第4話 父の片割れ
ナディアさんの許可を貰い、従弟のテリー君をとろけた満面の笑みで大事に抱っこするアンナ。こんなに幸せそうな顔は見た事あっただろうか?
「わぁ……こんなに柔らかいんだぁ……よしよ~し、お姉ちゃんだよぉ~かわいいねぇ~!」
嫌がられて泣くかと思ったが、全然そんなことはなくされるがままになっている。お母さんが近くにいるからか不安は無さそうだ。それに、アンナのブレの無い安定感のある抱え方に安心感を覚えているのかもしれない。
「あぅ……! だう……あ……!」
「ん? 手を伸ばしてどしたの~?」
何か気になることでもあるのか身体を揺らしながら小さな手を上に向かって伸ばしている。
身体を立たせるように抱くと、テリー君は──
「だっ!」
「あう……」
「あっ!」
アンナの顔を支えにしながら、アンナのチャームポイントである左側頭部に生えている角を握り締めた。
思わず俺も、セクリも、サリーちゃんも、ディアナさんも、目が点になって事の成り行きを見守るしかなかった。無理矢理剥がすべきなのか、赤ん坊のすることに慌てるべきではないのか。開いた手は伸ばす事も引っ込める事もできず宙ぶらりんとなる。
当の赤ん坊は気にせず楽しそうに握り締めている。
「ア、アンナ! だ、大丈夫なのか?」
「ん? へーきへーき。オーガの村では赤ちゃんが大人の角を握ると健康に育つっておまじないがあるの。この子もわたしの角を握ったから元気に成長してくれるね」
大人? という疑問は飲み込んで。テリー君がマスクみたいになってるけど気にしてない様子で良かった。デリケートな部分かと思ってたけど別にそうでもないのか……。まあ、思い起こせばヤスリで削って整えているから痛みとかはないんだろう。
「そろそろ話を戻してもいいだろうか?」
「──あっ、そうだった! サリーに錬金術を教えないといけないんだった! はい、セクリ。わたしの可愛い弟なんだから大事に抱いてね?」
「大丈夫。ボクはこういうことをするために生まれたんだから!」
「よろしくね~! じゃ、お姉ちゃんにアトリエを案内して! 手取り足取り教えてあげるから」
「あっはい。こっちです──」
セクリの胸に半分埋もれているテリー君。どっちが手を引いているか分からないまま廊下に駆け出していったアンナとサリーちゃん。ホッと一息ついているナディアさん。
そして、一人完全に蚊帳の外にいたハリーさん。
アンナという嵐が過ぎ去った今、ようやく部屋に平穏が訪れた。
「……差し支えなければ今後についての話を俺からさせてもらっていいでしょうか?」
「……ワシはアンナや君の事を様々な報告で知っておる。我が息子ロドニーについて何かあるのか?」
アンナの目標であり夢は「父親との再会」。アンナ曰く村を襲って来たドラゴンを退ける為、ロドニーさんは転移の錬金道具を使ってドラゴンと一緒に別の場所に転移した。
何年も経った今でも帰って来てないことから、怪我で動けなくなったか、遠く離れた地で孤立してしまったかのどちらかかと推測できる。
亡くなっているという言葉は口にしてはいけない。アンナが生きていると信じている限り俺も信じている。
「話が早くて助かります。本日はご挨拶だけでなくあなたにお願いがあって参りました」
「願いだと?」
「はい、ロドニーさん捜索に当たって必要不可欠な物がありまして。ここならばあると思い足を運びました」
「ほう……どうやら確固たる計画が出来ているようだな。ただのんびりと学園生活を楽しんでいる訳ではないようで何よりだ」
一言多いなこの人……。
「それは確実にロドニーさんの物です。強く魔力が込められた物でも、髪や身体の一部でも構いません。ロドニーさんの分身と言えるような物はありませんか?」
「……なるほど、探索道具で見つけるための指標となる物が必要という訳か。ワシもそれは考えたがどのような道具なのだ?」
「ソレイユ・シャイナーさんより『ソウルチェイサー』と呼ばれる置いた物体と同一の存在を魂レベルで判別し発見する道具です。レシピは頂いておりまして、完成後必要なる物を先に確保しておこうと思った次第です」
「太陽の錬金術士、ソレイユ・シャイナーのレシピか……シャルル。ワシの保管庫にある物を持ってまいれ」
「かしこまりました」
どうやら絶対に必要な物の当ては期待してよさそうだ。ここ以外にありそうなのはアンナがいたオーガの村だけど、アンナが言うには殆どがアンナの物になってしまったから期待できないという状況。ここで見つからなかった場合、彼の足跡を辿るような途方の無い探索が始まりかねない。幸先が良さそうで安心した。
先に片割れとも言える物を見つけておかないと完成させたときに「ありません」じゃ意味が無いからな。
それに、ロドニーさんを探すことに関しては乗り気なようで安心した。今回以外にも協力してもらえることもあるかもしれないからな。頼れると判断しても良さそうだ。
「レシピを頂いたと言ったが、口振りからして現時点でもその道具は存在しているのではないか? ソレイユより借り受けて使用することは叶わないのか?」
「はい、それについても彼女と話をしました──」
流石に俺でも思いつくことをこの人が気付かない訳ないよな。
ここに来る前にソレイユさんに出会い、話したことを説明するのが一番。あれはそう、ほんの数日前の話だ──
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