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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第四章 夢指す羅針盤を目指して
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第5話 超えるべき壁

 ソレイユ・シャイナー。彼女は10年前アメノミカミ襲撃において太陽を作り上げ雨を晴らした英雄。最近の第二次アメノミカミ襲撃においては俺の命を救ってくれた恩人でもある。

 そんな英雄であり恩人が、何の因果か俺達の隣の部屋に引っ越して来た。

 アンナは知らないが正直言って俺は彼女と顔を合わせるのは厳しい所がある。


「ソレイユさ~ん! 今いいですか?」

「あっ! いらっしゃ~い! 来ると思ってたよ。まだ引っ越したてで片付いてないけどどうぞ入って」

「おじゃましま~す」


 寮なのだから部屋の形は同じ。だけれども、置かれている荷物の毛色は生徒とは全く違う。冒険土産であろう工芸品が飾れていたり、お酒のボトルが置いてあったりする。


「本当だったらレインの部屋に住む予定だったんだけど断られちゃってね、ダメもとでマテリア寮にお願いしてみたら入寮できたんだ」

「何が「本当は」だ。ソレイユの私物や釜が置かれたら私の寝床が無くなるだけじゃ済まなくなるだろう。この部屋の惨状を見てよくそんなことを言えたものだ」


 確かに荷物が多い。アトリエ部分は整理されているが他はまだ木箱詰めにされた何かが塔のように積まれていたりする。


「えへへ、それを言われると弱いなぁ……そもそも錬金術士向けの集合住宅が無いのがよくないんだよ。ここも部屋が沢山空いてるから特例で許可が下りたんだ。あっそうそう、あたしも前はこの寮に住んでてね、その時はアンナちゃんの部屋があたしの部屋だったんだ」

「へぇ~、そんな偶然もあったんですね」

「あっ、うん……」

「テツオも来てたのか……」


 ご覧の通り、俺は二人からから警戒されている。ほんの少し前に無実だと分かっていながら問い詰めた影響がモロに出ている。結局アメノミカミ襲撃の犯人の正体はソレイユさんの師匠だって事実は限られた騎士の中で留まり、俺が思っていた状況にはならなそうである。

 必要なことだと想定して行ったことでも実際はビンタのされ損である。同じ日に二発受けることも無かったと今更後悔してももう遅いのだ。

 この二名はこの国で最上位に位置する女性。大陸最強の騎士レイン・ローズ、太陽の錬金術士ソレイユ・シャイナー。

 加えて仕事の上司と寮でのお隣さん。何とも気まずいと来たものだ……。


「あの、今日ここに来たのは人を探すのに適した錬金道具があるって聞いてきたんです。それの作り方を教えてください!」

「うん確かにあるけど……レインから聞いたのかな? 秘密にしていた訳じゃないけど誰かに話した覚えも無いんだよねぇ」

「それに関してはレクスに聞きました。コアを保管している部屋での会話を全部聞いていたので」

「ああ、斧の中に霊魂がいるからそれで盗み聞きしていたってことなんだ」


 俺に向けての言葉が分かりやすくとげとげしくて泣きそう。


「隠す必要も無いし折角だから用意するね。と言ってももう設置してあるんだけど」

「あれ? でも、今も何か置いてあるけどいいんですか?」


 大きな球体方位磁石みたいな装置には古ぼけた杖が置いてあり、居場所を示すであろう針は真上を指したまま動く気配が無い。


「誰かさんが師匠が犯人だと証明しちゃったからね。気休めだけどお墓にあった師匠愛用の杖を置いていつ来ても大丈夫なようにしているんだ」

「ということは……探したい人が大事にしている物が必要ってことですか?」

「うん。もしくは血だったり髪みたいな本人の一部でもいいけどね。確実にその人の物なら精度は上がるはずだよ。物と人との繋がりを辿って居場所を探る道具なんだ」


 なるほど……アメノミカミの時は。コアをここに置いて、それと繋がりのある人間。つまりは操縦者を探ったということ。


「でも今は真上を指してますけど、メルファ、さんは上にいるってことですか?」

「……索敵範囲外だと上を向くの。あたしの腕がもっと良かったら師匠の方を指してるんだけどね……」


 これもう何言ってもダメだな! 悪い方向にしか行きそうにない。


「そうなんだぁ。でも、空の上に拠点を作って隠れてることは無いんですか? ほら、すごい錬金術士なら空も簡単に飛べるんじゃ?」

「う~ん……いくらなんでも難しいんじゃないかな? 飛行船で浮いているとしても姿を完全に隠すことなんてできないだろうし、錬金術をするなら相当な設備が必要になるから広さもあって目立つと思うよ」

「ひこうせん?」

「この世界にも飛行船があるんですか? 船の上部に気嚢を取り付けて浮いてる形ですかね?」

「まあそんな形だな。ライトニアにも飛行船の造船所がある。そもそも国を作るには空高くに座する天空城に向かう必要があるんだ。だから、統治国家には飛行船を有していることが当たり前になっている」

