第102話 敗北者?
6月?日 ???
王都の問題も解決し、背後で糸を操っていた者が判明した頃。
暴かれた彼女達も今後の事を話していた。
「あいつの暗殺も失敗して今は治療中か、流石は獄炎の獅子と言った所か……短い時間でどでかい傷を負わせるとは良い腕してんな」
「文句のつけようの無い敗北としか言えないな。ミクという大事な人形で間者は失い、管理室の操作盤は破棄されただろう。なにより私の名前も広まったとみて間違いない」
「──の割には随分とごきげんじゃあねえか。総統……いやメルファ殿?」
玉座の如く上等で高等な椅子に腰を掛け、笑みを浮かべるその姿。今回の戦いの敗者には似つかわしくない清々しいもの。
「できる手を全部打った上での敗北は気分がいいものだ。次の課題が良く見える。あの男がミクの刻印を取り除き暗殺が失敗した時点で敗北は決まっていた。魔核を破壊する手段を取っていれば暗殺が失敗しても五分五分と言ったところだろうが……まさか無き前例を覆すとは想定外と素直に褒めるしかないね」
干渉できなくなれば残りはミクリアの心次第。
自分を見捨てる言葉を口にし、刃を向けようとした王の守護者。
自分の中に眠るメルファの手掛かりにしか興味なく、未来も魔核も消えても構わないと願った大陸最強の騎士。
自爆魔術が止められたとしても、自分を助ける気が無い人間に心を開くとは有り得ないと確信した。
けれど、鉄雄が本当の意味で助けてしまった。身体も心も。
「あのミクとやらは殺さなくていいのか? 某が斬りに行っても構わないが?」
「名前が知られた時点で殺す必要は薄い。それに私達が殺しに行かなくても、国が彼女を殺す。あの国は腐っているからね。無実の彼女であっても正義に駆られた愚者が無意味な制裁を加えに行くだろうさ」
「俺も行った事があるがそこまで酷い国にゃあ見えなかったがな。まぁ、あんたがそこまで言うぐらいだから中にいた者と余所者じゃ全然違うんだろうな」
ライトニア王国に訪れた観光客や商人は便利な道具や新技術に目を輝かせ、次来る日を考えると言われている。
だが、負の部分は徹底的に隠されているのも現実。観光客はまず地下には訪れない、錬金術士とそうでない者の格差も体験しない。
多くの者は綺麗な所だけを体験し、素晴らしい国だと褒め称えているに過ぎない。
「それよりも今の私の興味はカミノテツオだ。何度振られても殺さなくて正解だった、いやむしろ私の元に降るために生き残ってくれたと言っても過言じゃない」
ミクリアや間者を利用して鉄雄の存在を一早く察知し調べていた。『惨劇の斧』が『破魔斧レクス』と変化し、王都に被害無く穏やかに過ごしている異様さ。
好物から行動範囲まで徹底的に調べ上げられ、心からの欲望を探した。しかし、アンナ以外に明確な弱点が見つからなかったことに呆れを通り越して敬意を抱いた程である。
故にアンナについても調べなければならなかった。確実に引き入れるために、父ロドニーという餌をどう魅力的に見せるか、アンナにとって益があるかを伝えるかで。
「カースエリミネイトと言ったか? あそこまで短時間に身体を傷つけず刻印を消し去る術は初めて見た。魔術史に名を残してもおかしくない術、やはり手元に置いて研究したいな。穏便に済ます時は終わり、彼を捕獲する準備も進めておきたいところ、あの子はまだ帰っていないの?」
「あいつか……『堅剛獣グランバリオス』の狩猟に向かって三日ぐらいか……本当にあいつに任せるのか? 言っちゃあ悪いが、討伐は文句ないが捕縛はできそうにないぞ。下手すりゃ腕の一本か二本は──」
「とっておきのアメノミカミセイリュウを出番無く壊されたんだ、どれだけ魅力的な男であっても痛い目にもあってもらわないと腹の虫が収まらないよ、いくら希少で価値ある術を使えてもね。それに、あの子にも手加減を覚えさせるいい教材になるだろうさ」
それはそれ、これはこれ。
『カリオストロ』という組織であっても、素材が右から左に流れてくる訳では無い。普通の錬金術士と同じように外に出て素材を採取する必要がある。
普通に購入すれば豪邸が数軒乱立する程の価値ある素材を大量に使って完成させた。それが雨御神青龍。
まったく活躍させることなく散ってしまったことを思い出し、苛立ちが表情と声に滲み始める。
「あいつの成長速度は半端ねえからなぁ、ビビッて降参するかもな──」
「無様に尻尾を振る真似を見せたら殺しても構わない。私に勝った男が恥を晒してまで生き延びようとする姿は見るに堪えない」
そして、自分が負けた格を落とさない為に理想を押し付けている。事実、メルファに勝利するということはそれだけ難しい。他者に評価を委ねる品評会でも八百長が無ければ賞を総取りしてもおかしくない。
「拗らせてんなぁ……そういや、もうライトニアには攻めることはないのか? あんたの弟子が戻って来たようだしな」
「ソレイユか……あの子は私に次いで優秀な錬金術士で明るく気が利く子だからな。活躍を見ることは叶わなかったが弟子の成長した姿を見るのは中々響くモノがあったよ」
「その弟子と戦う事になるかもしれねえぜ?」
追う者と追われる者。
その状況を理解した彼女は口元が大きく歪んだ。
「今ならお前の気持ちがよく分かる。正義を胸に抱いた愛弟子が本気で私を止めにやってくる。実に心が躍る状況じゃないか! 師弟対決っ! 素直で太陽の名に相応しい明るいあの子が目の色を変えてやってくる。その顔がまるで想像できない……!」
「某の目標をあんたが先に叶えられそうだな……」
「失礼……私の因縁も一先ず休み、しばらくは普段と同じ各国の情報を集めつつ錬金道具の配布及び売却だ」
「了解した。俺も俺で動くとするかねえ」
「好きにしろ。ただ目的を忘れるなよ? 才ある者に正当な評価が与えられる世界を創る。ここはその為に作られた場所なのだから」
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