがとうございます……でも、肝心な感覚はまだ曖昧なんです。私も同じように作ったことはあるんですけど、一体何が違うのか……それにお姉様は完成することが当たり前みたいに調合していて」
「そうだよ、完成しか見えて無いよ。あっ、もしかしてそこも原因の1つなのかもしれないね。サリーには迷いがあるから完成までまとまらないのかも」
理想的な完成品になるかどうか。そんな不安は今でもあるけど「できない」と考える事はいつの間にかどこかに行ってしまった。できるけど「届かない」は今も感じることは多い。これは腕を磨いていくしかない。
わたしも失敗していた時があった……でも、1回成功してからは無茶な調合をしなければ安定して成功していった。その最初の1回は確か──
「だとしたらどうすれば……? 1度も成功したことないのに完成を信じて作るなんて無理ですよ……」
「お姉ちゃんは作りたい物しか作れない!」
「え?」
「わたしは作ってる時にね完成した道具あげたら笑って使ってくれるかな? って考えてるの。そうするとね何だかドキドキしてワクワクして。よ~しやるぞ~! って気持ちがドンドン湧いて来るんだぁ。だからサリーに1番必要なのは誰に何かを作ってあげたいって気持ちだと思う」
お父さんがケガしないようにありがたそうな鉱石や花を集めて調合したお守りだった。忘れるわけがない。1枚のプレートになって花が化石みたいに埋まってたのを覚えてる。
そして、お父さんが異常に驚いて喜んでてお母さんが「お父さんだけズルい」と言ったのも覚えてる。
「そんな単純な気持ちでいいんですか!? 錬金術はもっと崇高で気高きもので選ばれた者しか扱えないような──」
「錬金術はただの手段だよ、誰かを笑顔にしたいって気持ちを形作ってくれるね。そうやって作ってるとほんっとうに楽しいんだ! ここはああした方がいいかな。とか、こうすればもっと使いやすいじゃないか。って! いくらでもその人のことを考えられる。わたしの気持ちがそのまま形になっていくのが面白いんだ」
テツのため『マナ・ボトル』を作ってる時も本当に大変だったけど本当に楽しかった。
本気で作った道具を今も大切に使ってくれてるのを見ると嬉しくもなる。
「あの、その……実は私、作ってあげたい物があるんだ。でも、それは錬金術で作っていいかわからなくて……話したらお爺様にも怒られそうで」
「作りたい物があって、あげたい人がいるなら止まる必要なんてないよ! お姉ちゃんがなんでも手伝ってあげるから!」
「えっとね──」
なるほど、これはなかなか面白いね。初めて錬金術を見たテツを思い出す品物だよ。
それに今のサリーの顔ならだいじょうぶそう。お姉ちゃんはサポートに集中させてもらおうかな?
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