「へぇ~……空を飛ぶ乗り物かぁ……あれ? そんなに便利そうなのでもこっちに来てから見てないような……」

「安定して定期的に使うには必要な物がまだまだ多いんだ。危険な地上を進む必要がないから研究には意欲的と言っても、作る為の素材は地上で集める必要があるからね」


 こっちの世界の事情は勉強していくうちに分かってきている。

 魔力を持ち、武器を有した人間よりも圧倒的に強い魔獣の存在が開拓が遅れている原因らしい。仮に鉄道を作ろうとしても魔獣の縄張りを横切れば破壊や妨害というリスクが付き纏う。討伐するにしても魔獣によっては被害の方が多い可能性もある。それはレインさんという強者が一人いた所で解決しない問題でもある。

 そんな訳で食料も自国で生産し賄う必要がある。輸入に頼ることはできない。他国から確かに行商人が来ることはあるが、国を支えるには焼け石に水。個人の嗜好品が良い程度。

 飛行船の存在は知らなかったけど、空の移動が当たり前になれば父親捜しも……。


「──そうだ! 閃いたぞ!」

「いきなり何を!?」

「そのモノ探し装置を利用して現時点でアンナの親父さんを探す最高の方法が!」

「これ? でも作ったアタシが言うのも何だけど持ち運びには向かないよ?」

「問題ない。飛行船に取り付ければ超広範囲を探索しながら移動できる! 運搬の心配がなくなるのは勿論。山道や荒地、魔獣も無視して安心安全に旅行感覚で捜索できる! おまけに見つけたらそのまま空の便で優雅に帰って来れるときた!」

「おお! すごいよテツ!」


 我ながら完璧と言えるだろう! ロドニーさん一部でも愛用品でも手に入れば1年以内に見つけられるんじゃないか? いやもっと短く済む可能性もある。障害の無い空の移動は前の世界でも優秀極まりない。


「確かに完璧だが……不可能という点について見逃せばだな」

「え!?」

「探知範囲は大体半径1km、飛行船の大体の高度は500mぐらい。範囲も2300㎡ぐらいに下がるよ」

「それに、統治国家の上を飛行船で移動しようとすると領空侵犯となって罰則や国際問題に発展しかねない。先に届け出を提出して許可が下りて初めて渡航できるのが決まりだ。許可を得るにも信用信頼されてないといけない。王族であっても簡単に飛行船で向かうのはできない。平民じゃ許可すらおりない」

「燃料と整備も大変だよね? 国が保有しているのを借りようとしたらどれくらいお金がかかるのかな? 騎士団の給料1年分で1国往復できるかどうかかな?」

「……これが完全論破か」


 真っ白な灰となって壁に背を預ける。アイデアは悪くないと負け惜しみをするが、課題があまりにも多すぎた。やっぱりそう都合よく上手く行くわけがないよな……。


「やっぱりこの探知機を超強化したのを調合するしかないんだ……」

「だからはい。これが『ソウルチェイサー』のレシピだよ」

「え? いいの!? ──じゃなくて。いいんですか?」

「故郷を救ってくれたお礼。なんかじゃなくて、同じ錬金術士なんだから助け合わないとね!」


 でも、最初の目的は達成できたようでよかった。アンナも安心したような……ん? 何か思案顔をしているが気になる事でもあるのだろうか?


「あの、ソレイユさんがこのソウルチェイサーを作り直すってことは無いんですか? わたしが改めて作るよりもソレイユさんが作った方が良い物が完成するような……」

「それは難しいと思うなぁ……あたし一人で世界を巡って完成させた最高傑作がコレなんだ。だから、今のあたしの中にはコレを越えられる創造力が無いんだ。それにね、人工太陽ソルの修復だったりソル改良版のレシピの作成だったりで新しくどうこうする余裕が無さそうなんだ」

「そうなんですか……」


 俺はまだソレイユさんの凄さを知らない。アンナが言うには本当に凄いらしい。俺が気絶して死にかけた時に色々してくれた。豊富な錬金道具に状況判断力。何よりこの人がいれば大丈夫という安心感があったらしい。

 そして、自分じゃ到底届かないとも。


「だから、アンナちゃんにはあたしを越えて欲しいな」

「えっ!?」


 軽い口調で放ったその言葉に瞳に、冗談は感じられなかった。


「あたしは一人でこの子を作った。でも、だからここまでで止まったのかもしれない。あなたなら頼りになる仲間もいそうだからきっと上手くいく。その繋がりだけはあたしも沢山作れなかったから」

「そんなのむ──」

「やってみせるよなアンナ! 超えて良いなんてお許しが出たんだ、最高の錬金術士を目指すなら分かりやすい目標じゃないかこれは!」


 超えなきゃ夢は叶わない。

 使い魔なら期待して当然だ。それに、俺も応援席に立つだけじゃない。力を貸すに決まっている。

 「無理」なんて言葉は言わせたくない。


「……うん! がんばってみる!」


 今はまだ不安が多くても、成長する未来がいくらでもある。日を重ねて月を跨げば同じことを言われても自信を持って応えられる時が必ず来ると俺は信じている。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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