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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第101話 友の決断

「問題はこれから先だな……」


 正直言って、俺にはこれ以上どうするつもりも湧かない。十年前の戦いは俺は勿論のこと、オーガの村で過ごしていたアンナと因縁がある訳でも無いし、メルファが父親のロドニーさんと繋がっているとも思えない。

 父親の帰ってくる場所を守ることができて満足している。

 ミクさんの事が解決すればこの件とはオサラバと言った所だろう。


「あたしもすごい複雑……先生も言ってたけど、生きてたのは嬉しい。でも、10年前の戦いも師匠が起こしてたと考えると」

「前王を襲ったのも彼女なのでしょうか? 襲われた時間はまだアメノミカミが機能していたはずです。彼女はずっと王都外でアメノミカミを操縦していた可能性が高いですね」

「きっとそうだと思う。あの時は安定して遠隔操作する道具や魔術はまだ精度低かったし」

「変身できる者がやったと考えるのが筋だろう。ラオルを狼狽えさせる程の性能、クラウド王も騙されて仕方ない」

「けれど、メルファさんと判明した以上。ガイアさんとの繋がりはより強固な物となりましたよ。いくら変身できる者がいる事実が判明しても。当時もいたかどうかは……」

「やはり存在しているだけでは父を地下から出す証拠にはならないということか……」


 メルファと結託して前王様を襲った。知り合いであったのならあの時の話に真実味が増してくる。

 変身者を捕まえなければ結局解決しないということだ。


「ならあたし達で師匠に会いに行って捕まえよう! そうすればその人にも繋がる! 弟子として師匠がこれ以上変な道に行かないように止めないと!」

「ああ、そうだな」


 確固たる決意のところ水を差すようで申し訳ないが優先すべき懸念事項が一つある。


「結局のところミクさんはどうなるんですか? あのままずっと牢屋暮らしになってしまうんですか?」

「メルファさんが犯人であることを国民に発表するのは控えた方がいいだろう。騎士団内で情報統制できればいいんだが難しいだろう……それに、残念だが……彼女だけじゃなく家族もライトニア王国にはいられない可能性が高い。カリオストロの誰かに襲われるというよりもあの場にいた誰かが間違った情報を流布し、ミクリアに何をしでかすか分からない。操られていたとはいえ、彼女の身体がアメノミカミを使っていた訳だから」


 納得はできる。王城で見せた大見得切り。

 大勢の人が見てしまった、もう何人もの人に広まっているだろう。


「…………隠蔽しようとは考えてないんですよね?」


 メルファは英雄と呼ばれる程の人物。ガイアさんの知り合いでソレイユさんの師匠。世話になったことがあるだろう、だから大勢に知られないように隠匿し歴史から消す。

 国民に知れて混乱を起こすよりかはマシという保身で動くなら賛成できない。


「王に相談し、彼女達の身を1番に検討するつもりだ。ただしばらくの間ミクリアは牢の中にいた方が安全なのは事実だ。アイズにも丁重に扱うように伝える。信じてほしい」

「信じますよ」


 外に出たら解決。とは到底ならないのも事実。国民の悪意に傷つけられる可能性もある、収容所にいる限り命の心配は無い。


「10年前も含めてアメノミカミを操っていたのはメルファさんと断定していいだろう。だが前王に凶刃を振るった真犯人は不明。その影は踏めたが正体は掴めていない。次の目標ができただけ良しとすべきだろう」

「師匠の居場所も含めてあたし達で探していこう!」


 やる気に溢れ捜索することを声高らかに宣言するが、その目は少し迷いも見えるし声も空元気に感じる。無理に明るく振舞ってるのが痛々しく伝わってくる。


「あの、メルファ、さんってソレイユさんの師匠で間違いないんですよね?」

「うん、そうだよ。マテリアに入学して少し経ってから個人指導してもらえてそれから弟子にしてもらったんだ!」


 そんなことを分かっていながらこれから俺は一つの可能性について追及する。傷口に塩を塗り込むような行為だとしても。

 何故誰も口にしなかったか不思議なことをだ。


「……だったらあなたは彼女と繋がっているんじゃないですか?」

「え──?」


 本人も気付いてなかったのか演技なのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せてくれる。 


「十年前の戦いでは爆発の後にソルを持ってやってきた。今回もそうです、全てが終わってからあなたが現れた。まるで戦いを避けたかのように。俺も命を助けてもらったみたいですけどそれが懐に入り込む算段の一つだとしたら?」

「テツオ……!? いきなり何を言い出している? 本気でソレイユを疑っているのか!?」


 我ながらよくもまあ口が回るものだと思う。恩人に対して酷い疑いだ。

 だが、『もしも』を疑わなかったら最悪に発展しかねない。恩人だから有力候補を疑わないは義理人情じゃなくただのバカだ。俺が無条件で信用するのはアンナだけ。


「俺は神様じゃないんでどんな状況で到着したかは分かりません。でも、圧倒的優位に立てる力があればすぐに終わっていた戦い。だからこそ内通者と疑われない。倒す力を持っているのだから」


 本当に遅れてやって来たのか? 実はタイミングを謀っていて、撤退の口実を与えるだけじゃなく。今後の情報を手に入れるためにきたのではないか?

