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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第7話 クリスティナのアトリエ

「ここがアトリエ……お父さんもここで勉強していたのかなぁ」


 どれもサイズの違う立派な錬金釜、フラスコや試験管も沢山あるし、粉砕機や分離機といった純化器具も金属を溶かす大きなるつぼだって置いてある。

 お父さんが生まれて育った家。この国の建物には慣れたと思ったけど村で3人で過ごした家と比べると見た目も高さも比べられないぐらいに大きい……。

 でも、このアトリエの形を見ると(うち)のアトリエと似ている。広さは違うけど物の配置がそっくり。新しく建てる時にここを思い出して造ったのかな?

 お父さんと過ごした日々は短いけど、お父さんを思い出させる物はいくらでもある。フラスコも手を滑らして割ったこともあった、釜の火力を上げ過ぎて2人して煙に巻き込まれたことも。


「お姉ちゃん、ぼーっとしてどうかしましたか? 気になる物でもありました?」

「うん。沢山あったよ。お父さんがここで調合してたと思ったら色々と考えちゃって。気を取り直してそれじゃあさっそく──」


 1目見た時から気になっていた1本の錬金棒。まるで吸い寄せられるように手が伸びた。


「あ! 待ってお姉さ、ちゃん! その棒は使っちゃダメ!」

「わっとと!!? え、何か危ないものだったりするの?」

「お爺様がそれは使っちゃいけないって。こっちが私用の調合棒です」


 綺麗に整列して立て掛けられていた調合棒、使い込まれて年季が入った物、わたしが手にしようとしたのは同じくらいに使い込まれた物、埃が付いているけど新しい物、そしてサリーが持ってる年月もあまり経ってない新しい物。


「もしかして、家族みんなのがあるの?」

「……ちょっと違います。お爺様は言わなかったけど、多分それはロドニー伯父様の調合棒だと思います。これはお父様の、これはお爺様が使っているのを見た事があります」


 どおりで手を伸ばしてしまったわけだ……だってお父さんがここで使っていた調合棒だから。

 だとしたらここでお父さんはどんな風に調合してたのかな? お爺さんに教えてもらいながら釜をかき混ぜてたのかな? 村でわたしがお父さんに教えてもらいながら釜をかき混ぜてたみたいに。

 村でお父さんが使っていたのは今は私が使ってる。持ってくれば良かったかな? 今と昔のお父さんが出会うみたいでなんだか心がワクワクする。

 となると使い込まれた棒はお爺さんの、残る1本埃が被っているのがサリーのお父さんの棒ってことだよね?


「お父様は錬金術の才能に恵まれなくて……前に1度錬金術を教えてもらおうとしたらとても怒られて、今はもう錬金術の話はできません」


 わたしの思ったことに答えてもらったけど、これは言わせちゃダメなことだった。お姉ちゃんとして失敗だ。


「じゃあお姉ちゃんに何でも聞いてね! 何でも答えるから! サリーは錬金術ができないって話みたいだけど。どんなところで困ってるの?」

「何が分からないのか分からないんです……」

「えぇ……──」


 少し気軽な空気に変えようと思ったけど、サリーのこの顔は見覚えがあった。焦りと追い込まれたような顔。競売所で見たテツと同じだ。

 何かがきっかけで想像もつかない最悪に転げ落ちるかもしれないそんな危うさがある。


「……お爺様に何度も教えてもらってもできる気がしないんです。必要な素材、撹拌速度、温度、細かく注意しても調合ができない。お爺様も最初の方は優しかったけど今は冷たい視線しか向けてくれない、錬金術士にならないと目を会わせてくれない。お父さんは錬金術士を恨んでる。私はどうしたらいいのか分からないんです……」


 それにサリーの手……これも知ってる。努力している人の手。お父さんもそうだったし村で鉱山を掘ってる人も魔獣と戦う人もこんな手だった。その手を優しく握るとこんなにボロボロになってがんばっているのが伝わってくる。わたしの方が長く錬金術をやっているけどまだそんな手にはなってない。わたしよりも小さいのによくここまで。

 考えたくはないけど、お爺さんやリドリーさんがここまで追い詰めたということ。そうじゃないと……1日、1週間程度でこの手はできっこない。


「だいじょうぶ。サリーがどんな道を進んでも、お姉ちゃんは手を握りつづけるから。もちろんテリーもね。2人共大事な妹で弟だから」

「今日初めて会ったばかりなのに……どうしてそんなことを言えるんですか?」

「わたしはねずっと兄妹が欲しかったんだ──」


 2人に会ってからお父さんとお母さんといっしょだった時のことを思い出した。小さい頃、他の子に兄弟がいることが羨ましくてどうしてわたしにはどっちもいないのかお父さんに聞いたことを──



「おとうさん、おかあさん、どうしてわたしにはおとーとといもーとがいないの?」

「中々難しいことを聞いてくるお年頃になったな……まあなぁ、アンナが生まれる事自体も奇跡みたいな確率だろうしな。いくら俺達が頑張ってもできるかどうかも分からん。なるようにしかならないな」


 「何言ってるの」とお母さんにバシンと叩かれるお父さん。


「で、でも大丈夫だ! 俺には弟が一人いてな。そいつならきっとアンナの弟や妹に会わせてくれる」

「そうなの?」

「俺の弟の子供だ、きっといい子に違いない! だから、もしも会う事があったら沢山可愛がってあげてくれ」

「あなたが家を出て大分経ってるよね? ひょっとしたら……アンナの姉か兄がいるんじゃないの?」

「……それは考えて無かったな。はっはっは!」


 大きく笑うお父さんと呆れて笑うお母さん。

 ちゃんと覚えている。そして、夢みたいな話が今日現実になった。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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