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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第95話 化ける者

 騎士団本部会議室にて、ミクリア暗殺未遂の会議が始まっていた。

 

「想像通り暗殺を仕掛けて来たようだね。でもまさか正面から堂々と来るとは想像してなかったよ」


 敵にとってのタイムリミットはミクリアが糸を引いていた者の名を告げるまで。

 早い段階で口封じに来ることは予想されていた。ミクリアが入牢されている場所はほんの一部の人間だけが知っている。門番には別の場所を伝えることで守護を成功させた。

 『カリオストロ』の誰かが来ることも予想されていた。捕縛することができればより多くの情報を得られることもできると考えていたが、叶わぬ望みであった。


「面目ねえ……捕まえることができなかった……体は万全だしケガも無いってのに……不甲斐ねえ……」

「そんなに私に化けるのが上手かったのかいそいつは?」

「見た目と声はもう区別がつかねえな」

「へぇ、確かに門番も全然気づいてなかったみたいだしねえ……そうだろ!!」

「はっ、はいぃ──!! 自分は特に何も聞かされていない身でしたので! 室長が越権行為をしたのかと思い──」

「よぉ~し、後でお前には気合入れといてやる。私がそんなことする人間だと思っている思考を矯正してやらないとなぁ!」

「ひぇっ!?」

(するんじゃないのか……)

(やりそうだな……)


 冗談に聞こえない言葉の鋭さ。睨まれた門番は青ざめて虚空を眺めることしかできなくなってしまった。

 本人は「やらない」と口にしているが、周囲の者は「やる」と考えていた。化けた者も同じ考えに至って行動したということである。


「それよりもだ! ワシの妻は大丈夫なのか!? 奴は確かに変身をしたがリオと入れ替わった可能性はないのか!?」

「ちゃんとケガをしてないのは確認したでしょうに。」


 あの戦いの後、騎士の静止も聞かずに焦りと不安で満ちた顔のまま自宅へ直行した。リオの「あんたどうしたの? 忘れ物でもした?」という言葉に力が抜けて膝から崩れ、筋骨隆々強面中老の男には到底似つかわしくない姿だった。


「私は平気でぶん殴ろうとしているのに何たる口だ……縫い合わせてやろうか?」

「けれど、ラオルさんの奥さんに変身できるとは……騎士の妻とはいえ普通の国民、知っている方が不思議だ。それも動揺を誘う程の精巧さか」


 ラオルは「獄炎の獅子」と二つ名が称される程武勲を上げた男。他国でも知っている人間はいる。けれど、彼の妻の姿となると知る者はいない。「いる」という情報だけは知っていても姿、声となれば話はまるで変わってくる。それも、緊急時に相手に最適な姿に化けるとなれば。


「どうやら虫が紛れ込んでいたようだな……破魔斧の男を見張る間者とは違う別の虫。別の誰かに化けて騎士団の根深いとこまで侵入してたか──たく、なんたる様だ!」


 ライトニア王国内にずっといたことになる。違和感なく化けることができれば殆どの場所へ自由に侵入できた可能性もある。


「嘆いていたってしょうがないさ。それとアイズも私達が来るまで眠っていたけれど何があった?」

「分からない。昨日は確かにミクリアのこともあって0時過ぎに眠った、それでも6時には目が覚めるはずだが。それが8時過ぎまでぐっすり……」

「何かを盛られていたということか……?」

「父の時と同じ手口ならアイズに濡れ衣を着させようとしたのでしょう。最も状況を作るのに違和感がないという理由で」


 アイズに化けて収容所に入り、ミクリアを殺害。空間転移で離脱。

 すると、捜査対象はアイズに向けられる。

 化けた者にとっては目的は達成した時点で後の事は関係ない。嘲笑うようにかき乱せればそれでいい。自分の正体に届くことはないのだから。


「だとすれば確実に捕まえるべきだった……しかし何故ワシを配置したのだ? レインがいれば確実に捕まえられたのではないか?」


 空間を超えて逃げようとしても、起動する為には必ず隙ができる。一秒でもあればその時点で逃げられない、例えレインの体勢を崩すことができていたとしても。時を止めるのに特別な体勢は必要はない。


「だからですよ。私の能力は有名になり過ぎた。私が目に見える位置にいなければ奴は絶対に実行しないと思いました。だから、王城内の警備をしていたんです」


 ライトニア王国を攻める際にレインの時止め対策を考えない者は存在しない。

 もしも、あの場にラオルじゃなくレインがいれば何億通りの策があったとしても罠が仕掛けられない時点で詰みである。 

 だから、レインが収容所以外にいなければ作戦の実行は不可能。最低でもそれぐらいの想像はできて当然の相手であるということ。


(レイン! ミクリアの目が覚めたよ!)

(分かった。今から向かう)


 本当にミクリアがいるのはエリア2。エリア3の一つ上の階層。そこにソレイユがいて守護していた。誰が入ってきても錬金道具の罠で待ち構えていれば犯行は不可能であるから。


「どうした?」

「ミクリアの目が覚めたみたいだ。これから話を──」

「よっし!! 私が最初に話を聞きに行こう! 可愛い部下をあんなところに閉じ込めておくわけにはいかないからな!」


 我先にと立ち上がるはアイズ。


「止めないか!? 君がいたらまとまるものもまとまらない!!」

「うちのミクリアと最初に会話するのは室長である私だろう! そんな捻くれた考え修正──おいラオルッ! なぜ私の腕を掴む? 間違えていないか?」

「あっとるわ! レイン! ワシが止めとくから先に行け!」

「すまない!」

「おい! 待て! ──ちっ! とんだワガママ娘だよ!」

「お前と年はそう変わらんだろ……」


 荒々しく腕を払うと、不貞腐れながら椅子に座る。それでも彼女の頭の中ではミクリアを心配することで一杯であった。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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