 変身者もすぐに収容所にやってきた話じゃないか。ミクさんが収容所にいる話を知っているのは王城であの場にいた俺、レインさん、ソレイユさん、メイドの人、アンナ。そしてミクさん。他の人は避難していた。

 必然的にメイドの人かソレイユさんになってしまう。


「あなたが繋がってる証拠はありませんが、繋がっていない証拠もまたありません。ただ師弟関係という事実は揺るがない」

「……やめるんだテツオ」


 やめる訳にはいかない。


「墓を暴かれるのも非常に嫌がりましたよね? もしかして知っていたんじゃないですか?」


 目が潤みそうになりながら首を振るソレイユさん。


「やめろ──」

「レインさんはメルファを捕まえる為に躍起になる。あなたは師匠を守る為に一番近いところで妨害できる。驚くぐらいに筋が通って──」


 バッシィィンッ──!!


「私の親友を侮辱するなっ!! どれだけ助けられたと思ってるっ! どれだけ励まされたと思ってるっ! 勝手な悪意を持った想像で貶める行為は断じて許さない! 私はソレイユを信じている!」

「レイン……!」

「行こうソレイユ。ここにいたらまたいらない疑いを掛けられる」


 ────


「……あの……大丈夫ですかね……?」


 ────完全に思考停止していた。二人の足音が消え去った後、残ったマルコフ先生に声を掛けられてようやく意識が引き戻された。


「だいじょうぶなようにみえたら老眼を疑ってください……まさか同じ個所をより強い力でやられるとは思ってもみなかったです……」


 まさか衝撃で壁にまでよろめくとは思わなかった。自分の身体から発せられ音とは思えないほどいい音が鳴り響いた。

 目がチカチカするし、耳鳴りもする、頬が本当に痛い、痺れて熱い、容赦ない暴力だこれは。

 躾とか愛情とかまるでない、敵に向けた容赦ない一撃だこれ……痛すぎて涙どころじゃない。


「何故わざわざ挑発するようなことを?」

「……俺でも思いつくようなこと、誰だって考え付きますよ。俺より賢いマルコフ先生だって思い浮かんだんじゃないですか?」

「それは……」

「あなたが目を背けようとしてどうするんです? 正義に駆られた人の残虐性は想像を超えますよ。メルファに届かないならその弟子のソレイユさんに石を投げつける代替復讐。レインさんの家族がこの国から逃げたような状況が再び訪れてもおかしくないですよ」


 メルファが生きている。それを知っているのは俺達四人のみ。けど、メルファの弟子がソレイユさんというのは多くの人が知っている事実。

 必然的に結びつくし、想像するだろう。レインさんだってマルコフ先生も気付いていたはず。けれど、口には出さなかった。いや、出せなかったのが正しいかもしれない。

 仲の良さが、過ごして来た日々に思い出に亀裂が入ることを何よりも恐れたんだと思う。


「それは確かに想像しましたが……ですが、彼女が王都を襲う理由が全く思いつかなかったのですよ。レインさんがいますから。あの2人はとても仲が良くて共に冒険するのが当たり前でしたから」

「そりゃお揃いの耳飾り付ける仲でしょうからね。親友のいる国を襲うなんてしないでしょうよ」

「……あえて疑ったのですか!?」


 半分は本気だ。俺はソレイユさんについて何も知らない。親友よりも師匠を取ることだって十分にあり得る。

 

「……俺一人に言われたから反撃できた。もっと大勢の騎士達に問い詰められた時、レインさんはソレイユさんを信じることはできたんですかね? 騎士の皆の同調圧力に屈していたのかもしれません」


 ソレイユさんは多分誰よりも早く疑われることに気付いたと思う。その時レインさんが自分をどう思ってるのか不安も抱いたと思う。

 自分から「信じてくれる?」なんて聞ける訳がない。いくら親友でも、自分の父親を投獄に導いた相手と繋がっている可能性がある時点で「君を信じる」なんて言える訳がない。


「レインさんの真意を知りたかったのですか……」

「言葉には魂が宿るって言います。俺を叩いておいて、やっぱり信用できないなんて言い出したら。逆に叩きに行かせてもらいますよ」


 でも、レインさんはソレイユさんを信じる道を選んだ。俺を叩いてまで決めた。例え大勢が非難を浴びせようとも絶対に支えてくれるだろうし守ってくれるだろう。

 本気の一撃が決意を物語っている。俺の頬が証拠と言える。


「その為にワザと……」

「命の恩人には変わりないんで──」


 これは有り得る未来の予行。

 俺以上に口が回って頭がいい人間なんて沢山いる。そんな人達に悪意を持って問い詰められる未来はすぐ訪れる。その時親友のレインさんがどう動いてくれるか?

 結果は理想的だろう。その為の対価が俺へのビンタは安いモノだ。

 疑って掛ったのは事実だけど、多分シロだ。あそこまで余裕がなさそうな演技はそうそうできるものじゃない。

 向こうが優秀な諜報力を持っていると考え方がいい。ミクさんが収容所に入ることも調べていただけ、王城にまだ残っている人がいた可能性もある。

 それに、本当に繋がっているなら部屋を間違えない。

 俺を説き伏せる材料はいくらでもあったと思う。レインさんもこれを言って俺を納得させて欲しかった……。


「はぁ……これで……本当に一段落かな……?」


 頬の痛みが早く引くことを祈るばかりだ。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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